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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
三日目
43/109

04-16 矢尻知道の戦利品 

 矢尻知道と協力して気を失った田所一を保健室まで送り届ける。

 完全に意識を喪失している田所ほどではないが、矢尻も多少の擦り傷を負っており、消毒などの軽い治療をしてから戻るという。

 そんな矢尻と保健室で別れたあと、新堂零時は視聴覚室へ戻った。

 臨時で1年D組用の教室として使用している視聴覚室内は、昼休みということもあって割合に騒がしかった。

 田所と矢尻の一件はすでに伝わっているようで、新堂が教室内に入ると近寄って確認してくる者も何人か居た。

 新堂は簡単に学食前での出来事を説明する。

 スキルの委譲についてのアナウンスがなかったこともあり、「あの田所が負けた」ということをなかなか認められない者も若干いたようだが、大多数の生徒たちは新堂の説明に納得をしていた。

 ついでに、

「渡来のスキル『シーフ』は、相手の体に触れることによって発動するらしい」

 という情報も、ぶちまけて置いた。

 新堂にしてみれば、そうした情報を秘匿して、渡来に有利になるように取りはからうべき理由もないのであった。


「……スキルの相性というものがあるからなあ」

 と、一通りの説明を聞いたあと、七重芹香が感想を述べた。

「矢尻くんの『バリヤー』と田所のじゃあ、どうしたって田所の方の分が悪すぎる」

「まあね」

 路地遙も、七重の言葉に頷いた。

「スキルの組み合わせ次第で、有利不利はどうしても出てくるから……」


 そんなことをいいあっているうちに昼休みも終わりに近づく。

 五時限目の始業ギリギリに、顔の何カ所かに絆創膏を貼った矢尻が教室内に滑り込んできて、午後の授業がはじまった。


 他の生徒たちが大人しく授業を受けている五時限目の最中、田所一は保健室のベッド上で目ざめる。

 目ざめたあと、しばらくここがどこで、どうして自分がこんな場所に寝ているのか把握できなかったが、しばらく天井を睨んでいると次第に学食前での一件について、徐々に詳細を思い出してきた。


 ……そうか。

 おれは、負けたのか。


 と、田所は思った。

 不思議と、以前、想像していたような、悔しさなどの感情は沸いてこない。

 むしろ、奇妙な清々しささえ、感じていた。

 スキルの相性はあるものの、あの矢尻は自分から勝負を仕掛けてきて、自分の力だけで勝ったのだ。

 あの臆病そうな男が、よくもまあ思い切った行動に出るもんだ……と、田所は自分に声をかけてきた矢尻の態度を思い返しながら、関心さえした。

 田所の価値観だと、矢尻の行動は十分に賞賛に値する行為なのである。

 ステータス画面を表示させてスキルの状態を確認する。

『ジャック・ザ・リッパー』も『ファイブセンス』もまだ田所が所持していた。

 どうやら、田所が意識を失ったせいで、スキルの譲渡は行われなかったえらしい。

 ……さっさと、どちらかをやらなければな。

 と、田所は思った。

 田所のつもりとしては、このふたつのスキルのうち、矢尻が望む方を与えるつもりだった。

 リライターが設定したゲームシステムがどうあれ、自分とあの矢尻は正面からやり合い、そして自分は敗れたのだ。

 ここで自分のスキルを惜しんでいたら、田所の気が済まなかった。  

「……なに?

 気がついたの?」

 ベッドの上でごそごそ身動きをしていると、田所が起きたことを察した養護教諭が声をかけてきた。

「きみねえ。

 喧嘩だかゲームだか知らないけど、頭を強く打ったそうだから、本当なら一度病院で検査をしてもらった方が……」

 などと、田所はしばらく養護教諭に説教をされる。

 それから、顔などについていた傷の手当てをしてもらい、それが終わる頃には五時限目も終わりに近づいている。


 手当を受けた田所は、すぐに視聴覚室へとむかった。

 田所が教室内に入ると、どうしたわけか教室内が静まりかえる。

 田所は周囲の雰囲気に構わず、まっすぐに矢尻の席にむかう。

 矢尻の席は、前から二列目の、右から三つ目。

 1年D組の生徒たちは、ここ視聴覚教室でも普段と同じ席順で授業を受けていた。

「……よう」

 と、田所は、矢尻に声をかけた。

 矢尻は、困ったような表情をして、椅子に座ったまま、田所を見あげている。

「さっきの、戦利品だ」

 そういって、田所は「スキル移譲画面」を矢尻の前に表示させた。

「おれは今、『ジャック・ザ・リッパー』と『ファイブセンス』というふたつのスキルを持っている。

 どっちでもいいから、好きな方を受け取れ」

「……え?」

 矢尻は、意外そうな顔をして、小さく呟いた。

「お前はおれに声をかけて勝負を挑み、おれはそれに応じて勝負を受け、そして負けた」

 田所は、憮然とした表情でいう。

「当然の取り分だろう?」

「あ……ああ」

 矢尻は、戸惑ったような声を出す。

 それから、しばらく「スキル移譲画面」の上で、指を上下にさまよわせていた。

 その画面の内容は、当事者である田所と矢尻の目にしか映らないわけだが。


 田所一がスキル『ジャック・ザ・リッパー』を譲渡する意志を表明しました。

 この申し出を受けますか?


   Yes / No 】

 田所一がスキル『ファイブセンス』を譲渡する意志を表明しました。

 この申し出を受けますか?


   Yes / No 】


「それじゃあ……」

 しばらく悩んだあと、ようやく矢尻はひとつのスキルを選択する。

「……これで」

「いいのか?」

 田所は、怪訝な顔をした。

「別に、『ジャック・ザ・リッパー』でもいいんだぞ」

「いい。

 これで」

 矢尻は、ぼそぼそと聞き取りにくい声で呟いた。

「ぼくは今日、はじめて人を殴った。

 あまりいい気持ちはしなかった。

 そういう、攻撃用のスキルは、正直、あまり使いたくはない」

 ……なるほど、なあ。

 と、田所は納得する。

 この矢尻という少年は、暴力に対する忌避感が強いというわけだった。

 あるいは、それが当然の感覚なのかも知れないが……。

「この先、ゲームを続けていくことを考えると、攻撃にむいたスキルがないと厳しくなるぞ」

 田所にしてみれば、ここで『ジャック・ザ・リッパー』を失うことは、かなりの痛手になる。

 だから、矢尻が『ファイブセンス』を選んでくれるのなら、歓迎するべきなのだが……しかし、一応、田所はそう忠告しておく。

 田所は田所で、妙なところで律儀な性格をしていた。

「いい」

 矢尻は、短く答えてスキル『ファイブセンス』の譲渡画面に、指を押しつける。


《田所一のスキル『ファイブセンス』が矢尻知道に奪取されました。》


 そのアナウンスは、クラス全員に頭の中に響いた。


「お前、なかなか根性が据わってと思うぞ」

 田所はそういい残し、さっぱりとした表情で自分の席に戻った。


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