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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
チュートリアル
5/109

01-04 テストプレイ(三) 有坂誠、スキル『チェーンコンボ』

 そういったのは、小柄な少年だ。

 コンコンコン、と拳で三峰のスキル『エアタンク』の装甲を立て続けに叩いている。

「なんの真似だ、有坂」

 三峰が目を細めて、その少年を睨む。

「そんなことをしても、効果はない」

「それは、どうかな?」

 有坂誠は、静かな口調で答えた。


 コンコンコンコンコンコン、ゴン、コンコンコンコンコンコン。


 素早いジャブを連続で叩き込み、そのあと右ストレート、再び左のジャブ。

 挙動が、様になっている。

「お前は、おれのスキルがどういう性質のものであるのか、知らない。

 万が一、っていうこともあるぜ」

「もう一度いう、有坂」

 三峰が、有坂の顔に視線を据えてそういった。

「お前のボクシングでは、戦車は倒せない」

「お前の戦車でも、おれは倒せない」

 有坂は、あくまで静かに返す。

「これだけ近づいちまえば、戦車の攻撃を避けるのなんて簡単だ。

 なまじ図体がデカいもんで、次の動きが手に取るようにわかる」

 そういっている間も、有坂は拳を三峰の『エアタンク』に叩きつけることを止めない。


 コンコンコンコンコンコン、ゴン、コンコンコンコンコンコン。

 コンコン、ゴン、コンコンコンコンコンコンコン、ゴンゴン、コンコンコンコンコンコン。

 コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン……。


「……いい加減にしろよ、有坂……」

 三峰は、やけに静かな声でそういった。

「実害がないとはいっても、いい加減に鬱陶しい。

 ……本気で潰すぞ」

「やれると思っているのなら、やってみるといい」

 コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン。

「おれがお前の鼻をへし折ってやる」

 コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン。


 コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン。


「……っの野郎!」

 三峰が激昂したとき、有坂は右手の拳を力強く虚空へ突き出す。

 ガツン!

 と、大きな異音が発生した。

 右、左、右……と、有坂はその方角に何度も拳を突き出す。

 そのたびに、ガン! ゴン! ゴン!

 と、大きな異音が発生した。

「聞いたか? 今の音。

 これはな、三峰。

 お前の戦車の見えない主砲が、ひしゃげた音だ。

 お前の砲弾は、もうまっすぐ飛ばない。

 それどころか、発射した途端に暴発する恐れさえある。

 おれは、戦車の構造とか弱点には全然詳しくはないから、なんともいえないがな。

 試してみるか? 三峰」

 有坂は、静かな口調で説明した。

「おれのスキル『チェーンコンボ』は、攻撃が連続している限り、徐々に威力が増していく。

 最終的には、どこまで威力が増大するのやら……。

 ひとつ、戦車の装甲が打ち抜けるものか、試してみるか?」


スキル:

 チェーンコンボ Lv.32 ◇攻撃系

『自分の拳で殴る。その際、拳は力場により保護される。

 攻撃が続く限り、一撃の威力は増大し続ける』


「……もう、レベルがあんなに……」

 スキル『スカウター』のユーザーである頼衣珠世は有坂誠のステータスを読みとって、小さく呟く。

「スキルの成長率と、それにスキル本来の性能をあわせて考えると……いけるかも知れない」

 これまで、さんざん他人のスキルについて言及しているので、頼衣は臆することなく解説役を務めることができた。

「頼衣さん。

 ひょっとして……他人のスキルを読めるスキル?」

 新堂零時が、声をかけてきた。

「うん。

 そう」

 頼衣は、あっさりと首肯する。

「スキル名、『スカウター』だって……。

 いかにも、っていうか、モロっていうか……絶対、あのマンガからだよね。このネーミング」

「おれの『ナイトシールド』に比べれば、まだマシだよ」

 新堂は情けない顔になった。

「なんだよ、騎士の盾、って。

 いかにも中二病くさい……」

「でも……新堂くんのスキルの性格を忠実に表現している気がするし。

 それに、それをいったら委員長の『エアタンク』なんて、かなり……」

 頼衣も、なんとも複雑な表情になった。

「自分でスキル名を選べたら、絶対これだけは選ばない、ってみたいなのばっかりそろっている気がする。

 リライターとかいう人たちの趣味なのかな?」

 この二人、隣の席同士であるため普段から会話をする機会は多いが、特に親密な関係というわけでもない。


 教室の前方で三峰刹那、対、内膳英知、西城沙名、夢川明日夢、奥地八枝、それに有坂誠による闘争が続いているが、他の生徒たちはすっかりやる気をなくして、あるいは、気を失った状態で教室のうしろの方に待避している……というのが、現在の状況であった。

