03-14 二人と、一人。
三峰刹那と田所一、それに瑠河秀夫の三人を夕食前に自宅前で出迎え、そのあとに家族とともに夕食。
夕食が終わってから新堂零時はスマホを取り出して、一応、瑠河の件が片づいたこと、それに瑠河狩りに参加した者たちにかけたスキル『ナイトシールド』による防御を解いたことなどを簡単にしたため、同報メールで頼衣玉世、七重芹香、路地遙の三人に送る。
瑠河が新堂にスキル『トラップメイカー』を譲渡したことは、この三人に限らず、リライター仕込みの不思議アナウンスでクラス全員が知っているはずであるのだが、念のために知らせておいた。
新堂にしてみれば、かなり事務的な「業務連絡」程度のつもりだった。
メールを送信していくらもしないうちに着信音が響く。
スマホの画面を確認すると、七重からだった。
──今、いいかな?
電話に出ると、七重は早口にそういった。
「暇していたところだから、別にかまわないけど」
新堂はそう応じた。
「なにか用か?」
──用ってほどでもないんだけど、後学のため、瑠河くんの手口とか聞いておきたいと思ってさあ。
「三峰が田所に聞け。
その辺のことは、おれも詳しくは聞いてないし」
新堂は素っ気なく答える。
──はは。
あの子たちは、ちょっとねえ。
新堂くんと比べると取っつきが悪いというか、声をかけにくいっていうか……。
ねえ。
瑠河くんが罠を仕掛けたとき、どうやって学校に忍び込んだのかとか、聞かなかった?
「……夜中に学校にいったとかいっていたな」
新堂は三峰たちの会話の内容を反芻しながら答える。
「警備員に見つかったけど、ゲームのためだといい張ったら見逃してくれたとかいってた」
──なるほどぉ。
七重は、電話のむこうで感心した声を出す。
──小細工抜きで行ったか。
いわれてみれば、それが一番手っ取り早いや。
考えてみれば、リライターの立場にしてみれば、ゲームの進行を促進するためには多少の無理も利いてくれるはずだしなあ。
「……いっておくけが、お前らがそんな真似をしたとおれが知ったら、その時点で『ナイトシールド』による防御を解除するからな」
一応、新堂は忠告をしておく。
──わかってますって。
それじゃあ、あんまり新堂くんの時間を奪うのもなんだし……。
七重はそういい、通話を切った。
……あいつ、明日の朝あたり、なにか仕掛けるつもりだな。
と、新堂は思う。
根拠などない勘に過ぎなかったが、なぜかそう確信できた。
「……一応、頼衣さんには気をつけるように伝えておくか」
再び、新堂はスマホを手にしてメールを書きだした。
蘭世明の自宅に招かれた黒森永遠は、津川問に、
「黒森さんはお客様なんだから、そちらで寛いでいて」
と、リビングに案内される。
いくらも経たないうちにお茶が出され、津川はそのまま食事の準備に取りかかった。
「あ、あの……。
お手伝い、しましょうか?」
黒森は気弱な語調で、津川に提案をしてみた。
一方的に世話になるだけというのも、かえって居心地が悪かった。
「いいのよー。気にしないでー」
手慣れた様子で調理をしながら、津川は機嫌のよい声を出す。
「二人分も三人分も手間はそんなに変わらないし」
「問は慣れているから、そんなに気にしないでいいよ」
蘭世まで、そんなことをいい出す。
「第一、問は自分の料理をぼく以外にも食べてほしいと思っているらしいし」
そういわれてしまえば、黒森にしてみても、それ以上強硬に手伝うとはいい張れなかった。
「い……いつも、津川さんがご飯を作っているの?」
おどおどした様子で、黒森が蘭世に尋ねる。
もともと人付き合いを得意としない黒森は、沈黙が怖かった。
「まあ、だいたいは」
蘭世は、平然とした様子で頷く。
「というか、問がぼくに家事をさせてくれない」
そういえば、この二人、いつも同じ弁当を学校に持ってきているよな、と、黒森は思い出す。
クラスの中でも、やっかみ半分に「津川の愛妻弁当」みたいな見方をされていた。
