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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
二日目
22/109

03-10 分割会議。と、そこからの逃亡。

 半壊したエレベーターの中からようやく知念はなが救出されたのを確認してから、瑠河秀夫は周囲の男子たちに即されてスキル『トラップメイカー』で作った罠をすべて解除した。

 瑠河とて、左右からじっと自分を見つめている三峰刹那や田所一といった、直接攻撃に秀でたスキルの持ち主と正面から事を構えるほどの気概があるわけでもなく、それはもう素直に指示にしたがった。

「……罠はすべて解除した……はずだ」

 瑠河はその場に居た者たちにそう告げる。

 実のところ、他の者たちにはその発言が本当であるのかどうか、確かめる術はないのであるが、この状況下で小細工をするメリットも思いつかない。

 とりあえず、瑠河のその言葉に疑いを持つ者はいなかった。

 それとほぼ同時に、なんの前触れもなく唐突に半壊していたエレベーターが、いきなり壊れる前の姿へと修復された。

「どうやら、リライターがこちらの要求を呑んでくれたようだな」

 ことなげに、三峰はそういう。


 エレベーターシャフトに落下していくところを救助された形になる知念はなは、顔色をなくして床に両手をつき、しばらく荒い息を吐いていた。

 自分の足下になにもない、真っ暗な空間だけしかない状態で半時間も過ごす、というのは、やはり快適な経験とはいいがたい。

 あのまま誰にも手を貸して貰えなければ、発動していたスキル『エアタンク』を解除した途端に知念はなの体は即座に落下、墜落しをしていたはずなのである。

 テストプレイの前に高杉先生の体を通してリライターが説明したことを信用するとすれば、仮にゲーム中に死傷したとしても、ゲーム終了後にゲーム前の状態に修復されるということであったが……だからといって、自分から積極的に死にたくなるわけでもない。

 死の恐怖に決して短くはない時間晒されていた知念は、精神的なダメージを確実に負っていた。


「知念よう」

 そんな知念はなに、内膳が声をかける。

 反射的に顔をあげると、衝撃が知念はなを襲う。

 知念は反射的に悲鳴をあげ、顔と胸部に鈍い痛みを感じた。

 ……撃たれたっ?

 と思ったとき、

「このまま逃げられても面倒だと思ってな」

 内膳の冷静な声が聞こえる。

「おれのスキル『デリンジャー』は、レベルがあがると使用できる弾頭の種類が増える。

 そいつはペイント弾だ。

 悪いが、マーキングをさせて貰った。

 いくらおまえのスキルが逃げ隠れすることに秀でていたとしても、その色と匂いまでは誤魔化せない。

 今のお前が姿を消していたとしても、その匂いなら十メートル先からだって近くに居ることがわかる」

 内膳の言葉通り、知念はなの上半身と顔は、今や黄色とオレンジ色の蛍光色に彩られている。

 それに……匂いも、ひどいものだった。今の知念の体は、腐臭にも似た悪臭を放っている。


 知念はなの脳裏を、体や顔を汚されたことへの怒りよりも、静かな絶望が広がっていく。

 このような異常な状況下であっても、動揺することなくこの場で必要な行為がなにかを判断し、躊躇なく実行する内膳の判断力と判断力。

 これは……知念はなが想像していた以上の脅威ではなかったのか?

 これまで知念はなは、スキルの性質ばかりに注目して、テストプレイのときに活躍した三峰や田所のことばかりに注意をむけていた。

 正直、この内膳英知などは大した相手ではないだろうと内心で高を括っていたのだが……どうやらそれは、根本的な間違いだったようだ。

 スキルの性能よりも、それを使用する人間の能力の方を重視し、気にかけるべきだった……と、知念はなは後悔した。

 三峰や田所、瑠河や眞鍋らもこの内膳の行動には驚いた様子を見せている。

 おそらく、内膳は誰にも相談をせず、独断でこの行動を起こしたのだろう。

「……お、おい!」

 田所が狼狽した様子で内膳に詰め寄った。

「お前、いったいどういうつもりで……」

「これからこの知念をどう扱うにせよ、こいつだけは逃がすわけにはいかないんだよっ!」

 田所の言葉を遮るようにして、内膳が叫ぶ。

「こいつの姿を隠すスキルだけでも厄介だっていうのに、こいつは昨日の時点で瀬川の『見取り稽古』まで持っているんだ!

 今日一日だけで他にもどれだけのスキルを自分のものにしたんだか、想像もつかない!

 それだけ危険なやつを、このまま放流しておこうってのか?

