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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
三日目
28/109

04-01 登校風景。加賀姫香と比留間結衣。スキル『エアリアルダイブ』 

 ゲームが開始されてから、三日目の朝となった。

 現時点での脱落者は、1年D組の全三十四名中、瀬川太郎と留川秀夫の二名のみということになる。

 数字だけを見るとかなりのスローペースに思えるが、初日にの一日目にはまだ、みんなも唐突にはじまったゲームに対してどう対処すべきか戸惑っているところが多かったし、二日目の昨日は留河の『トラップメイカー』へ対処するためにそれ以外のことにあまり意識をむける余裕がなかった。

 ゲームの潰し合いが本格的にはじまるのは、三日目である今日からだろうな、と、学校へむかいながら加賀姫香は思った。


 倉石市立中央高校の生徒たちは、バスや自転車、徒歩などによって通学してくる。鉄道の駅は半径二十キロ以内に停車駅がない上、本数も極端に少ないローカル線になるので、利用者はほとんどいない。

 倉石市近辺は、足といえばすなわち自動車になる典型的な片田舎であり、そうした環境下で高校生であるということは年齢的な意味でもモータリゼーションの恩恵もあまり享受することもできず、移動できる範囲が極端に制限されるということでもあった。 

 そんなわけで、倉石市立中央高校に通うほとんどの生徒たちは自転車かバスを利用し、ごく少数の寮生や自宅が学校に近い生徒たちだけが徒歩で通学をすることになる。

 加賀姫香は、その少数派の徒歩圏内に自宅がある生徒だった。

 ちなみに、校内の駐輪場を利用するためには通学に使用する自転車を学校側に登録する必要があったし、学校側はエンジン付きの原付やバイクなどでの登校は認めていない。


 徒歩圏内にある、とはいっても、実際に歩けば加賀の足でたっぷり二十分以上はかかる。

 同じクラスの友人などは、

「自転車を使えば?」

 と勧めてくれるのだが、その程度の距離なら、と加賀自身が納得した上で徒歩通学を続けていた。

 部活に所属しているわけでもなく、日頃から運動をする習慣のない加賀にとって、「毎日それくらい歩くのはちょうどいい運動だ」と判断したからであった。

 実際、散歩とでも考えればさほど苦にはならない距離でもある。

 毎朝家を出て、十分も歩くと倉石市立中央高校の制服に身を包んだ生徒たちの姿がかなり目につくようになってくる。学校に近づけば近づくほど、生徒の数は増えていく。

 若干、部活の朝練などで通学する時間がずれる生徒も居るのだが、大多数の生徒たちは始業時間に間に合うように登校してくるわけで、登校してくる時間帯もさほど変わらないのであった。


 しかし、その日の朝は、少し事情が違った。

 校門前に、かなり大勢の生徒たちが集まっている。 

 というよりは、どうした理由からか登校してきた生徒たちが校門から校内に入ろうとせず、そこで渋滞が発生している状態のようだった。

 足止めをされている生徒たちが囁き合っている内容に耳を傾けてみたところ、案の定、「一年D組」とか「ゲーム」とかいう単語が漏れ聞こえてきた。

 ……やはり、例のゲーム関係か。

 と、加賀は心中で嘆息をする。

 加賀は、例のゲームに関するスタンスとして、「守りに徹する」ことを選択していた。

 自分から誰かに手出しをする気にはならないが、自分の見に降りかかってくる火の粉は払う、というわけである。

 まず第一に、それなりに裕福な家に生まれ育った加賀は現在の生活に対してこれといった不満はなかった。だから、最初のリライターが提示してきたこのゲームの報奨に対しても積極的に欲しいとは思わず、しかし、誰かに襲われた際に黙って被害者になるのも面白くはない。むざむざやられるくらいなら、抵抗するだけ抵抗してやる。

