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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
一日目、放課後
6/109

02-01 ゲームスタート、瀬川太郎、スキル『見取り稽古』

 《スキル喪失者が十名に達しました。

 これにてテストプレイを終了します。》


 そのアナウンスが一年D組の生徒全員の頭に響くのと同時に、教室内の様子はホームルーム開始時と寸分違わないものとなった。

 倒れた椅子や机はもちろんのこと、田所一がスキル『ジャック・ザ・リッパー』で斬りつけた自分の席の机も、三峰刹那がスキル『エアタンク』の主砲で開けた天井や壁の大穴も、倒れたりどう見ても死んだとしか見えなかった生徒たちも、ホームルーム開始時の健在な姿に戻り、それどころか、自分の席に着いた状態で復活していた。

 生徒たちは、近くの席にいる生徒たちと顔を見合わせる。

 つい先ほどまでの光景が夢か幻覚かなにかだったのではないのかと疑っている様子だった。


「ええ、それでは、ゲームのチュートリアルは、以上で終了します」

 半信半疑な生徒たちの耳に、高杉先生の声が入る。

「ゲームについてなにか質問がある人は、教職員の誰かに問い合わせてください。

 ゲーム中は、学校の教職員がリライターへの窓口として機能します。

 それでは、本日はこれにて解散」

 本日はこれにて解散。

 高杉先生が、授業やホームルームを終わらせるときに使う決まり文句だった。

 いうだけのことをいい終えると、高杉先生はそのまままっすぐ教室から出て行ってしまう。


「……マジかよ」

「夢じゃなかったのか」

「なんだよ!

 おれの、ゴミスキルじゃないかっ!」

 生徒たちが、ざわめきはじめる。

 それぞれ、自分のスキルの詳細を表示させた結果、さきほどまでの光景が夢でも幻覚でもなかったことを確認したようだった。


 田所一は舌打ちをして、渋面を作りながら一番最初に教室を出ていった。そのあとに、黒森永遠や芦辺素直が続く。

 睦月庵は、前の席の男子生徒に、

「ドンマイ!」

 などと声をかけている。

 その男子生徒の名は眞鍋伸吾。

 さきほど、

「おれの、ゴミスキルじゃないかっ!」

 と叫んだ生徒だった。


「……なんか、妙なことになっちゃったね」

「いや、本当」

 頼衣玉世と新堂零時は、顔を見合わせてそんなことをいいあっている。

「頼衣さんのスキルはあれだからいっちゃうけど、おれのスキル、自分のためにはまるで役に立たないんだよね」

 ……どうしたもんかなあ、と、新堂は天井を仰いだ。

「でも、他の人が使うよりは新堂くんが使っている方が絶対いいよ、ナイトシールド。

 新堂くんなら、絶対に悪用しないだろうし」

「そうかなあ。

 このスキル、悪用のしようもなさそうだけど……」

「ええっと……たとえば、いうことを聞かないと守ってやらないぞ、みたいに脅すとか?」

「はは。

 なんだ、そりゃ」

 軽口を叩いてから、新堂は頼衣の耳に顔を近づけた。

「……頼衣さんからみて、危ないことをしそうなやつ、いる?」

「ちょっ!