 だとしたらそいつは……自殺行為もいいところだっ!」

「ぼくは、内膳の判断を支持する」

 三峰が静かな口調で告げる。

「理由を説明されてみれば、確かに頷けるところが多い。

 今の知念は、瑠河なんかには比較にならないくらい危険な存在だろう」

 そういって三峰は、あまり友好的ではない視線を知念にむけた。

 知念の内部に、冷たく重い絶望が満ちていく。

 三峰刹那、田所一、それに、内膳英知。

 誰か一人であっても正面からはやり合いたくない相手ばかりだった。

 その上、今の自分は内膳によってこの場から逃亡することさえ封じられてしまった。

「……本当に……」

 知念は小さな震える声で、呟く。

「……最、低……」

 このまま泣き出したい気分だった。

 ついさっきまで、あのエレベータに乗る前までは、自信と希望に満ちていたというのに……。

「そ……それで、あなたたち」

 知念は、うわずった声で訪ねる。

「わたしを……どうするつもり?」

 男子たちは忙しく顔を見合わせ、お互いの顔色を確かめ合った。

「どうするといわれても……なあ」

「確かに野放しにはしておけないが……」

「かといって、知念のスキルを他の誰かに譲渡させても、今度はそいつが有利になりすぎる……」

 しばらくこそこそと小声で囁きあったあと、

「おい、どうするよ?」

 田所が不機嫌な表情をして、内膳に詰め寄った。

「この状況、お前が作ったんだぞ!」

「……そうだなあ」

 内膳は一度首を傾げたあと、こういった。

「知念よう。

 お前が持っている『見取り稽古』は、他のやつに譲れ。

 その他のコピーしたスキルも、すべて吐け。

 そんでそいつは、この場に居るやつらで山分けにする」

「……お、おれも?」

 相変わらず田所に文字通り首根っこを押さえつけられている瑠河までが、そんなことをいいだした。

「アホか、お前は!」

 そんな瑠河の頭部を、田所は力任せに殴る。

「お前は負けただろう?

 なんの権利もねーの!

 当然、お前の『トラップメイカー』も没収!」

「……ひでぇ……」

「うるせえ!

 お前はもうゲームオーバーしたんだよっ!」

「そうだな。

 まずは、知念が今持っているスキルを教えて貰おう」

 漫才じみたやりとりをはじめた田所と瑠河をよそに、三峰は知念に顔をむけてそういった。

「それをどう扱うかは、まずはその情報を確認してからだな」

「今のわたしがどのスキルのを持っているのか……それを教えるのは構わないけど……」

 知念はようやくその場から立ちあがり、落ち着いた声を出そうとした。

「でも、それを教えてもこの場ではあまり意味がないと思う。

 っていうのは、スキル『見取り稽古』でコピーしたスキルっていうのは、他のスキルと違って譲渡したり奪取したりできないらしんんだ。

 わたしが瀬川くんから『見取り稽古』を奪ったときも、瀬川くんが『見取り稽古』でコピーしたスキルまではわたしのものにはならなかったし……」

 これは、嘘ではない。

 ただ、「『見取り稽古』でコピーしたスキルは他人に譲渡できないのか?」といったら……これについては実際に試したことがないので、知念にしてみてもなんともいえなかった。


「……本当か?」

 三峰は、軽く顔をしかめた。

「そうなると……実質的には、知念が他の者に譲渡可能なスキルは……」

「実質、たった二つだけ」

 知念はそういって胸を張った。

「元から持っていたスキル『ぼっち王』と、瀬川くんから奪ったスキル『見取り稽古』。

 このたった二つのスキルをめぐって、今度は君たちが争ってみる?」

 ようやく、知念の気分が上向きになってきた。

 確かに、知念は瑠河の罠を失念する、という初歩的なポカでここまでの窮地に立たされることになった。

 だけど……やりようによっては、ここから失地を回復することも可能なはずだ。

 スキルなんかよりも頼りになるものがあると、たった今、内膳が証明したばかりではないか。

 知念の言葉がだんだんと浸透してきたのか、その場に居た男子たちは気まずそうに顔を見合わせはじめた。

「『見取り稽古』もなかなか強力なスキルだけと、わたしの『ぼっち王』の使い勝手はかなりいいよ。

 内膳くんは、ただ外見をカモフラージュするだけのスキルだと勘違いしているようだけど、実はそれだけではなく……」

「……それだけではなく?」

 単純な田所が、知念の煽りに食らいついてくる。

「……自分の存在そのものを、他人に認識させなくなるんだ。

 ほらっ!

