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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
三日目
39/109

04-12 沼沢悠里、スキル『ジャンパー』

 沼沢悠里は四時限目の授業が終わるのと同時に、スキル『ジャンパー』を使用して購買部の直前まで移動した。

 現在のレベルは八十二。

 意識して発動しない、いいかえれば常時発動するわけではないスキルとしてはなかなかの成長ぶりといえた。

 同じクラスの中にはそのレベルもすでに三桁を超えている者がちらほら居たりするのであるが、ああいう「ゲームジャンキー」どものことをこの沼沢は内心で軽視してくれる。

 自分の努力で勝ち取ったわけではない、たまたま与えられたこんなスキルなどは所詮、ボーナスにすぎないのだから、使えるうちにせいぜい使い倒してそれから別の同級生なりリライターなりに譲ればいい。

 沼沢は、他の大多数のクラスメイトと同じく、このゲーム自体に対して積極的に参加しようというという意志には乏しかったが、スキルが使えるうちは十全に活用してやろうと思っている。

 沼沢のスキル『ジャンパー』は、極めて実用度が高かった。


ジャンパー Lv.82 ◇移動系

『瞬間移動。

 移動距離はレベルに依存』


 なにしろ、移動が一瞬で済むのが便利だった。

 ここまでレベルアップした今では、五キロ程度離れた自宅からこの学校まで、一回の跳躍で到着することができる。

 当然、視聴覚室から購買部までの距離などものともせず、そのおかげで沼沢はまだ生徒たちが誰も到着して居いない購買部でこれまでなら容易に入手できない、手作りクリームコロッケパンとクラブハウスサンドイッチ、それに飲み物を難なくゲットする。

 そう。

 こういう、自分自身のために活用するのが、一番の使い道だよな。

 と、沼沢は思う。

 なにかというと真面目に潰し合いのゲームに邁進しようとする三峰刹那や田所一について、沼沢は、

「なにムキになってんの?」

 という疑問しか沸かない。


 リライターとかいうやつらのいう通りに動いたところで、沼沢たちゲームの参加者にはそんなにメリットはないのだ。

 だったら、ほどほどに手を抜いて適当なところで誰かにスキルを渡してしまえばいい。

 基本、享楽的で、なおかつ現実的な発想をする沼沢は、このゲームに関しても極めて醒めた目で見ていた。

 こんなスキルをクラスメイトに全員に与え、なおかつ、そのスキルを使ってもあまり騒ぎにならないようにこの世界を変容することができるリライターは、人間から見れば一種の超越者だ。

 そんなリライターがなにを考えてこんなゲームを仕込んだのか、沼沢には想像さえできないのだが……それでも、真面目に参加してやるほどの義理も感じなかった。

 だって……本気でやりあったりしたら、到底無傷では済まない。

 特に攻撃系のスキルは、総じてオーバースペックに設定されているらしい。

 自称魔法少女の西城砂名らの四人組などの顔とスキルを思い浮かべて、沼沢はそんなことを思う。

 あんなのでやられたりしたら、たまったものではない。ひとたまりもない。

 痛いだろうな、と、沼沢は思い、それからまだ記憶に新しい眞鍋伸吾と叶治郎の一件を思い出しかけ、すぐに脳裏から振り払った。

 それまで、刃傷沙汰などとは縁がなかった沼沢にとって、あの一件はそれなりにショッキングなできことであった。

 あの一件のとき、沼沢はたまたま間近で二人のやり取りを見ていたので、なおさら強く印象に残っていた。

 みる間に血の気を失っていく眞鍋の顔、鉄臭さが充満する教室。

 あまりにも生々しい大変であり、忘れようとしてもしばらくは脳裏から去ってくれないだろう。

 だからこそ、意識して忘れる必要があると、沼沢は判断する。

 第一、あんな場面をいつまでも思い返していたら、食欲がなくなる。


──なにが、ゲームが終わればすべて元に戻る、だ。


 と、沼沢は心中で毒づいた。

 仮に死人が生き返るとしても、傷つけ、傷つけた人間の記憶が消えるわけではない。

 どんなに便利なスキルが自分のものになるとしても、このゲームに参加する課程で深刻なトラウマを刻み込まれるようでは、まるで割に合わないじゃないか!


 沼沢のこうした判断と思考は、面白くはなかったが、ある意味では常識的ともいえた。


 沼沢がそんなことを考えながら、スキル『ジャンパー』で視聴覚室に戻ろうとすると、

「やあ」

 と、背後から声をかけられる。

 振り返って声の主を確認すると、叶治郎が立っていた。


「お、おう」

 沼沢は、かすれた声で返事をする。

「早いね。

 もう買ってきたの?」

 叶は、微笑みすら浮かべて沼沢が手にしていたビニール袋を指さした。

「おれのスキルは、瞬間移動ができるんだ」

 逃げ出したくなるのをこらえて、沼沢はいった。

 昨日まで同じクラスメイトとしてそれなりに親しく接していたこの叶は、今朝、眞鍋を挑発して死滅させた張本人でもある。

 今の叶は、あのときと同じように柔らかい微笑みを浮かべていて、沼沢にしてみればだから一層不気味に思えた。

 一夜にして、親しい友人がシリアルキラーにでもなったかのような、そんな気分だ。

「そうか。

 瞬間移動か」

 叶はそういって、頷く。

「それは、便利そうだな」

「そうでもないぞ」

 上擦った声で、沼沢は答える。

「自分自身と着ている服、それに手荷物くらいしか移動できないし。

 いろいろ試してみたんだが、自分が持っている物体以外は移動することができないようなんだ」

「完全に、自分専用なのか?」

 叶は、確認してくる。

「そうそう」

 沼沢は、叶を刺激しないように、極力平静な態度を保とうとしていた。

「便利といえば便利だけど、極端に便利ってことはない。

 あまり応用が利かないというか……」

「……いや、そんなこともないと思うけどね」

 思案顔で、叶は沼沢の発言を否定した。

「結局は、使い方なんだよな。うん。

 どんなスキルも……」 


『……欲しいか?

 おれのスキル』

 といいかけて、沼沢はあやうく自制した。

 この叶はすでにふたつのスキルを所持している。

 自前の防御力に秀でたスキルと、眞鍋から奪った、攻撃力と成長力を兼ね備えたスキルと。

 その上、沼沢自身が持つスキル『ジャンパー』まで持ってしまったら、なおさら手が着けられなくなる。


「そ、そうかあ」

 沼沢は、叶との会話を打ち切ることにした。

「クラブサンド、残っていたぞ。

 まだ急げば間に合うと思うけど……」

「あ、そうか」

 叶は、沼沢の誘導に難なく引っかかる。

「それは、急がないとなあ」

 沼沢が購買部の方へ去っていくと、沼沢は太いため息をついてスキルを使用して視聴覚室へと移動する。

 視聴覚室に戻って自分の席につくと、一気に疲れを感じた。


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