05-11 黒森永遠は見守っている。
黒森永遠はゲームが開始されて以来、スキル『フェアリーテイル』を使用して、みずからが「要注意人物」と目したクラスメイトを監視を行っていた。
それ以外のことはほとんどやっていない、ともいえる。
「ほとんど」という但し書きがつくのは、実際にはスキル『フェアリーテイル』を通じて「対象の運を悪くする」ことも何名かは行っているからだった。
具体的にいうと、この時点では、黒森永遠は知念はなと叶治郎の二人の運を落としている。
それがどの程度の効果があるのかはなかなか確認できないのだが、知念はなに関しては大小あわせてかなりのポカをしてときには窮地に陥っているので、それなりに効果はあるのだろう……と、黒森は思っている。
叶に関していうのなら、昨日、田所一を挑発して決闘に持ち込もうとして、軽くあしらわれたのが強いていえば「不運」に入るのか。
とにかく、その二人に関しては、黒森は純粋に危機感をおぼえているので、早めにゲームから退場して貰いたいと思っていた。
ゲームに対する……いや、他のクラスメイトに対する敵愾心を隠そうとしないこの二人は、黒森にしてみれば「危険人物」にしか見えなかった。
その他にも黒森は、数名の生徒たちに『フェアリーテイル』の見えない妖精を張りつけて監視をしていたわけだが、そちらの生徒たちには「不運」をつけるようには命じていない。
これまで監視してきた結果、
「今のままなら放置しておいても問題はない」
と判断したからだった。
どうした加減か、初日のテストプレイのときに弾けていた三峰刹那、田所一などの動きは鈍かった。
いや、瑠河狩りのときやそのあとの七重芹香と路地遙が組んで朝っぱらか騒動を起こしたときなどにはそれなりに活発に動いてはいるのだが、どうした加減か自分からは動き出そうとはしていない。
三峰は毎日のように部活で汗を流したあと、自宅に帰ってから入手したスキルのレベル上げを地道に行っていた。
田所に至っては、ほぼ毎日学校が終わるとかなり離れた場所にある中央病院まで、自転車を飛ばして通っていた。
テストプレイのときの様子などから判断すると、この二人はゲームに関してはかなり積極的な印象があったので、黒森に目には彼らの態度が意外に映った。
その二人以上に、不可解な……いや、静かすぎて不気味にさえ感じる生徒が、一人、居る。
有坂誠。
彼は、テストプレイのときにあの三峰の『エアタンク』をほぼ単独で破った実績を持ちながらも、今のところ、それ以降、ゲームに関わろうとしていなかった。
部活にも入っていない有坂の毎日は、かなり単調でもある。
朝、かなり早くから起きて一時間以上のロードワーク。シャワーを浴びて朝食。登校。
帰ってきてからは、再びロードワークと自宅の車庫内で腕立てや腹筋などを二時間ばかりぶ通しで続けてから、夕食。
夕食が終わってからは、机にむかって宿題や予習復習などを行い就寝。
同居している家族は、看護師をしている母親だけらしかった。この母親は、仕事柄かかなり不規則な生活をしているらしく、食事の支度をはじめとする家事も半分以上は有坂自身が負担している様子だ。
単調というかストイックというか。
とにかく、十六歳になる男子の生活とは思えないほどに地味であることは確かだった。
もしかしたら、本気でアスリートになることを目指しているのかもしれないな、と、知念は思う。
それも、まず間違いなく、プロボクサーだ。
その割には、ジムなどに通っている形跡がないのが不可解ではあるのだが……。
部活をしているわけでもないのに、そこまで毎日地味なトレーニングを続ける動機が、知念には他に思い浮かばなかった。
その他にも知念は、内膳英知や自称魔法少女の四人組などもスキル『フェアリーテイル』を使って監視している。
そうした人たちの反応というか、このゲームに対する反応は、前述した三峰、田所、有坂の三人と比較するとかなりわかりやすかった。
唐突に手に入れたスキルについて興奮し、日々レベルあげを行っている。
ゲームに勝つことよりも、スキルを手に入れたことを喜び、スキルを使えるという事実自体に淫しているようにも見受けられた。
なんというか、妙にひねくれておらず、「反応が素直」なのだ。
これらの生徒たちについても、黒森は「過剰に警戒をする必要はない」と判断している。
彼らが持っているスキルの威力を過小評価しているわけではないのだが、彼ら自身の思考は、十分に理解も予測も可能だ……と、黒森は判断している。
黒森が警戒するのは、「なにを考えているのかわからない相手」、あるいは、「次の瞬間になにをやらかすのか想像できない相手」である。
知念はなと叶治郎の二人は、黒森にとってこの条件を満たしていた。
その知念はなが、ついに動き出した。
授業が終わったあと、内膳英知を尾行しはじめたのだ。
瑠河狩りの際に、知念はこの内膳に、手酷い真似をされていた。
その意趣返し……というわけでもないだろうが、知念は、まずその内膳を標的に定めたようだ。




