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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
三日目
44/109

04-18 放課後の無駄話。芦辺素直と渡来治樹。

 芦辺素直のスキル『自動筆記』には致命的な欠陥がいくつかあるのだが、それらの欠陥はすべて、結局のところ、「人前で使用することができない」という部分に集約されるのだった。

 スキル『自動筆記』を起動するためには、紙となんらかの筆記用具を用意し、その上「知りたいこと」について明瞭に口にして問いかけを行う必要がある。

 人前で使用することができない、というのは、そうした無防備な状態を衆目に晒すことに芦辺自身が抵抗を感じるということ、それに、肝心の、スキルを使用して得た情報を他人に見られたとしたら、それだけで情報の価値が半減するのだ。

 だから、芦辺は昨日一日学校を休んで自宅で情報収集にいそしんでいた。

 今日になって登校してきたのは、何日も続けて学校を休むと学校から両親に連絡が行く恐れがあったこと、それに今日がたまたま通いの家政婦が自宅に来る曜日であったからだった。幼いことから芦辺のことを知っているこの家政婦は、ともすると放任が過ぎる両親よりも芦辺の教育には熱心で、よほどのことがないとずる休みなど許してはくれない。

 昨日、留河がやったように学校外のどこかへ潜伏するという選択肢もあったのだが、一度は実地に他人がスキルを使用する現場をこの目で見ておきたいという芦辺自身の願望もあって、結局は普通に登校することにしたのだった。


 そんな今日、芦辺が目撃したものといえば、今朝、校庭で勃発した七重芹香と路地遙の二人組対その他大勢のスキルを大盤振る舞いした集団戦闘であり、続いて起こった眞鍋伸吾と叶治郎との決闘とその血生臭い結末、それに、直接目撃したわけではないのだが、田所一と矢尻知道の決闘とその意外な結末というわけで……。

 正直、戦闘能力を持たないスキルを与えられた芦辺にとっては、そのうちのどれかひとつでも刺激が強すぎるほどだった。

 十分にレベルアップした戦闘用スキルの威力については朝の一件だけでも十分に認識することができたし、眞鍋伸吾と叶治郎の件は、スキルの殺傷能力とスキルの所持者の性格について改めて考え直すいいきっかけになった。

 田所一と矢尻知道の件についていえば、芦辺自身が「かなりいいところまでいくのではないか」と評価していた田所があっさり敗れてしまった、という意外性に度肝を抜かれた。スキル同士の相性もあるのだろうが、それ以上に当事者のモチベーションの高低がかなり勝負に影響するということを、この一件で芦辺は思い知った気がする。

 一見してショボいスキルであっても、使う人間や使い方によっては絶大な効果を発揮するのだと、肌で知らされた感じだった。


 ようするに、一行でこの時点での芦辺の心境を現すと、

「自分の頭でっかちさを改めて認識させられた」

 ということになる。

 現実は、完全に芦辺が集めた情報や想像を上回っていたのだ。


「なあ、芦辺」

 チャラ男の渡来治樹が、放課後に声をかけてきた。

「ないだい、盗人」

 芦辺は、気のない返答をしながら立ちあがり、さりげない挙動で渡来から距離を取った。

 そもそもこの渡来とは、以前からあまり親しくしていない。

 同じクラスだから名前と顔くらいは知っていたのだが、会話らしい会話をした記憶がないのだ。

 この渡来は、新堂零時に「体のどこかに触れることで、なにかを盗むスキルの持ち主らしい」という憶測を広められて以来、他の生徒たちから遠巻きにされている。

 それで、普段つき合いがなくても、なんとなく自分を受け入れてくれそうな芦辺にすり寄ってきたのだろうな、と、芦辺は想像する。

 このゲームがはじまる前、この渡来は叶治郎や沼沢悠里らと連んでいることが多かった。

 成績や容姿など、いい意味でも悪い意味でも、目立つところがない、突出した特徴を持たなかったこの三人組について、芦辺は心中で密かに「凡庸組」と呼んでいた。

 それが今や、叶治郎はなにをするのか分からない不気味な存在と化しているし、この渡来は与えられたスキルのおかげでなんとなく遠巻きにされてしまっている。


「そんなに警戒するなよ」

 苦笑いを浮かべながら、渡来は芦辺にいった。

「別になにもするつもりはないって」

「まあ、口ではそういうよね」

 芦辺は、ここぞとばかりに露骨に警戒している態度をみせつける。

「実際のところ、なにを盗むスキルなんだい?

 その『シーフ』っていうのは?」

「新堂がばらしちまったから、もう隠す必要もないか」

 渡来は、憮然とした表情でいった。

「最初のうちは、経験値だな。

 レベルアップすると、他のなにかも盗めるようになるそうだが、そいつが具体的になになのかは、おれ自身にもわからない」

 成長型か……と、芦辺は思った。

 初期の段階でショボくても、成長すると化ける可能性があるスキルだ。

「ぼくのは、まだそんなにレベルアップしていないから、盗んでもあまりおいしくないと思うよ」

 芦辺は、素っ気なくいった。

「今、いくつ?」

 渡来は、素直に訊ねる。

「もうすぐ、三桁に届くね」

 芦辺も、素直に答える。

 嘘をつくことも可能だったが、同じクラスにスキル『スカウター』の持ち主がいる以上、下手に秘匿してもあまり意味がない。

「すごいな、それは」

 渡来は、目を見開いた。

「そこまでレベルがあがっているのは、クラス内でも何人もいないんじゃないか?」

「そうでもないだろう」

 芦辺は答える。

「ぼくが知っているだけでも、五名以上はいる」

 正確には、もう十名以上、居るはずだ……と、芦辺は思い返す。

 今朝の段階でスキル『自動筆記』で生徒たちのスキルとレベルをリストに書き出しておいたから、芦辺はその辺の情報についてもかなり正確に把握していた。

 全般に、単機能で単純なスキルほどレベルアップしやすいという傾向があるようだった。

 たとえば、三峰刹那のスキル『エアタンク』はかなり強力なスキルだが、今朝の段階ではまだ一桁代のレベルでしかなかった。

 三峰の場合、今の時点でも複数のスキルを所有しているので、そっちの方を優先的に育てているのかも知れないのだが……。


「おれのは、まだ九だ。

 二桁いってない」

 渡来は、ぼやいた。

「まだまだレベルが低いせいか、一回で盗める経験値が少ないようでな。

 レベル十になれば、もっと違ったものを盗めそうな気がしているんだが……もう一押しってところで、新堂にネタバレされてやりにくくなった」

「知ったこっちゃないよ」

 芦辺は、素っ気なく答えて渡来に別れを告げる。

「それじゃあ……ぼくは、これから用事があるから……」

 一度帰って、今日、自分の目で見た情報を再検討した上、今後の方針を練り直さなければならない。

 そうでないと……他の生徒たちばかりが強力になっていって、自分だけが取り残されてしまう。

 そういう危惧を、芦辺は本気で抱いていた。

「おう」

 渡来は、軽く応じた。

「また、明日な」


 そんなとき、だった。

「なあ、田所」

 叶治郎が、田所一にそう声をかけたのは。

「あんた、今からおれとやり合わないか?

 例の……決闘ってやつ」


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