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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
二日目
27/109

03-15 芦辺の襲撃。井崎巴、スキル『ダイスを転がせ』

 芦辺素直がいくつかの条件を指定して絞ったところ、今夜中に襲撃可能なクラスメイトは井崎巴ただひとりになってしまった。

 井崎の所持スキル名は、『ダイスを転がせ』。スキルの詳細については、芦辺のスキル『自動筆記』に質問してみてもまるで反応が返ってこなかった。

 これについては、「そういう仕様なのだろう」、と、納得するしかない。

 今さらではあるが、このスキル『自動筆記』は一見便利なようにみえて使い勝手が悪いスキルなのだった。

 早く他のスキルを入手して、このゲームの中でももっと有利なポジションに立ちたいものだ、と、芦辺は思う。


 しかし、『ダイスを転がせ』、か。

 名前から察するに、確率を操作するとかそんな機能なのかな、と、芦辺は想像をする。

 分類でいえば、芦辺の『自動筆記』と同じく「特殊系」。つまりは、そのスキル自体は攻撃力を持たない、ということになる。

 芦辺とて本音をいうのならば攻撃力の高いスキルを奪取したいところではあったが、そういうスキルの持ち主を下手に狙うとまず確実に反撃を食らう。

 普段からスポーツとは縁がなく、運動らしい運動といえば体育の時間にするだけ、という芦辺には、わざわざそんな敵を選択して襲撃する度胸も勝算もなかった。

 その点、この井崎の『ダイスを転がせ』は攻撃力を持たないスキルである上、井崎自身は小柄な女子生徒であった。

 体力や身体能力がない芦辺が襲う対象としては、なかなかいい条件が揃っていることになる。

 若干、同じクラスメイトの、しかも女子を襲おうとしていることに後ろめたさを感じないでもないのだが、その井崎だってスキルを早めに手放せばそれだけ危険なゲームから早めに身を引くことになるわけであり、これはつまり井崎にとってもよいことなのだ、と、芦辺は自分自身を無理に納得させた。

 襲撃対象を決定すると、芦辺は机の上に置いてあった液晶のデジタル時計で時刻を確認した。

 もうすぐ午後八時になろうかという時刻だった。

「……もう、こんな時間か」

 独り言をいって、芦辺は自室を出て一階のダイニングへと降りた。

 そこで家政婦が冷蔵庫に用意してくれた食事を取りだして、電子レンジで暖める。

 芦辺の父親は地元の中小企業に勤務、母親は県庁に勤めていて、二人とも毎日のように深夜まで残業をしていた。

 詳しく仕事の内容などを聞いたことはないのだが、いつでも忙しそうにしているし、収入もかなりあるようだから、二人とも職場ではそれなりに評価をされているのだろう。

 芦辺の両親に共通しているのは、二人ともとも極度の仕事中毒であり、家に居る時間が極端に少ないということだった。

 それこそ、息子である芦辺が、

「なんでこの二人は結婚なんかしたんだろうか?」

 と首を傾げるくらいには、二人とも家庭とか芦辺に関心を持っていなかった。

 その証拠に、家事や芦辺自身の世話などは昔からすべて家政婦やベビーシッター、家庭教師などに外注して、丸投げにしている。

 両親の両親、すなわち芦辺にとっては祖父や祖母にあたる人たちも何年も前にお亡くなりになっていたので、運動会などの学校行事も芦辺のところは家政婦が作った弁当を持参してくれた。

