04-13 新堂零時は学食で肉うどんを啜る。
倉石市立中央高校の生徒たちにとって、昼食のためには三つの選択肢が用意されている。
学食。購買。持参。
学食と購買がほぼ同数で、大半が自宅や通学の途中、コンビニなどでなんらかの総菜を買って来る持参組であった。
このうち、学食と購買部は学校側が一般企業に業務を委託している。
営利活動であるから、特に購買部など売れ残りがでることを嫌ってギリギリの数しか入荷しない。このため、早く買いにいかないと目当ての商品はすぐに品切れになる。
学食の方はといえば、補助金が出ていることもあって、全般にどのメニューもかなり安くて量も多い。味については言葉を濁す者の方が多かったが、学食でありながらかなり遅くまで営業していること、それに、昼休みを過ぎるとケーキやパフェなどのスイーツ類を販売しはじめることなどから、生徒たちにはかなり評判がよかった。
その学食は、もっと生徒数が多かった頃の基準で建てられていたので、現在となっては座席数にかなり余裕があった。
昼休みの込み合う時間帯でも、なかなか満席にはならないほどだ。
利用者のほとんどが食べ盛りの年頃だったから、回転が速いというのもあったが。
とにかく、新堂零時はその学食で肉うどんの大盛りを啜っていた。
ちなみに、肉うどんは並盛りでも大盛りでも値段は変わらず、一律二百五十円に設定されている。
多少、味に難があろうとも、文句を引っ込めたくなる量と値段であった。
普段、新堂は通学の途中で弁当かパンを買ってくるか、それとも購買へ行くようにしていたのだが、今日に限り、学食を利用している。
理由は、そう。
1年D組の臨時の教室と化している視聴覚室に長居したくはなかったからだ。
眞鍋と叶の一件があって以来、クラスの内の雰囲気が変わってきている。
緊張の水位が、徐々に高まってきている、とでもいうべきか。
一瞥しただけではなかなか気づけない、鈍感なやつなら気づかずに済むような、些細な変化だった。
一触即発。その寸前。
残念なことに、新堂はそこまで鈍くはなかったから、そうした空気の変化に対しても感じるところがった。
それで、せめて昼休みくらいは……と、ここまで逃げてきたのだった。
──ありゃあ、どこかで暴発するやつが出るな。
と、新堂は睨んでいる。
これまで、積極的にゲームに荷担して来た連中以外にも、「次は自分が狙われるのではないか」といった恐怖心にあてられた連中が出て来ることは、想像に難くない。
そして、今まで沈黙していた臆病者が暴発するようになれば、今度はそれが連鎖していくことも十分に考えられる。
そのときは、自分が居ない場所でやって欲しいかな。
とか、新堂は思っていた。
無責任かも知れないが、自分の身を護ったり、積極的に誰かを排除できるスキルを持たない今の新堂にとって、このゲームの内容は理不尽なほど過酷なのである。
「……となり、いいか?」
声をかけられて右をむくと、新堂がなにか答える前に開いていた席に渡来治樹が座るところだった。
「例の、ゲームな」
渡来は、ロースカツ定食(おそらくは、大盛り。定価四百五十円)が乗った盆をテーブルに置き、新堂にはなしかけてくる。
「誰が最後まで勝ち残ると思う?」
渡来は具が乾燥ワカメしかない味噌汁に箸を突っ込みながら、新堂に訊ねて来た。
「普通に考えれば、三峰だろう」
新堂は、つまらなそうな顔をして答えた。
「元から持っているスキル自体が強力な上、今では、おそらく最多のスキルを持っている」
「でも、有坂はその三峰に勝ったぜ」
渡来は、そう指摘してきた。
「有坂以外にも、意外な伏兵がいるんじゃないのか?」
「いるかも知れないが、おれにはわからない」
新堂は、正直に答えた。
「その伏兵は、おれではないことは確かだな。
おれのは、正真正銘、自分のためには役に立たないスキルだからな」
「らしいな」
といって、渡来は薄く笑った。
それから不意に真顔になって、
「頼衣ちゃんのスキル、ある程度、ほかのやつらのスキルのことを読みとれるんだろう?
