03-06 狩りの時間。
その日の放課後のことである。
「いいか?
見てろよ。
ほらっ!」
他の生徒たちに取り囲まれた眞鍋伸吾が合図をすると、その手の中に一本のデッキブラシが出現する。
「すげえ」
「まごうことなきゴミスキル」
「……ブラシ!
よりにもよって、デッキブラシって……」
「お前……。
スキル名なんだっけ?」
ある生徒が真鍋に問いかける。
「ランサー、なんだとよ。
これでも」
真鍋はふてくされたような顔つきになる。
「ブラシのどこが槍なのかおれにはまるで理解できないんだが……」
「……今、レベルいくつだっけ?」
奥地八枝が真鍋に尋ねた。
「まだ一だよ。一。
こんなもん、まともに育てる気になるか」
「あー。
それじゃあ、まだ可能性はあるかなあ……」
奥地は訳知り顔でそんなことをいいだした。
「可能性……だと?」
「少年マンガとかでよくあるパターンじゃん。成長型。
最初はショボいところからはじまって、場数を踏んでいくことで成長するやつ」
奥地は澄ました顔でそんなことをいいだす。
「委員長の『エアタンク』とか田所くんの『ジャック・ザ・リッパー』とかは、戦車とか剣とか物理的な武器を模したスキルでしょ?
そっちにはなぜか不可視属性がついていて、真鍋くんの『ランサー』とか内膳くんの『デリンジャー』とか、同じように銃や槍を模したスキルがこうして目に見えているってことは、この二種類は別のカテゴリに入っているってことなんじゃないかなぁ……って」
「『エアタンク』と『ジャック・ザ・リッパー』は、最初から使い勝手がいいよな」
「まともに使えば、素で強いし」
「『デリンジャー』とか『ランサー』の方は……」
「初期状態だと、かなり頼りないな」
他の生徒たちもそんなことを囁きあいはじめた。
「真鍋くん」
奥地は真鍋に確認する。
「『ランサー』の説明文になにか成長とかランクアップに関する記述ってないかな?」
「ちょっと待ってくれ。
昨日の段階でゴミスキルだと思ったから、ちゃんと読んでいないんだ」
真鍋はそういって、スキル『ランサー』のステータス画面を表示させる。
【
ランサー Lv.1 ◇攻撃系
『長槍を出現させる。
レベルアップするごとに、選択可能な形状が増える』
】
「おお!」
真鍋は感極まった、といった感じで叫び声をあげた。
「ちゃんと、レベルアップするごとに選択可能な形状が増える、って書いてあったぁっ!」
「おそらく、内膳くんの『デリンジャー』にも同じような説明文が書いてあると思うんだよね」
現金な真鍋の反応に苦笑いを浮かべながら、奥地はそんなことをいった。
「そういう長所がないと、ゲームバランス的に問題があると思うし」
「でもさ」
辺見洋子が奥地の予想に異議を唱える。
「ゲームバランスがどうこうっていうこといいだしたら、攻撃系以外のスキルはそもそも戦闘では断然不利なわけだし……」
そういって辺見はスキル『ナイトシールド』のユーザーである新堂零時の方に視線を走らせる。
「……攻撃力を持たないスキルのユーザーがそれをどうやって補うのかも含めてのゲームになると思うけど」
「それに、別にスキルを使わなければ攻撃できないってわけでもないしな」
田所一が口を開く。
「誰かを攻撃してスキルを手放す気にさせるだけなら、素手でも木刀でもできることだろう。
昨日、瀬川を襲撃したやつだって、市販の包丁をやつの腿に突き刺したそうだし」
「それは、できる人とできない人が居るよ」
頼衣珠世はそういって口を尖らせた。
「性格的に」
「性格なんてことまで視野に入れたら、それこそスキルの性質どころではない不公平さになっちまうと思うがね」
田所は冷静な声で結論する。
「結局、配られた手札で最前を尽くすしかないのさ。
今こうしているように、期間限定で特定の敵を追い詰めたり、共闘したり、あるいはそれを裏切ったり……」
「……なあ」
そのとき、真鍋が間の抜けた声を出す。
「スキルをレベルアップさせるのって、どうすればいいんだ?」
「そのスキルを使い続ければ勝手にあがるよ」
新堂が簡単に説明をした。
「スキルによって、成長しやすいのとしにくいのがあるようだけど……」
「最初から高性能だっったり、あるいは複雑な機能を持ったスキルほど成長が遅いようだ」
三峰刹那が、新堂の言葉を引き取る。
「真鍋の『ランサー』は、どちらかといえば単機能なスキルのようだから、使っていけばすぐにレベルアップするはずだ」
「そ、そうか。
こいつを使うっていうことは……」
「そのデッキブラシで、なにかを攻撃してやればいいんだよ」