黒森は、ソファに座っている蘭世の様子をうかがった。
こういってはなんだが、かなり平凡な顔つき、体つきだと思う。
取り立てて人目を引くような要素がない、という意味で。
津川の方は、クラスの女子の中でかなり上位に食い込むほど容姿に恵まれていると思うが、蘭世の方はというと……やはり、「平凡」とか「凡庸」とかいう形容が似合っている外観をしていた。
外見だけで判断をするのなら、津川の方が蘭世に惚れ込むような要素はないように思えるのだが……。
「ら、蘭世くんと津川さんは、もう長いつきあいなんですか?」
少し考えてから、黒森は、言葉を選びつつ、そんな風に質問をぶつけてみた。
「親同士が、仲、よかったから」
蘭世は慎重な口振りで答えてくれた。
「それこそ、生まれたときからのつき合いにはなるのかな。
いわゆる、幼なじみってやつだと思う」
「……幼なじみ」
黒森はそういったっきり、しばらく絶句をする。
そんなに濃い人間関係は、アニメとかマンガの中だけに存在するのだと思っていた。
少なくとも、これまでの黒森の生涯の中では、今まで一度もお目にかかったことはない。
「わたしの方は、いつでもそれ以上の関係になりたいといっているんですけどねー」
津川が、キッチンの方から口を挟んでくる。
「明くんの方が尻込みをしている状況でしてー」
あ。
これは、わたしに対する牽制だな、と、黒森は直感した。
一応、黒森自身も女子の範疇には入るわけだが、この津川を相手にして異性を争うつもりなど微塵もない。
自慢ではないが、黒森は自分の外見に自信を持ったことがない。
小学生なみに貧弱な体。半端なくせっ毛。
どこからどうみても、異性からはまともに相手にされないという「逆の自信」ならたっぷりとあるのだが。
ここであれこれと尋ねているのは、あくまでもこの二人の関係や情報を集めることによって今後の保身をはかるために利用したいと思っているからだった。
「……尻込みをしているのは事実だけどね」
蘭世は、苦笑いを浮かべながら、そういう。
「ただ、それは……それなりに理由があるからで」
「また、共依存がどうこうっていうんでしょー」
調理をする手を休めずに、津川が応じる。
「いつもそんなことをいって、はぐらかすんだからー」
「別に、はぐらかしているつもりもないんだけどね」
蘭世はいった。
「ここまま、これ以上近づきすぎるのもよくないとは思っている」
……なんだか、この二人には、思ったよりも複雑な背景があるらしいな……。
と、黒森はそう思った。
津川問の料理は普通にうまかった。あくまで、普通に。
一般的な家庭料理というか。
とにかく、お店で出すような豪華さはない。
けれども、食べると安心できる味というか。
さといもの煮転がしに、ほうれん草のゴマ和え。カレイの煮付け。切り干し大根。
女子高校生が作るにしては、かなり渋いメニューだった。
でもそれが、普通にうまい。
どちらかというと小食の黒森が、いつもよりも箸が進み、かなり多めに食べてしまったほどだった。
「ど……どれも、おいしい」
黒森は素直にそういった。
「はい、お粗末様です」
津川は黒森の賛辞をにこやかな表情で軽く受け流す。
「お料理は……もう、長いことやっているんですか?」
純粋な好奇心に駆られて、黒森はそんなことを訊いてしまう。
丁寧な訊き方になってしまったのは、黒森が他人と会話をすることに慣れていないからだった。
「うーん」
少しの間、津川は思案顔になった。
「長いといえば、長いのかな。
でも、本格的にはじめてから、まだたった二年だし……」
「……二年?」
黒森は、短く津川の言葉を反復をする。
十六歳の女子高校生にとって、二年という歳月は長いのか、短いのか……。
などということを考えていたわけではなく、ただ単純に、津川の言葉を鸚鵡返しにしただけだった。
「そ、二年」
津川は笑顔を浮かべながら、いった。
「ちょうど二年前に、ね。
明くんのお母様が事故でお亡くなりになったの」