 新堂くん、それ、こそばいっ!」

 頼衣は顔を真っ赤にして、上半身を新堂の反対側に反らせた。

「内緒話をしたいのなら、別の場所にいどうしようよっ!」

 そういって立ち上がった頼衣は、ふと顔をあげて瀬川太郎と目があい……そのまま、目を見開いて硬直した。

 瀬川も、なんとも複雑な表情をしている。


 西城沙名、辺見洋子、夢川明日夢、奥地八枝は教室の中央付近にある辺見洋子の席に集まって、

「今のうちら、すごくね?」

 などといいあっている。


 三峰刹那は青い顔をしてしばらく自分の席で頭を抱えていたのだが、しばらくして気を取り直したのか、いつものようにやけに良い姿勢で教室を出ていった。


「と……都井さん」

 矢尻知道は隣の席の都井宮子に声をかけている。

「あの、さっき、スキルを貰ってくれる人がいたら譲るっていってたけど……」

 都井は矢尻の顔を不機嫌な表情で一瞥したあと、

「あれは、止めます。気が変わりました。撤回します」

 と、少し大きな声を出した。

「仮に撤回しなかったとしても、なんで矢尻くんにあげなければならないのっ!」

「そ、そう。

 その、ぼ、ぼくは……と、都井さんが欲しくない、いらないというから……よかれと思って……」

 かなり太目な体型の上、多汗症でプレッシャーに弱く、なにかあると動転して吃音が出る矢尻知道は、これまで他のクラスメイトと交流してこなかった。入学してから日も浅いし、まだまだ焦る時期ではないのかも知れないが、今のところ男女問わず、友人と呼べる者はいない。

 女子の中でもかなりルックスがよくて男子生徒の間でも人気が高い都井宮子にはなしかけるのにも、なけなしの勇気を振り絞る必要があった。

 その動機も、あくまで都井の希望に添って、都井の重圧を取り除きたいという親切心がからであり、それ以外の下心はなかったのだが……都井は、そう受け取らなかったようだ。

 スキル『愛の鞭』を発現させて矢尻に一閃。

 かなりきつい調子で、

「もうつきまとわないでっ!」

 と命じる。

「よ……余計なことをいって、ごめんなさい」

 矢尻がごもごもと口の中で不明瞭な詫びを入れている間に、都井は鞄を持って教室を出ていく。


「ははは。

 振られちゃったなあ、矢尻」

 その様子を見ていた調子者の渡来が矢尻の肩を軽く叩いてから、教室を出ていく。


 西城沙名、辺見洋子、夢川明日夢、奥地八枝の四人は、

「今の見た?」

「きっついなー、都井さん」

「ツンツン系だね、彼女」

 などと無責任にいいあっていた。

「それはそうと、うちら全員、魔法使い系じゃね?」

「そーだねー」

「氷と風と火と土。

 おお。

 お約束の四大元素が揃ってる!」

「これで光と闇があれば無敵だね!」

 今の時点では、彼女たちはあまり未来のことには想像力を働かせることはなく、無邪気に与えられたスキルのことを喜んでいた。

「でも、全員魔法系のパーティっていうのも不安じゃね?」

「物理攻撃系の面子、何人か欲しいよね」

「壁だよ壁!

 今のわれらに必要なのは頼りになる壁役じゃ!」

「でも、委員長とか田所はやだなー」

「わかるわかる。

 いくら強くても、いきなり暴発するのはやばいべよ」

「ということで……あっりさっかくーん!」

「おお! 八枝っち、ここで逆ナンか!」

「黙れ。

 ねーねー、有坂くん。

 近くの席のよしみで、しばらくわたしたちと組まない?」

 自分の席で汗を拭っていた有坂は、面倒臭そうに奥地八枝を見返すと、

「悪いが、おれのスキルは防御にはむいていない。

 それに今は、早くかえってシャワーを浴びたい」

 とだけいって席を立ち、教室を出ていく。

「あ、そんなこと!

 さっき委員長からエアタンク、奪取したばかりじゃん!」

「奪取っていえば、八枝っち。

 八枝っちもさっき、田所のジャックなんとかってスキル奪取していたよね?」

「ああ、あれ」

 夢川明日夢のそういわれて、はじめて奥地八枝は自分が獲得したスキルを参照しようとした。

スキル:

 ファイヤ・スターター Lv.24

 ◇攻撃系

『攻撃対象を炎で包む。

 威力はレベルに依存』


サブスキル:

 ジャック・ザ・リッパー Lv.1 ◇攻撃系

『なんでも切り裂く見えない刃物で攻撃。

 攻撃範囲はレベルアップするにつれ、より長くなる』

「うん。

 なんか、サブスキルって出ている。

 ジャック・ザ・リッパー、レベル一、だって」

「レベル一、か」

「奪取したスキルは、レベルがリセットされるのかな?」

「そうじゃね?

