03-11 《三峰刹那のスキル『ファイブセンス』が田所一に奪取されました。》
「それで、約束の報酬だが」
田所一が切り出す。
「こうして瑠河も捕らえたんだから、もういいだろう」
その瑠河秀夫は田所と三峰刹那に挟まれる形で、バスの座席に座っていた。
溜桶から倉石市方面へ出るバスは全般的に本数も乗客数も少ない。
それと時間帯のせいか、田所ら三人以外の乗客はいなかった。
「そうだな。
確かにそういう約束だった」
田所の言葉に三峰は頷き、
「攻撃系のスキルと特殊系のスキル、どっちがいい?
と尋ねる。
ちなみにこの時点での三峰の所有スキルは、
ランサー Lv.12 ◇攻撃系
石蹴り遊び Lv.23 ◇特殊系
ファイブセンス Lv.5 ◇特殊系
ロングショット Lv.8 ◇攻撃系
キッカー Lv.7 ◇攻撃系
となっている。
いずれも、昨日のテストプレイ時にボーナスとして取得したものだった。
「いきなりそんなこといわれても、すぐには選べねーよ」
田所はいった。
「せめて、そっちが持っているスキルの名前くらい教えてくれ」
「いいだろう」
三峰は鷹揚に頷く。
「戦闘系が、『ランサー』、『ロングショット』、『キッカー』。
特殊系が、『石蹴り遊び』と『ファイブセンス』になる。
それぞれのスキルについての詳細は説明してやらないぞ。
そこまで親切にしてやる理由もない」
約束だからスキルをやるのは構わないが、そこまでなれ合うつもりはない……ということらしかった。
「上等」
田所も、頷いた。
「その中でなら、『ファイブセンス』がよさそうだな」
「……意外だな」
田所のチョイスを聞いて、三峰は露骨に驚いた表情をみせた。
「田所のことだから、攻撃系を選ぶと思った」
「情報の収集は大切だからな」
三峰の揶揄に気づかない振りをしながら、田所はしたり顔でそういう。
「本当は、スカウターとかもっと役に立ちそうなスキルが欲しいところだが……」
「情報収集に役に立ちそうなスキル、か」
そう聞いて、三峰も腑に落ちたという顔をする。
「それなりに考えてはいるのだな。
では……本当に、『ファイブセンス』でいいんだな?」
「ああ。
それで頼む」
次の瞬間、二人の間に、二人にしか見えないウィンドウが浮かびあがる。
【
三峰刹那がスキル『ファイブセンス』を譲渡する意志を表明しました。
この申し出を受けますか?
Yes / No
】
田所は躊躇することなく「Yes」の上に掌を置いた。
《三峰刹那のスキル『ファイブセンス』が田所一に奪取されました。》
そのアナウンスは、以前、瀬川太郎がスキル『見取り稽古』を奪われたときと同じく、1年D組全員の脳裏に響きわたった。
とはいえ、テストプレイ時のボーナスとして三峰が多数のスキルを取得してきたこと、それに、三峰がスキルの譲渡を条件に田所を瑠河狩りに誘っていたことなどは広く知れ渡っていたため、他のクラスメイトたちの間で動揺が広がるということもない。
そのアナウンスを聞いたたいていの生徒たちは、
「瑠河の件が一段落ついたんだな」
くらいの感慨しか持たなかった。
「……どうやら、うまくいったようだ」
芦辺素直は、自室の中でそう呟いて椅子の背もたれに体重を預けた。
芦辺のスキル『自動筆記』は、
「適切な質問を口にしないと発動しない」
という致命的な短所を持っている。
情報を収集するにはそれなりに重宝するのだが、その短所があるおかげで、「なにを知るべきなのか」事前に把握していないと、有効に活用できない。
痒いところに手が届かないもどかしさがあった。
今回の瑠河狩りの件も、昼休みあたりからクラスメイトたちがネットを活用して瑠河の情報を集めているのに気づき、芦辺は第三者を装ってスキル『自動筆記』で知り得た情報をさりげなく流したりしていた。
これは別に、芦辺が瑠河に対して思うところがあったためではなく、ただ単純に瑠河の『トラップメイカー』みたいなスキルを乱用されると、今後の見通しが立たなくなるため、なるべく早く退場して欲しかっただけのことだった。
