01-03 テストプレイ(二) 三峰刹那、スキル『エアタンク』
田所が倒されたあと、しばらく、教室内を静寂が包んだ。
「もう誰も、攻撃をしないのか?」
そういった者がいる。
「これでは、いつまで経ってもテストプレイが終わらないぞ」
そういったのは、最前列に座る三峰刹那だった。
三峰は入試の成績がクラスで一番だったので、担任の高杉先生から指名されてクラス委員も務めている少年だ。
「誰も動かないというのなら……ぼくが動く」
そういうと、三峰は自分のスキルを発動した。
「みんな、気をつけて!」
スキル『スカウター』のユーザー、頼衣珠世が叫ぶ。
「三峰くんのスキルは『エアタンク』!
見えない戦車よ!」
頼衣は、ゲームがどうこういう以前に、人が傷つくところを見たくない性分なのだった。
この場では、そうした行為は偽善なのかも知れなかったが……気づいたら、そう叫んでいた。
頼衣の声に、何名かの生徒が反応した。
辺見洋子がスキルを解放して、自分の席の前に分厚い壁を作成する。
【
スキル:
捲土重来 Lv.2 ◇特殊系
『地形や建物を能力者の思い通りに変形することができる。
レベルアップするにつれ、効果の適用範囲が拡大する』
】
ただそれだけの行為で、辺見のスキルレベルがひとつあがった。
辺見の近くの席にいた生徒たちが、その壁の背後に隠れようと集まってくる。
三峰刹那の席は、最前列の、左から数えて三つ目。
辺見洋子の席は、前から参列目の、左から四つ目。
微妙に近く、この場で防御に役立ちそうなスキルを持つものなら、誰でも躊躇することなく発動させることだろう。
前から二列目、右から三つ目の席に座る矢尻知道も防御に特化したスキルを所持していて、当然のようにそれを発動させようとした。
しかし、その直前に、右隣に座る都井宮子のスキル『愛の鞭』によって、当初の目的を微妙に逸らされることになる。
都井宮子はついさっき、
「誰でもいいから自分のスキルを譲る」
という意味のことは発言したばかりであったが、いざ目前に危機が迫るとなるとやはり保身に走ってしまうものらしい。
都井のスキルは、
【
スキル:
愛の鞭 Lv.1 ◇特殊系
『一定時間、対象となる人物を自由に操ることができる。
能力の持続時間はレベルに依存』
】
というものであった。
都井はスキルを発動して一メートル強の材質不明の鞭を出現させ、ぶん、と、自分の周囲に回転させる。
前後左右の席にいた浜路透理、矢尻知道、渡来春樹、須賀康司の体に鞭が触れたが、彼らが傷ついた様子はなかった。
都井が、叫ぶ。
「盾になって、三峰くんの攻撃を防いで!」
四人は即座に都井と三峰を結ぶ線上に体を投げ出し、特に矢尻知道は自分のスキルを解放して三峰の攻撃に備えた。
この行為により、都井のスキル『愛の鞭』はレベルを三ほどあげた。
この四人の中にたまたま、防御に特化したスキルの持ち主がいた。
矢尻のスキルは、
【
スキル:
バリヤー Lv.1 ◇防御系
『一定時間、あらゆる攻撃を無効化する。
レベルがあがるごとに持続時間は長くなる』
】
というものであった。
もう一人、頼衣の声に反応して防御のために動いた者がいた。
スキル『ナイトシールド』のユーザー、新堂零時である。
新堂は、自分のスキルを発動して三峰の前にいながらも逃げ遅れていた津川問の体を保護する。
スキル『ナイトシールド』の能力を発動させるには、多少の距離があっても支障はないらしかった。
直後、三峰の体があるあたりから、重い轟音が鳴り響いた。
彼のスキル『エアタンク』とやらが頼衣のいうように見えない戦車を具現化するスキルだというのなら、おそらくは主砲が発射されたのだろう。
しかし、その主砲はまず津川を包んでいた新堂のスキル『ナイトシールド』によって弾かれ、次にすぐ隣で能力を発動していた矢尻知道のスキル『バリヤー』によっても弾かれた。
〈スキル『エアタンク』の攻撃はスキル『ナイトシールド』によって弾かれました。
スキル『ナイトシールド』は、スキル『エアタンク』の攻撃を弾く能力があります。〉
〈スキル『エアタンク』の攻撃はスキル『バリヤー』によって弾かれました。
スキル『バリヤー』は、スキル『エアタンク』の攻撃を弾く能力があります。〉
二度の跳弾を経て、見えない砲弾は天井へむかう。
ちょうど教室の中央あたりの天井に大穴が開いて、破片が落ちてきた。
粉塵が舞い、教師の中の真っ白に染まる。
もちろん、生徒たちは盛大に悲鳴をあげ、教室内はかなり騒がしい有様となった。
「撃ちやがった!」
生徒の誰かが叫んでいる。
「あいつ、本当に撃ちやがったよ!」
「いくら生き返るといわれてても、やっていいことと悪いことがあるぞ!」
「そうだそうだっ!」
悲鳴が少し収まると、今度は三峰に対する怒号が教室を満たした。
「こうなりゃあ、遠慮することはねえ!」
粉塵も収まらないうちにそういったのは、最前列一番左の席の、内膳英知という生徒だった。
「どうせこのテストプレイが終われば元に戻るんだ!
