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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
三日目
46/109

04-19 知念はな。狩りの準備。

 蘭世の家のキッチンで夕食の支度をはじめようとしていたとき、黒森永遠は知念はなが目ざめたことに気づいた。

「あ。

 目がさめた」

 思わず、黒森が発した小声の呟きを、耳さとく津川問が捕らえている。

「なに、監視している子のこと?」

 津川は、黒森に訊ねた。

 黒森のスキル『フェアリーテイル』の大まかな働きについては、すでにこの津川と蘭世明のふたりには簡単に説明している。

 なにかと世話になっているし、このふたりが積極的にゲームに関わるつもりがないということを納得した上で、最小限の情報を黒森の方から説明した形だった。

「うん。

 その、寮での、同室の子」

 黒森は、素直に答える。

「どうやら夜中のうちに寮に帰っていたようなんだけど、今まで寝ていたらしい」

 流石に一晩いっしょに過ごせば、人見知りをする黒森といえども多少は打ち解けてくる。

 この津川とはなすときは、いつものように吃音が出てくることもなかった。

「そっか」

 津川は、目を細める。

「それで、永遠ちゃんは、その子のことをどうするの?」

「……もうしばらくは、様子見ですかね?」

 黒森も、首を傾げた。

「あの子のスキルについては、よくわからないことがありますし……。

 最初の犠牲者、瀬川くんのスキルを奪っていることは、確実なんですけど……」

「確か、太股をナイフか包丁みたいなもので刺した、とか、ニュースではいっていたっけ」

 津川は、頷く。

「スキルはともかく、思い切りはいい子なんだろうな」

「そうですね、たぶん」

 黒森も、頷いた。

「見た目的に派手な子で、友達も多かったはずですが、なぜかゲームがはじまってからはひとりで行動しています」

「……派手な子?」

 津川は、訝しげな声を出す。

「そんな女子、うちのクラスにいたっけ?」

 それなりに容姿が整った女子は何名かいるのだが、「派手」という形容にふさわしい女子を、津川はすぐに思い出すことができなかった。

「ええっと……なんでも、お爺さんか誰かが外国の方で、ちょっとエキゾチックな目鼻立ちをした……」

 いいかけて、黒森はその女子の名前を思い出せないことに気づいた。

「……え?

 あれぇ?」

 昨日まで寮の同じ部屋で暮らしてたルームメイトの名をきれいさっぱり忘れている……というのは、いくらなんでも異常だった。

 と、黒森は思う。

 こうしている今現在も、スキル『フェアリーテイル』の見えない妖精はその女子に張りついて、彼女の動向を黒森に報せていた。

 しかし、その「彼女の名前」が、どうしても思い出せない。

「……どうしたの?

 永遠ちゃん」

 黒森のただならぬ様子に気づいた津川が、眉根を寄せて訊ねてきた。

「思い出せない……」

 黒森は、狼狽した様子で、そう告げる。

「……その子の名前とか……それ以外のことも、すっかり思い出せなくなっている……」

「……ひょっとして……」

 そう聞いて、津川はますます険しい顔つきになった。

「……それが、その子のスキルなんじゃない?

