03-07 罠。
溜桶の繁華街へ移動する最中にもネット上では瑠河に関する情報が続々と集まってきていた。
昨日、瀬川が襲われた件がローカルとはいえニュースとして流れたことで、「倉石市立中央高校のゲーム」についても一部ではそれなりに注目を集めているようだった。気づけば巨大掲示板に専用スレッドが立ち、今日の『トラップメイカー』関連の騒動についてもかなり事細かく情報が公開されていた。
……てか、これ絶対、校内の誰かが情報提供しているだろうっ!
と、西城沙名が思うくらい、その掲示板には正確かつ細かい情報が記載されていた。
その影響もあってかどうみても無関係なのに面白半分に瑠河の情報を拡散したり求めたりする者がそれなりに出没しはじめており、集まった情報を時系列順にまとめたり検証したりする者さえ出はじめた。
タクシーに乗り込んでいた西城沙名はスマホの画面でそうした情報を確認し、
「物好きなやつも居るもんだ」
とか思いつつも、せっかくだからそうした情報を積極的に活用することにした。
「瑠河くん、どうやら駅前にあるネカフェに籠もっているっぽい」
西城は同じタクシーに乗っていた夢川明日夢にはなしかける。
「わざわざそのネカフェに入って、探りを入れてくれた人がいる。
目立つから正面から顔を確認することはできなかったけど、背格好とか制服とかの条件が一致しているから、瑠河本人である可能性は高いみたい」
「わざわざ探してくれた人なんているんだ」
そう聞いた夢川は呆れていた。
「うちの高校とはまるで関係ない人?」
「うん。
たぶん」
西城は頷く。
「ネットには、暇を持て余している人がごろごろ居るからね」
そういいながらも西城は、LINEでクラスメイトたちに同じ情報を流しはじめた。
「どうでもいいけど、全員であちこち探し回らなくていいっていうのは助かるぅー」
同じタクシーに乗っている奥地八枝がいった。
「でも、どうするんだろう?
全員でそのネカフェに乗り込んでも、お店が迷惑をするだけだろうし……」
「直接乗り込むのは少数でもいいと思うよ」
辺見洋子はそう指摘をした。
「瑠河くんのスキルは直接攻撃にはむいていないし……。
むしろ、そのお店の中が罠だらけだったりしたら、かえってこっちが困ったことになっちゃう」
「だねー」
辺見の意見に、奥地が賛同した。
「委員長とか田所くんとか、血の気の多い人何名かに突入してもらって、他の人たちは外とかエレベーター、非常階段とかを見張っていればいいんじゃないかな?
今ならみんな、『ナイトシールド』のスキルで守られているはずだし」
「だけど、瑠河のスキル『トラップメイカー』の詳細がまだはっきりしないところがあるからなあ」
夢川はあえてそう指摘をした。
「あれって、本当に爆発を起こすだけのスキルなの?」
「学校に仕掛けられた罠は、全部それだったね」
辺見は冷静に意見を述べた。
「ただ、もっと多様な罠を作れるとしても、わたしがそのスキルのユーザーだったら絶対にすぐには手の内を明かさないと思う」
「……だよねー」
西城は辺見の言葉に激しく頷いた。
「田所くんもそうだけど、委員長もあれで頭に血がのぼると視野が狭くなるところがあるから、突入組にはもう少し冷静な判断が期待できる人も入れておこう」
待ち合わせである溜桶駅前に着いたのは、やはりタクシーを利用した西城沙名、辺見洋子、夢川明日夢、奥地八枝の自称「魔法少女」四人組が最初だった。
少し遅れて、原付や自転車を利用した生徒たちがばたばたと到着し、そしてすぐ近くにある駐輪場へと車両を置きにいった。
結局、有志の者たち全員が揃ったのは学校を出てから小一時間ほども経っていた。
「これで全員か」
集合したクラスメイトを見渡して、三峰刹那がいう。
「西城経由の情報が正しかったとすれば、瑠河が居るのはそのこビルの八階にあるネットカフェらしい。
この全員で突入しても混乱するだけだろうから、まずは少人数で突入し、他の者たちは周辺でやつが逃げられないように待機してもらおうと思っている」
スマホで西城が提案した作戦とほぼ同じ案を、三峰は口にした。