 というのが、この時点での加賀のゲームに対するスタンスであった。

 積極的にゲームに荷担するわけではないが、自衛のための努力までは放棄しない。

 というこの手の「選手防衛型」の生徒は、この加賀だけではなく、実は一年D組の中でも最大派閥を形成している。

 ある日いきなり、スキルなる不可解な超常能力を与えられ、

「さあ、最後のひとりになるまで争え!」

 といわれたところで、

「はい! やります!」

 といきなり乗り気になる高校生もそう多いとも思えず、こうした「消極的参加者」が最大数になるのはごく自然な成り行きであるともいえた。


「ひめー!」

 人混みに阻まれて、足止めをされていた加賀に、元気に声をかけてきた者が居た。

「おっはよー!」

 振り返ると、加賀と同じ中学出身の、そしてやはり同じ徒歩通学組の比留間結衣が手を振りながら小走りに近寄ってくるところだった。

「なに、この騒ぎ」

 加賀が挨拶を返したあと、比留間は校門前に人混みをしめして、そう訊ねてくる。

「まだ着いたばかりなのでよくわからないのだけれど、どうやら例のゲームに関係した騒ぎみたい」

 詳しい事情を知らない加賀としては、そう答えるしかなかった。

「そっか。

 ゲーム関連か」

 比留間は小さく頷く。

「朝っぱらから、校門付近で誰かが暴れているのかな?」

「そうかも知れない」

 比留間の推測に、加賀も頷く。

 校門でクラスメイトの誰かかしらが暴れていたとしたら、誰だってのすの脇をすり抜けて歩くのはいやがるだろう。

「大きな物音が聞こえてこないのが、気にかかるけど……」

 スキルを持つ者同士が本気でやり合えば、それなりの物音は生じるはずなのだが……と、加賀は、テストプレイのときの様子を思い出しながら、呟いた。

「それじゃあ……ちょっと、見てこようか」

 軽い口調でそういって、比留間は持っていた鞄を加賀に預け、大きく膝を屈めてから真上に跳躍をした。

 跳躍?

 いや、それは単なる跳躍ではない。

 手足を振り回して、加賀の体はなにもない空中を進んでいく。

 比留間の動作をみて、加賀はまず、どこかでみおぼえがあるな、と思い、その直後に、「ああ、あれは自由形のフォームだ」と、察した。

 空中を泳ぐ。

 というのが、どうやら比留間結衣のスキルであるらしかった。

 比留間は力強いフォームで空中を掻いて空高く、垂直に進んでいく。

 ちらっりと見えたときに確認したところ、スカートの中にはちゃんと短パンを履いて下着はみえないようになっていた。

 ほとんど無音で、なおかつ比留間の挙動が自然であったので、最初のうちはごく近くに居た人たちしか比留間のことに気がつかなかったが、比留間の高度があがるに従って、空を飛ぶ比留間の方を指さしてなにやら騒ぎだす者が増えてきた。

 人混みをなしていた倉石中央の生徒たちは、それまでとは違った意味で騒ぎはじめる。

 

「絶景かな、絶景かな」

 すぐに上空十メートル以上の高度に達した比留間結衣は下界を見渡してそんなことをいった。

 これまで、スキルを試すときはたいてい夜間であったので、ここまで克明に下界の様子を観察する機会に恵まれていなかったのだ。

 高度十メートルといえば、通常の建築物なら四階から五階相当の高さになる。地上の人々も、かなり小さく見えた。

 その高度で、なおかつ、足元になにもない現在の比留間の状態は、高所恐怖症の者ならば明らかに恐慌を来すのであろうが、楽天的な精神構造をしている比留間結衣はこれまでスキルを練習してきた期間ですっかり慣れっこになってしまっている。

 垂直に上昇するのをやめ、比留間は手足を動かして空中を掻き、姿勢を変えてから今度は水平方向に移動しはじめた。 

 これらの動作は、基本的には比留間がこれまでプールの中でやってきた、水泳の動作とほぼ同じんものだった。


 エアリエルダイバー Lv.13 ◇移動系

『空中を泳ぐことができる。

 移動速度はレベルに依存』 


 というのが、リライターにより比留間結衣に与えられたスキルになる。

 移動速度も、レベルが一だった最初こそ歩くのより遅いくらいだったが、レベル十を超えた今では、比留間の体感で自転車以上の速度は出るようになっている。

 大きく弧を描いて周囲を旋回したあと、比留間は校門方面にむかって泳ぎはじめた。


──おーい!


 そんな比留間に、拡声器を使用して語りかける者が居た。


──そこの女子!

 一年D組の生徒だろ!


 生活指導の、柴崎とかいう先生の声だった。

 確か三年生の受け持ちで、比留間自身とはあまり接点がない。

 おそらく、空を飛んでいるからスキル持ち、すなわち一年D組の生徒と推測して、そんな発言をしているのだろう。


──それ以上、校舎に近づくな!

 危ないぞ!


 柴崎先生は、そう続ける。


 ……危ない?

 と、比留間が訝しんだとき、比留間のすぐ横を、なにかの物体が通過した。

 比留間は例によって空中を掻いて、反射的にその物体を避けている。

 避けながら、通過していく物体を見てみると……。

 それは、椅子だった。

 普段、教室で使用している、鉄パイプと合板でできた、あの椅子が、物凄い勢いで吹っ飛んでいく。

 比留間の体をかすめて飛び去った椅子は、そのまま地面に落ちていった。

 下界から、悲鳴があがる。

 ……なんだ、ありゃあ……。

 と、比留間は思う。

 驚くよりも、呆れていた。

 しかし、なにが起こっているの比留間が把握するよりも前に、第二、第三の攻撃が次々に襲いかかってくる。

 椅子や、それに机が、比留間にむかって次々と飛来して来た。


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