田所が、面倒くさそうに教えてやる。
「わかった。
こいつでなにかをぶん殴ればいいんだな!」
「ちょっと待って!」
新堂が、デッキブラシを振りかぶった真鍋を制止する。
ただでさえ、今日は学校の備品をかなり破損している。
特にこの教室内の被害は多く、新堂たちは何度も往復して、破損した備品に代わる机や椅子を倉庫からこの教室まで運んでこなければならなかった。
正直、もうこれ以上、教室内を荒らされたくはなかった。
「今、瑠河狩りの参加者全員に、『ナイトシールド』をかけるから。
ええっと……この場に残っている人全員、でいいのかな?」
「それで頼む」
三峰が、新堂にいった。
「できるだけ今日いっぱいで片をつけるつもりだが……」
「はいはい。
瑠河が捕まらなかった場合は、延長もありえるのね」
新堂はそういいながら、まだ教室に残っていた生徒たち全員に『ナイトシールド』による防御を施す。
とはいっても、実際の作業はといえば、新堂がひとりひとりの顔をみて、「守れ」と念じるだけだったのだが。
「首尾よく瑠河を捕まえることができたらすべて解除するから、連絡して。
もしなんにも連絡が来かった場合は、明日の朝にいったん『ナイトシールド』を解除するけど」
「何日も持続することはできないのか?」
三峰が新堂に尋ねる。
「スキル的には可能だけど、そこまでするとゲームの進行を阻害すると判断されるんじゃないかな……。
その、リライターに」
新堂は面白くなさそうな顔をして、そういった。
「何日も持続すると、朝の登校時間まで狩りの参加者を守ることになっちゃうから……」
「ゲームの進行を早めたいリライターにしてみれば、面白くないかもしれないな」
三峰はそういってため息をついた。
「そこまで考えてはいなかったな。
あんまりやりすぎると、場合によっては新堂になんらかのペナルティが課せられることもあり得るわけか……」
「考えすぎだといいんだけどね」
新堂はそう答えておいた。
「頼衣さん。
この中で、瑠河の居所を調べるのに使えそうなスキルの持ち主って、居る?」
「……ええっと……」
スキル『スカウター』のユーザー、頼衣珠世はじっくりと周囲を見渡したあと、
「ごめん。
ほとんど攻撃系だし、そういうスキルを持った人はいないみたい」
と結論する。
「大丈夫、大丈夫」
西城沙名がスマホの画面をのぞき込みながら、脳天気な声を出した。
「スキルなんてなくっても、今は文明の利器がありますからねー。
こうしている今も、ざくざくとやつに関する情報が……」
瑠河が怪しい、ということが判明した時点で、「狩り」に参加する有志たちがLINEやtwitter、SNSを通じて瑠河の情報を提供するように呼びかけた結果、今では瑠河の足取りもかなり明瞭に掴めてしまっている。
瑠河の写メも何枚かあったし、十名を越える兄弟や親戚、先輩などの伝手をたぐれば、人間関係の狭い地方都市で特定の高校生の動向を特定するのはさほど難しいことでもなかった。
「やつは朝の時点でバスに乗って溜桶方面にむかっていますねー。
おそらく、あそこの繁華街のどこかに潜んでいるんだと思う」
西城がまとめられた情報に目を走らせながら、その結論を口にした。
「最後の目撃例は、朝の九時頃に溜桶駅前。
駅に入った様子ではないから、さらにバスを使っていなかったら、今もまだその近辺に居る可能性が大」
「溜桶か」
三峰がいった。
「結構距離があるな」
「バスでいくとあちこち寄り道する上、乗り継ぎになるけど……車で直行したら、せいぜい三十分ってところだよ」
「おれたちはまだ高一だぞ。
留年でもしてなけりゃ、免許持てってるやつないだろう」
「あ、あたし、原付持ってるけど」
「おれ、チャリ通学。
溜桶なら、チャリでもそんなに遠くないぞ」
「それでは、自前の足が者はそれで、それ以外のやつは……」
「タクシー使えばいいんじゃない?
何名かで乗って、割り勘にすれば交通費だって知れたもんだし。
下手するとバスの乗り継ぎよりも安くなる」
「そうだな。それでいこう」
「溜桶についたら、連絡を取り合いながら、やつが居そうな場所を手分けして調べる。
やつを見つけたとしても単独では対処しようとせず、他の者に連絡をして集めること。
まだどんな奥の手を隠しているかわからないし……」
「……おーい。三峰」
当然のように仕切りはじめる三峰に、新堂が声をかける。
「おれと頼衣さんはもう帰ってもいいかな?
おれたちのスキルでは、これ以上つき合っても役に立てるとは思えないし……」