勝てないまでも、今のうちにレベルをあげておこうぜ!」
そういって内膳は自分のスキル『デリンジャー』を発動して小型拳銃を具現化、三峰へむけて発砲する。
内膳の銃声は、聞いている方が情けなくなるほど頼りないものだった。
ちなみに内膳のスキルは、
【
スキル:
デリンジャー Lv.1 ◇攻撃系
『単発拳銃を出現させ、使用することができる。
レベルがあがるごとに威力があがり、銃弾の種類も増える』
】
というものであった。
「そうだそうだ!」
最前列、一番右の席の西城沙名も内膳の意見に賛同して自分のスキル『アイスエイジ』を発動する。
「汚い!
流石委員長、汚い!」
【
スキル:
アイスエイジ Lv.1 ◇攻撃系
『任意の対象を氷らせる。
威力はレベルに依存』
】
辺見洋子がスキルによって出現させた壁に隠れていた夢川明日夢も、無言のまま自分のスキル『疾風怒濤』を発動する。
【
スキル名:
疾風怒涛 Lv.1 ◇攻撃系
『対象を暴風で攻撃。
威力はレベル依存』
】
夢川と同じく、辺見の壁に隠れていた奥地八枝も、それに続いた。
三峰の『エアタンク』は、氷、風、火の三属性の魔法、ならびに内膳の豆鉄砲によって、しばらく執拗な攻撃に晒されることになったわけだが……。
「硬ってぇ……」
呆れたような口調で、内膳が呟く。
「……ビクともしやがらねえ……」
内膳のスキル『デリンジャー』は単発という制限があるため、一発発射するごとにスキルを発動し直す必要があった。
何度も三峰の『エアタンク』を攻撃するうちに、スキルのレベルばかりがあがっていく。
順調に、一発あたりの打撃力も増えているはずなのだが、どうにもそういう実感が湧かない。
……戦車相手に豆鉄砲じゃあ、どうにもならんか……と、内膳は内心で半ば諦めかけていた。
「実害がないとはいっても、そろそろ鬱陶しくなってきたかな」
内膳、西城、夢川、奥地の攻撃は、三峰の体に届くかなり前に、三峰のスキル『エアタンク』の見えない分厚い装甲によって阻まれている。
「では……そろそろ、反撃させてもらうよ」
そういって三峰は、見えない戦車の砲塔を回して辺見の防壁へ標準をつけた。
その様子を見て、新堂が慌てて『ナイトシールド』を発動。現在のレベルはまだ三であり、壁にへばりつくようにしている西城沙名、夢川明日夢、奥地八枝の三人を保護するのが精一杯だった。
三峰のスキル『エアタンク』の主砲が、再び火を吹く。
その砲弾は辺見のスキル『捲土重来』によって造った防壁をたやすく粉砕し、再び教室内の空気が粉塵によって白濁化した。
肝心の砲弾はというと、複雑な跳弾を経て教室の右側の壁に大穴を開ける。
本来ならばその壁の外には廊下があるはずだったが、穴の外にはのっぺりとした灰色の、なんとも形容しがたい空間が広がっているばかりだった。
前に高杉先生が、
「この教室は通常の空間から隔離されている」
というのは、こういうことを意味するらしい……と、その穴のむこうを見た生徒たちは悟った。
そして同時に、このテストプレイを終わらせないと、元の世界に帰れないことも、悟った。
〈眞鍋伸吾が大ダメージを負いました。
眞鍋伸吾が戦意を喪失しました。〉
〈浜路透理が大ダメージを負いました。
浜時透理が戦意を喪失しました。〉
〈睦月庵が大ダメージを負いました。
睦月庵が戦意を喪失しました。〉
《眞鍋伸吾のスキル『ランサー』が三峰刹那に奪取されました。》
《浜路透理のスキル『石蹴り遊び』が三峰刹那に奪取されました。》
《睦月庵のスキル『ファイブセンス』が三峰刹那に奪取されました。》
その砲弾が当たったのか、新たに三名の生徒が犠牲になり、三峰にスキルを奪われる。
「このまま放置しておくと、手がつけられなくなるぞ!」
引き金を引きながら、内膳が叫ぶ。
「誰か、三峰を止めてくれ!」
「喚くなよ、うるさいな」
静かな声が、答えた。
「今、始末してやるから、少し静かにしていろ」




