04-02 七重芹香、スキル『ロングショット』。それと、クラスメイトの反撃。
校門前に、生徒たちが足止めされ、人垣ができていた。
──一年D組、一年D組の生徒のみ、校門前に出てきなさい。
繰り返す。
一年D組の生徒のみ、校門前に出てきなさい。
生活指導の芝崎先生が、拡声器を通じてそんなことを喚いている。
「あ。
これは、あの二人がなんかやらかしたな」
と、新堂零時は直感した。
七重芹香と路地遙の体育会系コンビは、この市立中央に入学できたくらいだから成績は悪くないはずなのだが、なにかというとよく考える前に行動に移す癖がある。
昨夜、七重と電話したときの口振りでも、あの二人が何事かやらかした可能性は大きい……と、新堂は思った。
このまま放置していては、まともに登校もできんか……と考えた新堂は、素直に芝崎先生の元に出頭することにした。
「はい、すいません。
一年D組の者です。
ちょっと通してくださいね」
などといいながら、新堂が人垣をかき分けて進む間にも、その頭上では机や椅子が物凄い勢いで飛んでいたりする。
「なんか、芝崎先生がうちのクラスのやつらを集めているみたい」
双眼鏡を覗きこんだ路地遙が、スキル『ロングショット』の機能により次々と机や椅子を投擲している七重芹香に報告をする。
「クラスのやつらを一カ所にまとめてくれるんなら、かえって好都合!」
そういって七重は、またひとつ、机を投げた。
その机も、教室内で普通に使用するものだったから、極端に頑丈な造りになっているわけではない。
重量もそこそこ、決して重い物ではなかったのだが、女子である七重が軽々と持ち上げて、さらには何十メートルも投げ飛ばせる代物でもない……はずであった。本来ならば。
しかし、今の七重は、スキル『ロングショット』の影響下にある。
さらにいえば、過去二日で行ったレベルあげが幸いして、そのレベルも三桁台になっていた。
【
スキル:
ロングショット Lv.123 ◇攻撃系
『物体を投擲することにより攻撃。
威力や命中精度はレベルに依存』
】
というのが、この時点での七重のステータスであった。
先ほどの、
「クラスのやつらを一カ所にまとめてくれるんなら、かえって好都合!」
という言葉は、もちろん例のゲームに関連した内容である。
七重が投げた机は、風切り音を発しながらまっすぐに空を飛ぶ比留間結衣にむかっていく。
これまでにも何回か投げているのだが、比留間結衣が上空へ上空へと逃れていくせいかまだ一度も命中していなかった。
投擲による攻撃の際に、下に位置する者が、から上へ位置する標的を狙うというのは、難易度が数段高くなる。
七重の度重なる攻撃を避けるうちに、比留間は、今では四階建ての校舎の屋上よりも遙か上空にまで逃げていていた。
「やっぱり、上に行かれると厳しいなあ」
さほど残念そうな口振りでもなく、七重はそういって比留間を狙うことをあきらめた。
もともと、たまたま目についたから攻撃してきただけであり、今、ここでどうしても比留間を沈めなければならない理由もないのであった。
「それよりも……」
七重は自分用の双眼鏡を取り出し、窓から身を乗り出して校門前の様子を確認する。
「……ええっと。
出てきたのは、例によって委員長と田所くん、それに……おや?
眞鍋までいる」
「あとは、西城ちゃんとかの四人組ね。
あの子たち、昨日は瑠河狩りにいっていたようだし」
ちなみに、七重と路地が昨日の瑠河狩りに参加しなかったのは、部活があったからだった。
体育会系の部活では、一年生は気軽に私用で休むことは許されない空気があった。
他の学校での事情は知らないが、部活にも力を入れているこの学校ではそういうことになっている。
また、七重と路地にとっても、部活とこのゲーム、どちらが優先順位が高いかといえば、前者の部活なのである。
「四大元素の四人組かあ」
七重は双眼鏡から手を離し、腕組みをした。
「あいつらに来られると、ちょっと厳しいかなあ」
「接近戦なら任せて!
