01-02 テストプレイ(一) 田所一、スキル『ジャック・ザ・リッパー』
現在の田所のスキルは、
【
スキル:
ジャック・ザ・リッパー Lv.6 ◇攻撃系
『なんでも切り裂く見えない刃物で攻撃。
攻撃範囲はレベルアップするにつれ、より長くなる』
】
であった。
レベルが初期状態の一から六に変化しているのは、他の生徒たちが質疑応答を行っている間にも田所が「見えない刃物」でこっそりと自分の机の表面に斬りつけ、スキルアップを図っていたためだった。
レベルアップしたことによって、ジャック・ザ・リッパーの刃渡りは初期の五センチほどから四十センチ前後までに長くなっている。
欲をいえばもっと長い間合いが欲しいところだが、今の段階ではまだほとんどの生徒のスキルは初期状態のはずであり、スタートダッシュをする分は十分なアドバンテージがあると田所は判断した。
この学校では男女を区別して、市松模様状に席を配置することになっている。
田所の前後左右もすべて女子の席であったが、前の席の木ノ下紬、右の席の奥地八枝、左の席の頼衣珠世の三人のうち、左の頼衣が一番小柄で華奢であり、従ってHPが少なさそうだと田所は判断した。このゲーム内において「ヒットポイント」という概念がどこまで有効なのかは未知数だが、襲うのにあたって一番弱そうな者を選択するのは当然のことである。
田所は迷わずジャック・ザ・リッパーの見えない刃物を振りあげて隣に座る頼衣へと襲いかかった。
これはゲームだ……そう割り切っている田所に、ためらいはない。
しかし、田所の見えない刃物は頼衣の体に当たる前に、やはり見えないなにかによって弾かれる。
〈スキル『ジャック・ザ・リッパー』は、新堂零時のスキル『ナイトシールド』によって防御されました。
スキル『ナイトシールド』は、レベルの上下に関わらず、スキル『ジャック・ザ・リッパー』を完全に防御する能力があります。〉
田所の脳裏に、そんな声が響く。
思わず、スキルってやつを使っちまったけど……と、新堂零時は思った。
田所のやつ、いきなり攻撃してくるんだもんな。
新堂の席は、頼衣珠世の左になる。
頼衣からみれば、右隣が田所一、左隣が新堂零時、という位置関係だった。
新堂は、自分のスキルを確認した。
【
スキル:
ナイトシールド Lv.2 ◇支援系
『物理攻撃を完全に遮断。
ただし、自分自身は守れない』
】
いつの間にか、レベルがひとつあがっていた。
説明文には表示されていないが、スキルの所持者である新堂には、レベルがひとつあがるたびに保護する対象が増えるという知識を、誰に教えられているわけでもないのに自然と得てい
た。
しかし……この最後の一文が、致命的だよな……と、新堂は思う。
「ただし、自分自身は守れない」
このスキル『ナイトシールド』は、誰からスキルを奪うか、それとも誰かと協力体制を取らなければ勝ち抜くことができないスキルである、ということを意味していた。
新堂にいわせれば、どんな強力な防御能力を持っていようが、ただその一事だけをもって、余裕で「ゴミスキルである」と認定することができた。
頼衣への攻撃を弾かれた田所は、一瞬、憤怒の形相を見せたものの、そのまま正面にいる木ノ下紬へ向き直った。
「……あっ!」
頼衣が田所の挙動を見て、小さな叫びをあげる。
「田所くん、やめ……」
頼衣が田所を制止しようとしたのは、別に木ノ下を案じてのことではなかった。
頼衣に与えられたスキルは『スカウター』。
その名前から容易に推察できるように、他者のスキルを解析するためのスキルである。
【
スキル:
スカウター Lv.12 ◇支援系
『観察対象が持つ能力についての情報を知ることができる。
レベルアップするに従い、より詳細な情報が得られるようになる』
】
この時点でレベルがここまであがっているのは、田所と同じように直前までの質疑応答の時間に周囲の生徒たちを観察して、スキルを使用していたからだった。
当然のことながら、斜め前にいる木ノ下紬のスキルについても頼衣は読みとっている。
【
スキル:
パニックボム Lv.1 ◇攻撃系
『感情が大きく揺さぶれることによって発動。
全方位に大ダメージ。
しかし、能力発動後に使用者は一定時間硬直』
】
騒ぎを聞いて背後を振り返った木ノ下紬は、うしろの席の田所一が頼衣珠世に襲いかかろうとしたあと、血走った目をして自分に向き直ったのを確認した。
田所は大柄で、厳つい顔つきをした男子生徒だった。体重でいえば田所よりも木ノ下の方が勝っていたりするのであるが、だからといって本来小心な木ノ下が怖がらない理由にはならない。
……逃げなくちゃっ!