 そうじゃなけりゃ、ゲームバランスが悪くなるし」

「奪取したスキルが多すぎても育てる手間を考えたら、結局、使い慣れたのに頼るような感じになるのかな」

「スキルって、使えば使うほど強くなるんかな?」

「基本、そうじゃね?」

「それよりも壁役だ、壁役。

 有坂っちに振られちゃったから、あと有望そうなのは……」

「ええっと……新堂くん……は、もう玉世ちゃんとつるんじゃったか」

「あ。

 七重と路地も合流しているし」

「なにげにハーレムだな、新堂くん」


「……どうしたの?

 頼衣さん」

「う……ううん、なんでもない!

 あとではなすね!」

 頼衣の表情と物腰からこの場でははなせない内容なのだと察した新堂は深く追求しなかった。

「やあやあ。

 さっきはどうも」

「せっかく忠告して貰ったのに、無駄にしちゃったなあ」

 そんなことをいいながら、七重芹香と路地遙が近寄ってくる。

 とはいっても、七重が新堂の前の席、路地が新堂のうしろの席であり、ほんの数歩近寄ってきただけのことなのだが。

「……お前ら、さっき機銃で撃たれて蜂の巣になってなかったか?」

「面目ない」

「はははは。

 わたしら、考えるよりも先に体が動く体育会系なもので」

 七重は水球部に在籍していて、路地は、今は部活こそやっていないが、中学まで女子サッカーでかなり活躍していたとかいっていた。

「新堂くん、さっきいってたけど、自分の身を守れないスキルなんだってなあ」

「それじゃあ、しばらくはわたしらがボディーガードするよ。玉世ちゃんといっしょに」

「そのかわりといってはなんだけど……」

「さっきみたいにやられないように、わたしたちのことも支援してくれ」

 物理的な守備力を新堂に、情報的な補佐を頼衣に……ということらしかった。

 新堂と頼衣は、顔を見合わせて頷きあう。

「これ以上の詳しいはなしは、場所を変えてやったほうがいいね」

 新堂はそういって、自分のバッグを手に取った。


「……新堂くんも駄目、ってことになると……」

「あれ?

 さっき、委員長に楯突いていた動けるデブ、いなかったけか?」

「ああ、なんか居たなあ。

 委員長のタンクの轟音にかき消されそうな、小さい音をパンパン鳴らしてたのが」

「丸っこい指に不釣り合いなちんまりした銃を持ってな」

「おーい!

 短小拳銃をお持ちの内膳くーん!」

「ちょっとこっちゃこいや、動けるおデブちゃーんっ!」

「英知っち、こっちこっちぃーっ!

 ……英知っちっていいかた、ちょっとエッチじゃね?」

「お前のその発想のがエッチだよ」

「……お前らなあ……」

 文句をいいながらも、内膳英知は女子四人組のもとへとやってきた。

「短小だの動けるデブだのエッチだの、教室の真ん中で叫ぶなよ」

「そういいながらも来てくれる内膳くんであった」

「よかったなあ、英知っち。

 これで英知っちもハーレムだぞ、ハーレム」

「これ以上、嬉しくないハーレムもそうはないだろうけどな」

「あ。

 今、なにげに酷いこといわれた気がする」

「それよりもさあ。

 カラオケいこうよカラオケ!

 パーティ結成記念に!」

「いいね、カラオケ!」

「いこういこう」

「あれだ。

 さっき失礼なことをいってた英知っちの奢りでな」

「誰が奢るか!」

 ついに、内膳がキレた。

「失礼の度合いなら、お前らの方が数段上じゃないか!