といいたいところだけれど……火とか風とか氷とかで攻められると、流石に……ねえ」
路地も、肩をすくめる。
「打ち合わせ通り、できるだけ近寄らせないように頼むよ!」
そういって、路地は七重の肩を叩いた。
二人が居るのは、四階にある空き教室だった。
この倉石市立中央高校においても、少子化の影響を受けて順調に生徒数は減少している。
それで、空き教室はそれなりに出てくるわけだが、そうした空き教室は余っている備品などを置く倉庫代わりに使用されていた。
この二人はそこに目をつけ、狙撃ポイントとして利用することにした。
この教室内にもそれなりに机や椅子は押し込められていたのだが、さらに念を押して、二人は昨夜一晩をかけて余っている椅子や机を運び込み、弾丸切れが起こらないように準備している。
二人が集めた備品は、空き教室内には入りきれず、廊下にまで積みあげられている状態だった。
二人がそんなやり取りをしているとき、唐突に「軍艦マーチ」が流れた。
七重はそばの机の上に置いていた自分のスマホを手に取り、液晶画面の表示を確認する。
「あ。
新堂くんだ」
そう呟いて、七重は新堂からの着信を受けた。
──お前らとの同盟はここまでだ。
挨拶も抜きにして、新堂零時はいきなり用件を告げてくる。
──今回、おれは他のやつらの手助けをする。
今後、お前らと組むことはない。
それだけを一方的に告げると、新堂は七重の反応も確かめずに通話を切った。
「どどどど、どうしよう!」
七重は、わかりやすく動揺していた。
「新堂くんに切られちゃったよ!」
これだけの騒ぎを起こしておいて、なおかつ新堂に見限られる可能性を少しも想像していないところに七重の単純さがあった。
「聞いていた、聞いてた」
路地は、七重とは対照的に落ち着き払っている。
「それよりも、そろそろうちのクラスの子たちが反撃を……」
路地がいい終わる前に、窓の外から「ゴゴゴゴゴ……」という、やたら重々しい音が響いてくる。
何事か、と、七重と路地が窓の外に首を出すと、驚いたことに、校門からこの教室にむけて、真っ直ぐな坂道が隆起して出現しているところだった。
いうまでもなく、これは、辺見洋子のスキル『捲土重来』の機能により出現した、この教室への直通近道であった。
七重と路地は、一瞬、呆気に取られたもののすぐに気を取り直し、
「……これだから、特殊系は!」
とか毒づきながら、七重の弾丸となる机や椅子を改めて窓際に集めはじめた。
あの坂道から、クラスの者たちが突撃して来たとしても、それは彼女たちにとっても不都合なばかりではなかった。
なぜならば、坂道を登ってくる途中は他に逃げ場がなく、否応なく七重のスキル『ロングショット』の標的になることを意味していたからだ。
「……うおおおおおっ!」
眞鍋伸悟は雄叫びをあげて坂道を駆けあがり、そして、七重が投げた机の直撃を受けて真後ろに転倒した。
直撃、といっても、眞鍋をはじめとしてこのときの突撃に参加した者は、全員、新堂のスキル『ナイトシールド』によってかなり堅固に護られている。
命中時の衝撃こそ吸収しきれないものの、それだけで大きなダメージを負うことはないはずであった。
その証拠に、机が直撃した眞鍋はすぐに身を起こし、何事もなかったかのようにまた坂道を駆けあがりはじめた。
「そらよっ!」
田所もまた、新堂のスキル『ナイトシールド』に護られながら、坂道を駆けのぼっている最中だった。
自分にむかってきた机も、当たる直前にスキル『ジャック・ザ・リッパー』によって難なく分断、まっぷたつに斬られた机は田所の身を護る『ナイトシールド』の障壁に当たって脇へと逸れた。
衝撃はそれなりにあるものの、来るとわかって身構えていればなんということもない。
スキル『ジャック・ゼ・リッパー』によって二分すれば、ひとつあたりの質量もそれだけ軽くなるので、田所はほとんど速度を落とさずに坂道を駆けのぼっている。
昨日の瑠河狩りの際、活躍らしい活躍をできなかった田所は、なんとなく張り切っている風でもあった。
その田所のすぐうしろに肥満体型には似合わない軽快な足取りの内膳英知、内膳から少し距離を置いて西城沙名、奥地八枝、夢川明日夢、辺見洋子らが続く。
つまりは、昨日の瑠河狩りに参加した面子がほとんど集まった形であった。
昨日の瑠河狩りに参加して、この突撃に参加していない者もいた。
三峰刹那は、なぜか、今回は協力をこばみ、涼しい顔をして唐突に出現した坂道のすぐ横を歩いている。
一年用の昇降口が、ちょうどそちらの方向にあるためだった。
今も坂道から怒声や打撃音が響き、ともすれば椅子や机が落下してきたりしているのだが、スキル『エアタンク』を所持している三峰はそのことを意に介さなかった。
そうした落下物からも、自分のスキルの機能により、身を護ることが可能であったからである。
その三峰と並ぶように、平然と坂道の下を歩く生徒がもうひとり存在した。
テストプレイの得点として、三峰のスキル『エアタンク』を持つことになった有坂誠だった。
校門に集まった生徒たちは、見えない障壁により身を護りながら遠ざかっていくふたりの男子生徒の背中を見送っていた。