 幼い頃はともかく、その家政婦も、今では週に三日ほど来て掃除や洗濯、食事などを作ってくれるだけであり、高校受験が終わってからは、家庭教師が来ることもなくなった。

 つまりは、その家政婦が通ってくる曜日を外せば、芦辺は一日中、自分の好きに過ごすことが可能な環境下に居ることになる。


 芦辺は寒々としたダイニングで自分でいれたお茶、自分で暖めた味噌汁、自分で暖めた料理、電子ジャーに保温されているご飯をいつものように黙々とたいらげた。

 いつもと違うのは、このあとに井崎を襲う予定があったので、芦辺自身の気分がどことなく高揚している、ということだけであった。 

 一人で食事を終えた芦辺は、動きやすい服装に着替えたあと、父親のゴルフバッグを背負って自宅をあとにした。

 もうすぐ、バイト先のファミレスを井崎が出てくる時間なのだった。


 襲撃が予定されている場所は、芦辺のスキル『自動筆記』が教えてくれた。

 そのファミレスから自宅に帰るまでの道順の中で、ほとんど人通りが途絶える場所があり、そうした情報については『自動筆記』は気前よく吐き出してくれる。

 芦辺の自宅からもそんなに遠くはなかったので、芦辺は徒歩でその場所まで移動し、街灯の灯りなどができるだけ届かない場所を探して井崎が通りかかるのを待つことにした。

 途中、警官などに遭遇すれば職務質問かあるいは補導をされる可能性もあるわけだが、それへの対処法も『自動筆記』は教えてくれた。

「倉石市立中央高校のゲームに必要なので外出しています」

 といえば、すでにリライターの影響下にある大人たちは黙ってスルーしてくれる、ということだった。

 芦辺はその薄暗い場所で、ときどき腕時計で時刻を確認しながら、井崎を待つことにした。 


「いやあ、巴ちゃんがあのファミレスでバイトしてたとはなあ」

「あそこ、うちの姉も働いていたことがあるんで。

 まあ、その伝手で」

「いいなあ。

 わたしもなんかバイトしようかなあ」


 芦辺が何度か時刻を確認したあと、井崎が来るはずだった方角からなんだか聞きおぼえがある声が響いて来て、芦辺はぎょっとした。

 井崎の声も混ざっているようだが、それ以外にも複数の声が混ざっている。

 てっきり井崎が単独でここを通りかかるものと思いこんでいた芦辺は、その声が近づいてくる前にその場から撤退をすることにした。

 井崎一人を相手にするのと、井崎プラス数名を相手にするのとでは……なにより、襲撃の成功率ががくんと下がるってくる。

 急ぎ足でその場から遠ざかりながら、芦辺は、それらの声の主にようやく思い当たった。


「うちの学校、バイトは禁止されていなかったっけ?」

「ないねえ。そういう校則は」

「あえて禁止するほどのことでもないってか?」

「一応、進学校だからねー。

 バイトできるほど余裕のある人の方が少ないし」

「部活にでもはいっていれば、なおさらねー」

「部活っていえばさあ、うちの学校って結構おかしくね?

 水球部はあるのに、なぜか水泳部はないし」

「偏っているちゃあ、偏ってるかなあ」

「なぜか武道系は充実しているよね。

 剣道部はともかく、弓道部や拳法部まであるし」

「だけどまあ、たまたま入ったファミレスで巴ちゃんが働いててびっくりしたよう」

「運が良かったよね。

 巴ちゃんも、ちょうどシフトが終わる時間だったし」

「巴ちゃんもまあ、ゲームの最中によくもまあバイトに出られる勇気があったもんだ」

「下手すれば、瀬川くんみたいに誰かに襲われる可能性があったわけだし……」

「ああ。

 それは、大丈夫」

 井崎巴はなんでもないことのようにいい放つ。

「わたしのスキル『ダイスを転がせ』は、そういう目を操作して出さないようできるスキルだから……」


 井崎巴と同行しているのは、奥地八枝、西城沙名、辺見洋子、夢川明日夢の自称「魔法少女」の四人組だった。

 よりにもよって、その四人!

 と、自宅へ急ぎながら芦辺は臍をかむ思いになった。

 本人たちの自称によると「魔法攻撃」、風とか電気とか火とか氷とかを自由に操るスキルの持ち主たちであった。

 それぞれ単独でも、十分に高い攻撃力を伴ったスキルの持ち主たちであり、単純に攻撃力だけを比較したら、三峰の『エアタンク』をも凌駕しているのではないか……とさえ、芦辺は疑っている。

 とにかく、こちらから手を出さない方がいい相手であることは確かだった。


 こうして、芦辺素直の最初の襲撃は「未遂」に終わった。


 井崎巴のスキル『ダイスを転がせ』。

 その機能は、「確率を操作すること」のみ。 



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