 それに、おれはまだお前らと組むとは決めてないからな!」

「いいから、いいから」

「まー、ワリカンでもなんでもいいから、とにかく来なさい」

「この五人で固まって歩けば、攻撃力だけならそこそこあるし」

「そうだね、うん。

 攻撃力だけ、ならね。

 安心といえば安心か」

「委員長ひとりに太刀打ちできなかった程度の攻撃力だけどな」


 ……なんだ、これは。

 人影がまばらになった教室で、瀬川太郎は戸惑っていた。

 瀬川が戸惑っている原因は、現在の瀬川のステータスにある。

スキル:

 見取り稽古 Lv.12 ◇特殊系

『使用時のスキルを見ることによって、同じスキルが使用できるようになる。

 その数に制限はないが、一度取り込んだスキルは自力ではレベルアップできない』


現在使用可能なスキル:

 チェーンコンボ Lv.42 ◇攻撃系

 デリンジャー Lv.26 ◇攻撃系

 ファイヤ・スターター Lv.24 ◇攻撃系

 アイスエイジ Lv.24 ◇攻撃系

 疾風怒涛 Lv.24 ◇攻撃系

 スカウター Lv.23 ◇支援系

 ナイトシールド Lv.14 ◇支援系

 ジャック・ザ・リッパー Lv.6 ◇攻撃系

 パニックボム Lv.5 ◇攻撃系

 愛の鞭 Lv.4 ◇特殊系

 エアタンク Lv.3 ◇万能系

 捲土重来 Lv.2 ◇特殊系

 チュートリアルの場に居合わせ、目撃していただけでこれだけのスキルを獲得できた。

 あの最中にもっとも多くの他者のスキルを奪取することに成功したのは、スキル『エアタンク』のユーザーである三峰刹那だと思う。

 しかし、瀬川自身が取得したスキルは、三峰のそれを上回る。

 スキルが発動する現場を見るだけで、そのスキルをコピーすることができる……という瀬川のスキルは、反則級に強力だった。

 さほどリスクを背負わず、高見の見物をしているだけで他人のスキルをものにできるのだから、これ以上有利なスキルも他にはないだろう。

 だが……これからが、問題だな。

 瀬川はそう思う。

 今の時点で有利であるといっても、今後もそうであるとは限らない。

 特に、さきほど三峰や田所がやったように、衆人環視の中で暴れるなどという短絡的な行為は厳禁だ。大勢に取り囲まれて潰されるのがオチだ。

 それよりもしばらくは静観して、状況を見定めてから動く方がいいだろう。

 なにしろ今の瀬川は、スキル『スカウター』までコピーしているのだ。

 ……などと考えていると、そのスキル『スカウター』の元の持ち主、頼衣玉世と目があった。

 瀬川と目があうと、頼衣は一瞬顔を強ばらせて、すぐに目をそらす。

 あ。

 バレたな、と、瀬川は思った。

 スキル『スカウター』のユーザーである頼衣は、当然のことながら瀬川の現在のステータスを見ることができる。

 ひょっとしたらなにかのスキルが『スカウター』の探知能力から逃れる機能を持っているのかも知れないが、今の瀬川が持つスキルの中にそんな機能の持ち主は存在しなかった。そのほとんどが攻撃系であり、あと少し、支援系や特殊系が混ざっている。

 三峰が持っていたスキル『エアタンク』は万能系に分類されるようだが、先ほど配られたプリントを確認すると、やはり万能系のスキルはこの『エアタンク』のみのようだった。

 その割には、脆いところもあるけどな、と、瀬川は思う。

 スキル『エアタンク』の防御力はなかなかのものだが、一部の特殊系スキルの攻撃はうまく防御できないようだった。

 たとえば、今瀬川が持っているスキルの中では『愛の鞭』の能力が『エアタンク』の防御をすり抜けられる。それだけではなく、スキル『ナイトシールド』の能力も、スキル『愛の鞭』の前では無効となる。

 他にもそんな例があるのかも知れない。

 そんなことを考えると、今の時点で多少有利であっても、あまり安は心できなかった。

 はやり、情報収集を急ぐべきだな、と、スキル名一覧が記載されているプリントを見ながら、瀬川は考える。

 まだまだ正体や正確な機能が不明なスキルが多すぎるのだ。

 とはいっても、ほとんどの生徒はすでに教室から出て姿を消していたのだが。

 ……今日のところは、帰るか……と瀬川は思う。

 まだ初日。

 ここで焦って大きな失敗をしないとも限らない。

 まずは帰って、手に入れた情報を整理しておこう。

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