「……早いところ、別のスキルも手に入れないとなあ……」
芦辺は、そう呟く。
なにより、いつまでも自宅に籠もっていては、ゲームの中で有利なポジションに立つことができない。
芦辺はペンを握って机に座り直し、
「今、ひとりで居るD組の生徒は?」
と、質問を口にした。
《三峰刹那のスキル『ファイブセンス』が田所一に奪取されました。》
そのアナウンスが頭の中に鳴り響いたとき、あるカフェの中で、黒森永遠は途方に暮れているところだった。
……甘かった。
と、黒森は今さらながらなんの準備もなく寮を出たことを後悔しはじめている。
近場にあるビジネスホテルや旅館など、宿泊施設に片っ端から行ってみたのだが、「単身の未成年」をなんの躊躇もなく宿泊させてくれる場所はどこにもなかった。
それでなくても、病気がちたったせいか黒森は実際の年齢よりも年下に見られやすい。
初対面の人には、中学生か、下手をすると小学生にさえ間違われることが少なくはなかった。
そんな子どもにしか見えない黒森が大きなスーツケースを抱えて予約もなく「今夜泊まる場所」なんかを探していれば、どこからどうみても家出にしか見えない。
かといって、管理人の老夫婦に外泊許可書まででっち上げて提出して来た以上、今さら寮に帰ることもできなかった。
これなどは、もともと病弱な黒森が「体調を崩したときなど急に入院することがある」と入寮時に説明していたのを利用した形であり、ここまでは自分でもうまくやれた! ……と、思ったのだが。
黒森は腕時計で時刻を確認する。
午後七時前だった。
ホテル回りに疲れたため、休憩するために入った場所であったが……そろそろ、出ていかないとな。
と、黒森はのろのろとした思考で考える。
そろそろ本格的に今夜の宿を決めないと、公園かどこかで野宿する羽目にもなりかねない。
黒森は自分自身につけた不可視の妖精に念じて、自分の「運」を精一杯あげてみる。
スキル『フェアリーテイル』のこの機能がどこまであてになるのかは微妙なところではあったが、知念はなをかなりいいところにまで追い詰めた実績から考えると、それなりに効きはするのだろう。
《三峰刹那のスキル『ファイブセンス』が田所一に奪取されました。》
そのアナウンスが脳裏に響いたとき、蘭世明と津川問は、例によっていっしょに行動していた。
「あ」
「来たね」
二人は、小さくそう声に出して、頷きあう。
二人は、自宅から少し離れたところにあるスーパーまで食材の買い出しに来ているところだった。
「……問。
教室で、スキルを使ってみんなを煽ったでしょう?」
よく使う野菜を買い物かごに放り込みながら、蘭世がいった。
質問の形をしているが、蘭世は津川がスキル『ムードオルガン』を利用して、クラスメイトたちの気分を「瑠河の排斥」に駆り立てたことを、半ば以上、確信している。
「だって、あのスキルをあのまま放置していたら、明くんの安全が危ぶまれるし」
津川は、「なんでそんな当たり前のことを今さら聞くのか」といった表情をしながら、あっさりと答えた。
バスの一番後部にある座席で、三峰刹那と田所一に挟まれて座っていた瑠河秀夫は、さっきから生きた心地がしなかった。
三峰は、一応優等生ということにはなっているが、昨日のテストプレイ時に真っ先に暴発したことからもわかるように、いざとなったらどんな真似をするのかわらない。
田所は、入学時から粗暴な言動が目立っていた生徒であり、大柄な体格や目つきの悪さもあいまって一部の生徒からは怖がられていた。
少なくとも、瑠河はその二人について、そう認識していた。
おまけに、その二人とも、今では凶器にも等しいスキルを所持しているし、不意に気が変わって自分を攻撃してきてもおかしくはない状況でもある。
さっさと自分からスキル『トラップメイカー』を奪って、自分を解放してくれればいいのに……とさえ、瑠河は思っていた。
なにしろこの二人を両脇に侍らせておくことは、精神衛生上、非常に悪い。
三人を乗せたバスは、倉石市へと走り続ける。