あの子はどういっている?」
とか、いう。
「頼衣さんに直接聞け」
そういって、新堂はまた肉うどんの麺を啜った。
「素直に教えてくれるかどうかまでは、保証できないがな」
「またまた。
最近、彼女と仲がよさそうじゃないか」
「もともととなりの席だし、それにゲームの関係で助け合うことが増えてきているだけだよ」
こうしている今も、頼衣玉世の身は新堂のスキル『ナイトシールド』で護られているはずだった。
「またまた……」
とかいいながら、渡来は新堂の肩を叩こうとする。
すると、その直前で、渡来の手と新堂の肩の間で、小さな爆発が起こった。
新堂の周囲に居た生徒たちが、何事かと驚いて、新堂たちに注目をする。
中には、中腰になって今にも逃げ出せるような姿勢になっている者もいた。
「……昨日、おれに預けられた留河のスキル『トラップメイカー』なんだけどな」
新堂はよく通る声で、解説をはじめた。
「あれ、罠の発動条件をいろいろと設定できるんだわ。
たとえば、害意を持ったやつがおれに触れようとすると、小さな爆発を起こしてそいつを遠ざける……とか。
そういえば、渡来。
お前のスキル、『シーフ』とかいうんだったな?
なにを、どうやって盗むスキルなんだ?
そのスキルも、やはりなんらかの発動条件が設定されているんじゃないのか?
たとえば……そうだな。
盗む対象の体のどこかに手を触れていないと、そのなにかを盗めない……とか……」
渡来は、狼狽した様子で周囲を見渡した。
最初のうち、逃げ腰になっていた生徒たちは、興味津々といった様子で新堂と渡来のやり取りに注目している。
中には、
「……ほら。
1年D組の……」
とか、こそこそ囁いて情報交換をしている生徒も、少なくはなかった。
今朝、校庭での大騒ぎを経験したばかりだったから、1年D組に対する生徒たちの関心も強かった。
「……いずれにせよ、ここは無関係の人たちも大勢居る学食だ。
大人しく食事を続ける以外の下手な真似は、しない方がいいと思うぞ。
そうしないと……これから三年間続く高校生活が、あまり楽しいものではなくなる」
なにもいえないでいる渡来に、新堂は淡々と言葉をかけた。
せっかく貰った自衛用のスキルを、活用せずにしまい込んでいるわけがないのに……と、新堂は思った。
渡来は、不機嫌そうな顔をして黙り込んでいる。
新堂は、そんな渡来には構わず、どんぶりに直接口をつけて肉うどんの汁を啜った。
「それで、なんのはなしだったっけ?
ああ、そうか。
意外な伏兵ってやつな。
おれはあんまり興味ないけど、使いようによってはどんなスキルも脅威になり得るんじゃないのかな?
だって、リライターってやつらは、ゲームが面白くなることを望んでいるんだろう?
だったら、特定の誰かに、一方的に強すぎるスキルを与えるとは思えないんだよな。
それに、スキルってやつは、あれだ。
スキルの性質とレベル以外に、熟練度とかどこまで使いこなせるかによって威力がまるで違ってくるもんじゃないのか?
有坂の『チェーンコンボ』だって、他のやつがあのスキルを持っていたとしても、まともに使いこなせないと思うんだよな。
だから、今の時点では誰が優位なのかなんて、議論する価値すらないよ。だって、まるで情報が出揃っていないんだもん。
強いて、今の時点で気になる相手ってことなら、そら……」
……瀬川のスキルを奪った、誰かさん……ということになるだろうな。
と、新堂は続ける。
「……そいつの正体が、まったくわからないからなあ。
なぜか、奪取したというアナウンスのときもノイズで名前が聞き取れなかったし。
そういう性質のスキル……なんだろうとは思うけど、それって、具体的には、一体、どういうスキルなんだ?」




