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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
三日目
38/109

04-11 矢尻知道、スキル『バリヤー』

 実のところ、矢尻知道は十時前には目ざめてはいたのだが、養護教諭に「気分が悪い」と伝えてそのまま保健室のベッドの上で午前中を過ごした。

「気分が悪い」の事実であったが、それは体調に由来するものではなく、たぶんに心理的な要因によるものだ。


 ゲーム開始、初日、矢尻はスキルの所持に嫌悪感を表明した都井宮子に「スキルを貰ってやろうか」と提案したところ、嫌悪感を露わにされて拒絶された。

 そして今日は、登校時に訳も分からぬままに衝撃を受け、そのまま気絶してこの保健室まで運び込まれた。

 意識を取り戻してから詳しい事情を聞けば、七重芹香と路地遙が共同で行った攻勢の犠牲者になりそこねた、ということだったらしい。

 矢尻のスキルが『バリヤー』でなかったら、そのまま七重のスキル『ロングショット』の犠牲になってスキルを奪取されていたであろうことは想像するまでもなかった。


 ……なんだ、これは。


 と、矢尻は思う。

 現状に理不尽さに、いらだちをおぼえていた。

 いや、今回のゲームだけではなく、これまでの矢尻の人生そのものに、どうしようもない腹立ちをおぼえていた。


 矢尻の背は低い。身長は百五十七センチ。

 矢尻の体重は重い。体重は八十九キロ。

 そして、顔の造作も、お世辞にも美形とはいいがたく、運動神経にも恵まれていなかった。

 そうした要因はたぶんに遺伝子に起因する……という事実を、矢尻も今では知識としてわきまえている。

 しかし、子どもの頃は無理だ。

 自分自身も、自分と同年代の子どもたちも、鈍重な体と不細工な顔をした矢尻のことを無様だと認定していた。

 当然のように、いじめられることもあった。

 そう。

 矢尻は、容姿によって同級生から差別され、ときに陰湿ないじめを受けることもあった過去がある。

 というか、小学生の時分からいじめられることが当然であったため、そこのとを気に病むのさえやめてしまっていた。

 最低限の自衛手段は「周囲の人間を無視すること」であり、根本的な解決策は、いじめっ子らがいない環境へと身を移すことだと考えた。

 長い人生を想像すれば、最初の十数年の惨めさなど、後半生の成功でいくらでも払拭できるはずだった。

 だから矢尻は一心不乱に勉強をし、この倉石市立中央高校に入学した。この学校は地域でも随一の進学校で、矢尻のことを馬鹿にしていたやつらの学力ではどう足掻いても入学することは適わない。

 これ以降、矢尻の前には洋々たる未来が開けている……はずだった。

 しかし、 入学してからまだ数日しか経っていないこの時期に。


 ゲームが、はじまった。


 矢尻は、自分のステータス画面を表示する。


 バリヤー Lv.106 ◇防御系

『一定時間、あらゆる攻撃を無効化する。

 レベルがあがるごとに持続時間は長くなる』

  

 レベルが三桁にまであがっているのは、ゲーム開始から今まで、意識があるときは常にこのスキルを使用していたからだった。

 新堂零時のスキル『ナイトシールド』とは対照的に、自分自身の身を守ることしかできないスキル。

 都井宮子のスキル『愛の鞭』はこのスキル『バリヤー』をすり抜けたが、それはスキル『愛の鞭』による打撃が、正確には「攻撃」ではないと判定されたからではないのか。

 ……と、矢尻は考えている。

 都井のスキル『愛の鞭』の正体は、あのときの自分の反応から想像するに、おそらくは「鞭があたった相手にいうことを聞かせる」とか、そうした性質のものなのではないのか、と、矢尻は推測していた。

 それはそれで、使いようによってはかなり強力なスキルではあるのだが……矢尻自身のスキル『バリヤー』と同じく、直接的な攻撃力は、ない。


 歪なスキルだな、と、矢尻はスキル『バリヤー』のことを評価する。

 小心者の自分には相応しい、とも、思う。自嘲混じりに、ではあるが。

「あらゆる攻撃を無効化する」するはずのこのスキルを使用していたのに、七重のスキル『ロングショット』による攻撃があたったくらいで、なぜ、矢尻は気を失ったのか?

 簡単だ。

 物理的な衝撃はスキルによって無効化することはできても、心理的な負荷までは除去できなかったからだ。

 矢尻は、実際には特に影響がなかったはずの攻撃を受け、それでも心理的にショックを受けて気を失ったのだ。


 なんという失態。

 なんという醜態。


 矢尻は保健室のベッドに横になりながら、一人で自分の惨めさを噛みしめている。

 

 せっかく、この学校に入ることができたのに。

 なぜ、ここでも惨めな思いをしなければならないのか。


 これまでの半生。都井宮子に拒絶されたときの目つき。ゲームのこと。

 ……などが、矢尻の頭の中で無秩序に駆けめぐる。

 基本的に小心な矢尻は、いじめられることはあっても、自分から誰かを傷つけようとする性格ではない。

 しかし……これは、「ゲームなのだ」。

 誰かが最後まで生き残り、ゲームが終了してしまえば……どんなに傷つけあっても、すべてゲーム前の状態にまで戻る。

 少なくとも、「そうする」と、リライターは主張している。


 だったら……そのゲームの間だけでも、自分はやられっぱなしでなくてもいいのではないか?


 いや。

 この機会を逃せば、自分は、一生……負け犬のままなのではないか?


「困難に対しては、立ちむかうよりは逃げる」というのが、これまでの矢尻の基本方針だった。

 実際、この方針は、それなりに合理的な側面もあると思う。

 だが、このゲームのように、逃げ続けるだけではうまくやり過ごせない問題もあるのは事実だった。

 ゲームの結果が問題なのではなく……。

 ここで、「困難に立ちむかう」という経験を得ずに、以後一生、精神的な負け犬として生き続けることを……矢尻は、恐れた。


 せっかく、防御一辺倒のスキルを与えられているのだ。

 このゲームの期間中、やるだけやって、派手に暴れるのもいいのではないか?

 ちょうど、そう。

 矢尻を失神させた、七重たちのように。


 そして、矢尻は考えはじめる。

 これまで、同級生たちのスキルや性格などを思い返し、誰から、どういう手順とタイミングで攻めていくべきかということを。

 矢尻は、一度やると決めたらかなり真剣に取り組みはじめる性格であったし、なにより、小心者特有の用心深さも備えていた。

 意識を取り戻してから午前中いっぱい、かなり綿密な思考を展開したあと、矢尻は保健室をあとにして学食へとむかった。


 このゲームを戦い抜くためにも、食事を抜くのは得策とはいえないのだった。


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