 自分についての記憶を、他人の中から消し去ること、とか……」

「でも!」

 黒森は、津川の顔を見あげる。

「そんなスキルがあるとしても……それに、どんなメリットがあるっていうんですか?」

「さあ」

 津川は、肩をすくめた。

「消しているのは、自分についての記憶だけではなく……そうね。

 そのスキルの持ち主の存在自体を、一時的にいなかったことにする、とか……」

「……自分の存在自体を、根本からステルスするスキルですか?」

 黒森は、唖然とした。

「そんな、反則な……。

 それが本当だとしたら、不意打ち放題だし、それに……」

「……それに、その子は一番最初に、よりにもよって瀬川くんのスキル『見取り稽古』を手に入れている」

 津川は、冷静に指摘をした。

「スキル『見取り稽古』の機能が、名前から連想するようなものだと仮定すると……。

 その子、これまでにも、もうかなりの数のスキルを自分のものにしているんじゃない?」

 だとすれば……その子は、クラスメイトの中でも、かなり有利な位置に立っていることになる。


 その知念はなは、シャワーを浴びたあと、冷蔵庫に買い置きしていたペットボトルの紅茶に口をつけ、喉を鳴らして飲み干していた。

 かえって甘味料が喉に張りついて、かえって喉の乾いてきたような気がする。

 喉の乾き以上に、知念は空腹を感じていた。

 なにしろ、ほぼ丸一日、なにも食べていないのだ。

 室内に備えつけの冷蔵庫は、申し訳程度の小さなものであり、せいぜい飲料くらいしか入れておけない。

 冷蔵庫の中には、それにこの室内にも、知念の空腹を癒す食物はないようだ。

 そこで知念は手早く着替えて、寮の外に出ることにする。

 もう少し待てば食堂で夕食の配膳がはじまる時間になるのだが、それが待てないほどに知念は空腹だったのだ。

 寮から一番近くにあるコンビニまで、歩いて五、六分といったところだろうか。

 とにかく、そこでなにかしら口にするものを入手するつもりだった。

 ……こういうときに買い物に行くと、ついつい余分に買いすぎちゃうんだよなあ。

 昨日はかなり大変な一日だったし、これからも肉体的にはかなりきつくなることが容易に予想できたので、携帯できてその場で食べることができる食べ物も含め、余分に買っておこうかな。

 などと、知念は思う。

 なにしろ、スキル『ぼっち王』を使用中は、気軽に食事を調達することができないのだ。

 いや、より正確にいうのならば。

 スキル『ぼっち王』の使用を中断すれば、食べ物を買ったり食べたりすることは可能なのだ。

 だが、それでは、「他人の目から逃れる」という『ぼっち王』というスキルの利点が、まるで意味をなさなくなってしまう。

 昨日も、一日空腹を堪えながら自分の存在を消して授業を見学したあと、そのまま溜桶まで移動して瑠河狩りを見守っていたわけで……そのは最中には、それはもう盛大に腹が鳴ったものだった。

 スキル『ぼっち王』を長時間使用するときは、食料の携帯は必須。

 と、知念は改めて肝に銘じる。


 案の定、知念はコンビニでどっさりと食料品を買い込んで寮の自室に戻った。

 途中、スキル『ぼっち王』を使用したり遮断したりしながら道を歩いてきたが、知念の方を不審そうな目で見る人はいなかった。

 知念にとっては幸いなことに、昨日、内膳のスキル『デリンジャー』で撃ちこまれたペイント弾の臭いは、そこまで酷くは残っていないらしい。

 自室に戻った知念は、インスタントのスープ春雨など、軽いものから口にしていく。

 もうすぐ、食堂でちゃんとした食事を摂ることができるのだから、今の時点では、しばらく使っていなかった胃を刺激する程度でちょうどいいはずだ。

 この寮で朝晩に出される食事は、業者に発注している仕出し弁当のようなものだったが、運動部目当てでこの寮に入る生徒が多いこともあって、ボリューム的には多すぎるくらいなのだ。

 実際、部活に所属していない寮生は、自分で気をつけて節制していないと在学中に肥える……というのが、通説となっている。

 その寮の食事で足りなければ、改めて買い込んだ食料を空ければいい。

 知念はなは、そう判断する。

 知念、はチョコレートやカロリーバーなど、手軽に口にできる高カロリー食品をどっさりと買い込んでいた。

 長時間、潜伏する。

 それに、それ以外にも、普段よりもずっと運動するはめになる。

 少なくともこのゲームの最中は、体重のことを気にせずにいられるようだ。

 昨日の披露もまだ残っているし、知念はこの日一日、体調の回復のみに専念するつもりだった。

 知念は、一晩ゆっくりと休んだ明朝から、本格的なゲームを再開する予定である。

 別に、焦る必要はない。

 今日一日休んでしまったとはいえ、すでに数多くのスキルを『見取り稽古』でコピーしている知念は、他のクラスメイトよりもずっと有利な場所に居るはずなのだ。

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