 ちょうど、こんな風に!」


 その瞬間、三峰刹那、田所一、内膳英知、瑠河秀夫、眞鍋伸吾の五人は「知念はな」という人物について、一切合切を認識できなくなった。


「……おう。

 いつまでもこんなところでぼうっとしていないで、さっさとこの瑠河を新藤のところに連れて行って終わりにしようぜ」

 田所が、その場に居た全員にむかっていった。

「そうだな。

 もういい時間であることだし……」

 三峰も、田所の言葉に頷く。

「そいつの護送は任せてもいいかな?」

 内膳はそういった。

「お前ら二人が両脇を固めておけば、まず逃亡されることはないと思うし。

 それにおれ、ねーちゃんから借りた原チャリを今日中に返さなけりゃいけねーんだよな」

「今日中にまたこの溜桶まで往復するのはつらいな」

 三峰はあっさりと頷いた。

「ぼくはそれで異存はない。

 田所はどうだ?」

「明日、チャリを取りに来る必要があるってのが面倒だが……」

 田所も頷く。

「まあいいだろう」

「ちょっと待て!」

 なぜか、眞鍋が意義をとなえた。

「お前ら二人のうちどちらかが、瑠河の『トラップメイカー』を横取りしないっていう保証はどこにあるんだよ!」

「そんなに疑うんなら、お前もいっしょについていけば?」

 内膳はそういって、エレベーターのボタンを押した。

「興味深い発想だとは思うが、ぼくはあくまで自分の力量でこのゲームを勝ち抜いていきたんだ」

 三峰はそう答える。

「今回の件でも自発的動いたのは、『トラップメイカー』というスキルの存在が公正な勝負を邪魔すると思ったからだ。

 仮に『トラップメイカー』を入手したとしても、ぼくなら自発的には使うことなく、封印し続けるだろう」

「馬鹿馬鹿しい」

 田所は吐き捨てるようにいった。

「正面からぶつかり合うのが面白いんじゃねーか。

 こそこそと罠を作って相手がそれに引っかかるまで待つ……なんて悠長な真似は、おれの趣味じゃあねーなぁ!」

 五人の1年D組男子はそんなことをいい合いながら、ちょうどやってきたエレベーターに乗り込んでいく。


「……はぁ。はぁ」

 非常階段を駆け下りて来た知念は、息を整えてからたった今出てきた雑居ビルをみあげる。

 先ほどの窮地は、明らかに知念自身の慢心が招いた失態だった。

 今後は、自分のスキルの性能に頼りすぎることなく、もっと慎重に振る舞わなければならない……。

 とか思っている知念の横で、

「……ねー。

 なんか変な匂いしない?」

「本当。

 なんか、食べ物が腐ったような……」

 とかいう声が漏れ聞こえてくる。

 近くを通りかかった女性二人組の会話だった。

 その会話を耳にして、知念ははじめて、

 ……しまったっ!

 と思った。

 知念自身のスキル『ぼっち王』の効果により、他人には知念の姿は認識できないようになっている。

 しかし、内膳のスキル『デリンジャー』の特殊弾頭でつけられた悪臭までは、『ぼっち王』で打ち消すことができないらしかった。

 おそらく、その悪臭は知念自身に属するものではないからだろう。

 ……してやられたな。

 と、知念は奥歯を噛みしめる。

 スキル『ぼっち王』の効果によって辛くも逃げ延びることができたが、実際には知念の完敗といっていい内容だった。

 ペナルティとして、しばらくこの悪臭とつき合わなければならないのか……と思い、知念はげんなりとした気分になる。

「その前に、寮に帰らないと……」

 このケバケバシい色彩のペイントを落とすこともできやしない。

 そこまで考えて、知念は、

「……どうやって帰ろう……」

 と、先ほどまでとは別の意味で絶望した。

 この悪臭では、バスやタクシーなどの公共の交通機関はまず利用できない。

 徒歩でここから寮まで帰るとしたら……はたして、何時間かかるのやら。

 仕方がないから、どこかで自転車かなにかを盗むしかないか。

 いやだが、それもこの悪臭では、すぐに追いかけられるのではないか……。


 黒森永遠のスキル『フェアリーテイル』の悪影響もあり、それから知念はなが清藍寮に帰り着くまでには八時間以上の時間を必要とした。

 その間、知念は犬に吠えられたり、なぜか蓋が開いていたマンホールに落ちかけたり、すぐ目の前を鉄筋が落下してきたり……といった無数の不幸なアクシデントに遭遇することになるのだが、それらの詳細についてはここでは書かないことにする。

 とうに門限を過ぎ、ほとんど早朝といった時間帯にどうにか寮まで帰り着いた知念は、消灯した共同風呂を勝手に使用して体中を洗ったあと自室に戻り、夢も見ずに丸一日以上、熟睡した。


 知念が同室の住人であるはずの黒森の姿がその場に居ないことに気づいたのは、再び目覚めてからのことだった。 


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