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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
四日目
66/109

05-12 内膳英知は違和感をおぼえる。

 内膳英知の自宅は学校からかなり離れた場所にあり、当然のごとく彼は路線バスを使用して通学していた。

 バスに乗っている時間はおおよそ四十分。

 しかし、本数が少ないので一度乗り遅れると次の便を三十分以上待つことも珍しくはない。

 地方都市にはありがちなことに、この倉石市も免許や車を持っていない人種には過酷な交通事情を持っていた。

 特に部活に参加しているわけではないのだが、内膳はいつも三十分ほど校内で友人たちと時間を潰してから学校にバス停へとする。

 ちょうど、学校前のバス停にバスが来る時間が終業直後にあたり、どんなに急いでも乗り遅れることがわかっているからだ。

 残念なことに内膳の自宅方面へいく中央高校生はさほど多くはないらしい。

 帰路のバスの中で、内膳が車内に同じ学校の生徒を見かけることはほとんどなかった。

「まあ、市内もこれでなかなか広いしな」

 と、内膳は勝手に納得している。

 中央高校の学区は、倉石市内のほぼ全域と等しい。

 生徒たちの住居も、それなりにバラツいているのだった。


 朝とは違い、この時間のバスの中はかなり空いているし、座れる。

 内膳は、たいてい最後尾のシートに陣取ることにしていた。

 そこからだと車内が一望に見渡せるからだ。

 見渡せるからなにがしかのメリットがあるということも別にないのだが、少なくともバスを乗り降りする乗客を見ていれば退屈さはあまり感じない。スマホの画面を眺めて時間を潰すよりは、いくらかはマシな気がした。

 ……とはいっても、乗客の顔ぶれもほとんど固定していたりする。ほとんどが、買い物や医者へ通うお年寄りで、たまに、自分のような十代以下の子ども。

 二十代から四十代の働き盛りの人たちは、あまりバスには乗らない時間帯だった。


 その日も、内膳はぼんやりと車内を眺めていた。

 そして、ふと違和感をおぼえる。

 見慣れた、車内の風景。

 しかし、どうにもおかしいところがある。

 具体的に、「なにがおかしい」とは指摘できないのだが……。

 痒いところに手指が届かないような焦燥感にかられながら、内膳は目を細めて「違和感の原因」を探るように車内の光景を、もう一度点検しはじめる。

 停車場に着くたび乗客は増えつつづけ、今ではほとんどのシートが塞がっていた。若干、空席があるので、満席というわけではないのだが……。

 しばらく車内を見渡してから、内膳はようやく違和感の原因に思い当たる。


 ああ、そこだ。

 昇降口のすぐ横。

 普段なら、すぐに降りる誰かしらが立っているはずのその場所に、なぜか、不自然な空白ができている。

 ちょうど、一人分が立っていられる程度の空間が。

 まるで、その位置に透明人間でも立っているかのように、バスから降りる人々はそこだけを避けて移動していた。

 不自然だ。

 と、内膳は思う。

 なぜか、動揺もしている。


 透明人間……という単語を脳裏に浮かべた瞬間から、内膳は、自分がなにか重要なことを忘れ去っているような気がしてしかたがなかった。

 そして、できるだけ今感じている動揺が、表には現れないように、表情を変えないように気をつけようとした。

 どうしてか……ということまでは、内膳自身にもわからない。

 ただ、ひどく不安な気分になったことだけは、確かだった。


 なにを動揺しているのだ! と、内膳は自分自身を叱責する。

 ついこの前までとは違い、今の内膳は、スキル『デリンジャー』を所持している。

 小口径の単発銃であるとはいえ、事実上、銃器を所持しているのと同じことだった。

 実質的にいえば、現代日本社会の中では、かなり強力な武装をしている、ということになる。

 たいていの相手は、今の内膳の敵ではない……はずだ。

 相手が、内膳の『デリンジャー』と同等か、それ以上のスキルを所持しているのでなければ……。

 と、そこまで考えたところで、内膳は、はっとあることに気づいた。


 相手が、同じクラスのスキル所持者であったと仮定したら、どうだろう?


 たとえば……自分の姿を、他者の視線から完全に遮断するようなスキル……とか。


 ありえないことではない、と、内膳は思う。

 内膳が知る限りでも、リライターが用意したスキルの数々は、物理法則や常識を飛び越えた性能を持っている。

 そのようなスキルがないとは、誰にも断言できない。


 だとすれば……そういうスキルの持ち主が、自分を追ってこの車内まで追いかけてきている……と、そう仮定して動いておいた方が、無難だろうな。

 と、内膳は素早く考えを巡らせた。

 杞憂であれば、それでもいい。

 だが、このままいけば……おそらく、その仮定の相手は、内膳が油断したとき、あるいは、周囲に人気が完全に途絶えて、邪魔が入らなくなったときに襲いかかってくるだろう。

 学校内で襲ってこなかったのは、恐らくは途中で邪魔が入るのを恐れたため。

 学校には、同じようなスキル持ちがまだまだ大勢居るのだ。

 公然と戦いをはじめれば、どんな介入があるのか予想着かない。

 それに、今、この車内で手を出して来ないのは……単純に、走行中のバスという密室内で暴れたりすれば、自分自身もろとも事故に巻き込まれかねないと、そのように判断したからだろう。


 おれが相手の立場だったら……と、内膳は考える……帰り道をどこまでも追跡して、もし、いい機会に恵まれればその場で襲撃。

 そうした機会がなかったとしても、自宅までつきまとって、おれの生活パターンなどを把握して次の襲撃に備える。


 首尾良くいけば、襲撃。

 それが難しければ、監視対象についての情報収集。


 おれがやつだったら、そう想定して動くはずだ。

 と、内膳は結論した。


 だとすれば、おれは……。

 ここまで考えたことを気づいていないふりをして、逆に相手にとって不利な場所までおびき寄せる……か。

 少なくとも、まっすぐ自宅に帰る、ということはしない。

 人気がなく、しかし、どうやら姿を消すスキルを持っているらしい相手にとっては、不利になるような場所……。

 少し考えて、内膳はすぐにある場所を思い浮かべる。


 そうだな。

 あそこでなら、いい勝負ができるのかもしれない。


 内膳は、考えていることが表情に出ないように抑制をしながら、自分の思いつきに対して自画自賛をしていた。


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