とは思うものの、運動が得意ではなく鈍重な体を持つ木ノ下は、機敏に逃げ出すことができなかった。
木ノ下は、体を動かすことを不得手とするだけではなく、気も小さかったのだ。
いかつい男子である田所が明らかに自分を標的として襲いかかってくるのを目の当たりにするだけですっかり動転し、動悸が激しくなり、がくがくと両足が小刻みに震える。
なすすべもなく、木ノ下は、
「……ぎゃぁぁぁぁっ!」
という野太い悲鳴をあげ……そして、木ノ下のスキルが発動する。
〈木ノ下紬のスキル『パニックボム』が発動しました。〉
〈琉河秀夫に大ダメージを与えました。
琉河秀夫は戦意を喪失しました。〉
〈叶治郎に大ダメージを与えました。
叶治郎は戦意を喪失しました。〉
〈小諸準に大ダメージを与えました。
小諸準は戦意を喪失しました。〉
〈田所一にダメージを与えました。〉
という声が、木ノ下の脳裏に響いた。
《琉河秀夫のスキル『トラップメイカー』が木ノ下紬に奪取されます。》
《叶治郎のスキル『リヴェンジャー』が木ノ下紬に奪取されます。》
《小諸準のスキル『チェンジリング』が木ノ下紬に奪取されます。》
という声は、生徒たち全員の脳裏に響いた。
なるほど。
スキルが譲渡されると、こうしてゲームの参加者全員にアナウンスされるのか……ということを、たった今、生徒たちは知った。
木ノ下本人は、椅子から腰を浮かせかけたまま状態で硬直している。
たまたま木ノ下の周囲の席だった琉河秀夫、叶治郎、小諸準の三人は、いわばとばっちりをうける形で木ノ下にスキルを奪われることになった。
物理的な状態を記すのなら、白目をむいて机の上につっぷしていた。
このような状態になるきっかけを作ったそもそも原因、田所は荒い息をついて自分の席にへたり込んでいる。
田所が他の三人のように一撃で沈まなかったのは、多少なりともレベルをあげていたからであろう。
しかし、その田所も……。
「……えい」
右隣に座っていた奥地八枝が小さな声でそういうと、田所の全身が青白い炎に包まれる。
「……あっちぃいっ!」
跳ね起きた田所は、その場でぴょんぴょんと何度か跳びあがり、そしてすぐにへたり込んでそのまま動かなくなる。
それと同時に、田所の全身を包んでいた青白い炎は瞬時に消えた。
「漁夫の利、っていうか……いいのかな?
こんなに簡単で?」
奥地は、きょとんとした表情で首を傾げる。
〈田所一にダメージを与えました。
田所一が戦意を喪失しました。〉
という声が、奥地の脳裏に響いた。
そのあと、クラス全員の脳裏に、
《田所一のスキル『ジャック・ザ・リッパー』が奥地八枝に奪取されました。》
という声が響く。
ちなみに、奥地のスキルは、
【
スキル:
ファイヤ・スターター Lv.1 ◇攻撃系
『攻撃対象を炎で包む。
威力はレベルに依存』
】
であった。
が、田所を倒した結果、奥地のステータスは、
【
スキル:
ファイヤ・スターター Lv.2 ◇攻撃系
『攻撃対象を炎で包む。
威力はレベルに依存』
サブスキル:
ジャック・ザ・リッパー Lv.1 ◇攻撃系
『なんでも切り裂く見えない刃物で攻撃。
攻撃範囲はレベルアップするにつれ、より長くなる』
】
に変化している。
そのことを、スキル『スカウター』の持ち主である頼衣珠世は確認した。
「八枝ちゃん、順調に攻撃特化型へ成長しているな」
と、頼衣は思った。
友人の成長を素直に喜んでいいものかどうか、頼衣としては複雑な心境だった。
そうした騒ぎを興味深く観察する者、目を背ける者、周囲を見渡して反応を伺う者など、クラスメイトたちの反応はそれぞれだった。
とりあえずこの時点でスキルを奪われた者は四名。
高杉先生が最初に提示した条件のうち、半数近くに達したことになる。