 新堂は、レベルがあがって保護対象の数が増えたスキル『ナイトシールド』を使用して、三峰に相対している五人を物理的に保護している。

 この場で積極的に戦おうとしている生徒がいない以上、次に状況が変わるのは、前方の対委員長戦が終わったときだろう。

 その前に、あと三名の脱落者が出てこのテストプレイ自体が終了する可能性も、多々あるのだが……。

 要するに、新堂も頼衣も、その他の生徒も、暇だったのだ。


「格好いいなあ、有坂くん!」

 対委員長戦を観戦していた女生徒が、感嘆の声をあげる。

「なになに、芹香ちゃん。

 惚れちゃった? ラブなの?」

 別の女生徒が、七重芹香にはなしかける。

「そんなんじゃないよ、遙ちゃん」

 七重は、にやけながら答えた。

「よくあるじゃん。

 少年マンガ的なシュチュエーションで。

 みんなが絶望したそのとき、颯爽と現れる主人公!

 って……」

「ああ、なる」

 路地遙は、あっさりと頷く。

「芹香ちゃん、ああいうベタなの好きだもんねー」

「さて、ベタなのが好きなわたしとしては、ここで加勢しておかないとな……」

「いくの?

 いっちゃうの?

 芹香ちゃん?」

「いくいく。

 あたしのスキル、ちょうど遠距離攻撃用だし、援護射撃程度はできるかな、と。

 ついでにレベルアップができれば、なおよし」

「あー。

 芹香ちゃん、いっちゃうのかー」

 路地はわざとらしく詠嘆した。

「それじゃあ、あたしもつき合おうかなー……なーんて……。

 ちょうどわたしも、攻撃系のスキルだったりするしぃ」

 七重と路地の二人は、顔を見合わせて一度、頷くと、教室の前方へとダッシュする。


「……あっ!

 馬鹿!

 お前ら……」

 背後から二人を制止する新堂の声が追いかけて来たが、それは完全に無駄な行為となった。


 二人は三峰のスキル『エアタンク』の機銃斉射を受け、瞬殺したのだった。


〈七重芹香が大ダメージを受けました。

 七瀬芹香は戦意を喪失しました。〉

〈路地遙が大ダメージを受けました。

 路地遙は戦意を喪失しました。〉

《七重芹香のスキル『ロングショット』が三峰刹那に奪取されました。》

《路地遙のスキル『キッカー』が三峰刹那に奪取されました。》


「……今、三峰と戦っているやつらは、おれの『ナイトシールド』で保護されているっていうのに……」

 新堂は、頭を抱えた。

「なんの用意もせずに、まっすぐ走ってくやつがいるか……」


 ちなみに、二人のスキルは以下の通りとなっている。

スキル:

 ロングショット Lv.1 ◇攻撃系

『物体を投擲することにより攻撃。

 威力や命中精度はレベルに依存』

スキル:

 キッカー Lv.1 ◇攻撃系

『対象がスキル保有者である限り、蹴りの威力が増す』 


 ドガン! ドガン! ドガン! ドガン!

 と、有坂誠の拳が炸裂する。

 今や、一撃一撃が、相当に重い。

 有坂のスキル『チェーンコンボ』の基本性能と、それに、有坂自身の身体能力がうまくマッチした結果だろう……と、そばで観察していた内膳英知は、そう思う。

 流石に汗まみれになり、息が弾んでいるものの、有坂の挙動に疲れた様子は見えなかった。

 有坂は、男子の中でも背が低い方で、クラスの誰とも積極的にしゃべろうとしないこともあり、決して目立つ生徒ではなかったのだが……これだけの動きをこなせるようになるまで、いったいどれほどのトレーニングを積んできたのだろうか?