続いて、三峰は、
「突入するのは、まず、ぼくと三峰はいいとして……他にも希望する者はいないか?」
と突入組の募った。
「おれもいくよ」
すかさず、眞鍋伸吾が名乗り出る。
「まだレベル一だけど、一応直接攻撃可能なスキルだし。
それに、今なら新藤の『ナイトシールド』で守られているから」
「それから、短小鉄砲くんもついていって援護射撃な」
そういって西城が内膳英知の肩を押す。
「……おれもか?」
西城に押されて一歩前に進んだ内膳は、露骨にいやな顔をした。
「少し離れたところから前衛の物理攻撃系を支援してればいいから」
西城はそういったあと、内膳の耳に口を近づけ、他の者には聞き取れないくらいの小声で、
「冷静な判断力が期待できるのは、君くらいなもんなんだから」
と囁く。
これでも内膳は、テストプレイ中の暴走した三峰に対して、真っ先に反抗してみせた生徒のうちのひとりだった。それも、自分の身に被害が及ばないように配慮ししながら、という冷静さも示しながら。
なんだかんだいって西城はそうした内膳の現実的な判断力と冷静さを評価しており、だからこそ少し強引にでも「魔法少女のパーティー」に引き込んだという事情もあった。
内膳は憮然とした表情をしながらも、三峰、田所、眞鍋の三人の顔に順番に視線を走らせたあと、
「わかった」
と短く答えた。
自称「魔法少女」の女子四人組は二名づつに別れ、一階でエレベーターホールと非常階段を見張ることになった。
内膳、三峰、田所、眞鍋の四人はエレベーターで八階のネットカフェを目指すことになる。
彼らはみな学校の制服を着用したままだったが、そのビルはテナントに飲食店やカラオケ屋が入居しているような雑居ビルであったので、特に目立つこともなかった。
ボタンを押してエレベーターを呼び、着いてすぐ乗り込もうとした田所の姿が、ふと消えた……ような気がした。
「おい!」
反射的に眞鍋が『ランサー』のスキルを発動させ、デッキブラシを物質化し、落下する途中の田所へ差し出す。
田所はすんでのところでデッキブラシの柄を掴んだ。
すると今度は、眞鍋が田所の体重を支えきれずに体を持って行かれかける。
三峰と内膳がその眞鍋の両脇から体に腕を回し、あわてて踏ん張った。
「……くっ……」
デッキブラシを掴んだ田所がうめいた。
「……エレベーターの底が……いきなり、なくなりやがったっ!」
「落とし穴。
古典的な罠だね」
西城が冷静に指摘をする。
「やはり、爆発させるだけではなかったか……」
数分後、なんとか田所の体をエレベーターの落とし穴から引き上げると、現金なことにその穴は現れたときと同じくらいの唐突さで塞がった。
試しに三峰が体重をかけずに片足を乗せると、またエレベーターの床が消失する。
何度か足を乗せたりあげたりするたびに、エレベータの底は消えたり現れたりした。
「つまり、スキル『トラップメイカー』は……」
三峰は、呟いた。
「……罠が発動する条件を、あらかじめ設定できるスキルであるらしい。
たとえば、倉石市立中央高校1年D組の生徒がこのエレベーターに乗り込んだときのみ、この床が消失する、とかいうような……」
「あるいは、下駄箱とか椅子とかに、1年D組の生徒の誰かが振れると爆発する、とかね」
西城が、静かな口調でつけ加える。
「それと、そのユーザーである瑠河くんは、ここに追っ手が来る場合も想定して、罠を張って待ちかまえている……っと」
「思ったよりも厄介なスキルのようだな……」
三峰は眉間に皺を寄せた。
「ここで考え込んでいてもしかたがないよ」
辺見はいった。
「さっさと瑠河くんをとっつかまえて終わりにしちゃおう」
「だけど、どうやって?」
内膳は辺見に尋ねた。
「エレベーターは使えない。
この分だと、非常階段にだってなんらかの罠を用意しているだろう。
このままでは、やつが居る八階までたどり着くことさえできないぜ」
「スキルで道を塞がれたんなら、スキルで別の道をつくればいいだけじゃん」
辺見洋子は平然とそういい放った。
「わたしのスキル、こんなときくらいしか使い道もないような気がするし」