 とにかく、付け焼き刃やズブの素人の動きではなかった。

 何年か、ちゃんとした指導を受けて、正しい殴り方を自分の体に染み込ませてきた動きをしていた。


 まだまだ余裕がある有坂に比べ、最初のうち威勢のよかった三峰は、今ではすっかり黙り込んでいる。

 打開策が見えないのだろうな、と、内膳は思う。

 少し前に有坂が指摘した通り、三峰の『エアタンク』は、なにをするにも鈍重で、音をたてる。

 砲塔を回すにせよ、履帯を動かすにせよ、事前にそうと察知でき為、余裕で回避が可能なのだった。

 ましてや、今は主砲を封じられ、機銃による攻撃も新堂のスキル『ナイトシールド』のおかげで致命傷とはならない。

 こうなると、特に有坂のスキル『チェーンコンボ』が発動している限り、三峰には逃げ場がなくなっているのだった。 

 内膳たち四人も攻撃を続行してはいたが、『エアタンク』相手ではどうにも分が悪い。たいしたダメージも与えられず、しかし、三峰の注意を分散する程度の役割は果たせていた。

 それと……レベルアップ、だな……と、内膳は密かにほくそ笑む。

 頑強な『エアタンク』を相手に執拗に攻撃をしかけることによって、内膳のスキルレベルは急速にあがっていた。おそらく、西城、夢川、奥地の三人も、事情は同じだろう。

 テストプレイが終了しても、レベルは持ち越しできるということだった。

 だとすれば、現在かなりのレベルがあがっている内膳たちは、それだけ他の生徒たちに比べてアドバンテージを得ている、ということになる。

 仮にこの場で三峰を倒せなかったとしても、まったくの無駄にはならないのであった。


 ドガン! ゴガン! ドガン! ボガン! ドガン! ドガン!


 有坂の打撃音は、ますます凶暴なものになっていった。


 三峰は……可哀想に、今ではうつむいて、今にも泣きそうな表情になっている。

 もともと、プライドが高い少年なのだ。

 自分から降伏することも、このままなす術もなく有坂に吹き飛ばされることも、性格的に耐えられないのかも知れない。

 確か、三峰、って……市議かなんかの息子、だったような。

 と、内膳は普段は気にとめない噂を思い出す。

 とにかく、昔から負けず嫌いで、なんでも一番でなければ気が済まない性格だった……と、三峰と同じ東中の出身者から、聞いたような気がする。

 本人もかなりの努力をして、今まで「なんでも一番」を維持してきたようだが……だとすれば、これがはじめての挫折ということになるのか。


 有坂のパンチはさらに威力を増し、今では一撃ごとに三峰の『エアタンク』が浮きあがるようになっている。

 おそらく、三峰の『エアタンク』は、実在の戦車を何分の一かの縮尺した格好をしている……らしいのだが、なにしろ姿が見えないので確認はできない。

 それでもしかし、たとえ何分の一サイズのミニチュアであろうとも、人間のパンチごときで浮きあがるというのは、尋常な事態ではなかった。

 恐るべきは、有坂のスキル『チェーンコンボ』。

 その性質が本当に正しかいものだとしたら、一撃の威力は理論上、無限に増大していくことになる。


 遠巻きにして事態を静観していたクラスメイトたちも、すっかりその気になって有坂のことを声援している。

 その声援が、ますます三峰の精神を追いつめてもいた。


 有坂は……無心に、拳を振り抜くことに専念している……ように、見えた。

 おそらく、その瞳には、三峰も内膳も、その他の同級生の姿も映ってはいない。

 見ようによっては、ストイックに。あるいは、狂的に。

 黙々と、ただただ、拳を繰り出し続けた。


 そして、ついに……。


〈三峰刹那が戦意を喪失しました。〉

《三峰刹那のスキル『エアタンク』が有坂誠に奪取されました。》

 という声が響く。

 前者は、有坂の脳裏だけに。

 後者は、その場にいた生徒全員に。


 教室が、どよめく。


《スキル喪失者が十名に達しました。

 これにてテストプレイを終了します。》


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