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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
二日目
15/109

03-03 知念はなと、黒森永遠

 青藍寮の朝は割合に騒がしい。

 青藍寮では、朝食と夕食はは共同の食堂で出ることになっている。そこに業者が用意した食事が人数分、用意されるわけだが、部活の朝練に参加する生徒もいたから、かなり早い時間から人の話し声が廊下に響く。

 青藍寮はかなり頑強な造りにはなっているものの、各部屋の防音対策までにはあまり気を回していなかった。

 今、この瞬間にも廊下から漏れ聞こえてくる会話の断片が知念はなの耳に届いていた。

 普段ならまだ目もさましていない時刻であったが、昨日、はじめて意識的に他人を襲った興奮から醒めきれなかったのか、知念はかなり早い時刻にめざめた。

 そして念のため、スキル『ぼっち王』を発動し、どうやら一睡もしていない様子の黒森永遠の背中に近づく。

 黒森永遠は昨夜とまったく同じ姿勢で、部屋に備えつけのライティングデスクにむかっている。

 ひょっとして、一晩中、例の情報収集系のスキルを発動させていたのだろうか?

 知念は訝しく思ったもの、今の知念にはそのことを確認する術はない。

 今の知念の所有スキルは、『ぼっち王』と『見取り稽古』の二種類のみであり、どちらのスキルも黒森のスキルについて知る機能は持っていなかった。

 青藍寮知念は黒森がノートパソコンにここには居ないクラスメイトたちの動向を詳細に入力していたのを見て、はじめて黒森のスキルが「情報収集に特化したものであるらしい」と気づいたわけで、実のところ、その黒森のスキルの詳細についてはまるでわかっていないのだった。

 この場で不意討ちでもすればこの黒森からもスキルを奪取することは十分に可能であったが、そうなると煩雑な情報収集作業も自分自身で行わなければならず、それを避けるために知念は黒森をしばらく泳がせることにしていた。


 その黒森は、今はキーボートから手を放し、ペットボトルを手にしながらノートパソコンの画面に目線を据えている。

 画面には、ローカルテレビ局の朝のニュースが映し出されていた。


──ということで、中継の吉田さんに変わります。

 吉田さん。


──はい、吉田です。

 こちらですね。

 昨夜、午後七事頃、この現場で十六歳の男子高校生が何者かに刃物で襲われたわけです。

 本人の証言と状況から警察は中央高ではじまった例のゲームと関連した事件であると断定し、捜査を打ち切りました。


──中央高の例のゲーム関連ですか?


──はい。そうですね。

 被害者の男子高校生は全治三週間の重傷を負い、現在市内の病院に入院しています。

 警察関係者この件に関して、

「今後も例のゲームに関連した事件が頻発するおそれがある」

 として、周辺に注意を呼びかけています。

 付近の住民の方々は、くれぐれも巻き込まれないようにご注意ください。


 黒森の肩越しに、知念もそのニュースを見ている。

 そして、かなり呆れた。

 画面の中のアナウンサーやレポーターは、それに警察なども「中央高校の例のゲーム」という存在について知っており、それどころかその存在を自明の物として認識しているらしい。

 確かに、町中でプレイヤーたちが暴れ回る可能性もあるわけだから、こうした配慮も必要だろう。

 しかし、と知念は改めめでリライターと名乗る存在の出鱈目さを痛感した。

 なるほど、「書き換える」ということは、こういうことなのか、と。

 今、知念らがいるこの世界はすでにリライターがゲームを進行するために都合よく改竄された世界であり、それが元に戻ることがあるとすれば、それは最後までゲームが進行して無事にゲームが終了したときなわけだった。


 ニュース番組が終わると、黒森はデスクの引き出しから一枚の紙を取り出し、それになにやら書き込みはじる。

 知念は黒森の手元を覗き込み、それが欠席届であることを確認する。

 そういえば、黒森は初対面のときも、

「体が弱く、少し前まではしょっちゅう熱を出して学校を休んでいた」

 というようなことをいっていた。

 こちらで学校に通うようになってからは体調を崩したことがなかったのですっかり忘れていたのだが……いつ、対象をくずしてもいいように、黒森は準備を整えていたらしい。

 そう思って黒森の顔色を獣医深く観察してみると、いつもよりも血色がよく、目も潤んでいるような気がする。

 徹夜での作業が堪えたのか、黒森は今日の授業を欠席するつもりのようだった。

 あるいは、病欠ということにして、このまま情報収集を継続するつもりなのか。

 そこまで想像して、知念ははじめて、

「そうか。

 欠席して、ゲームに専念するという方法もあるんだな」

 と思い当たった。

 これまでずっとごく普通に学校に通い通続けて来た知念には、「サボる」という発想をすぐできるようにはできていなかったのだ。


「さて、どうするか」

 と知念は考える。

 知念自身にサボるつもりはなくても、知念がスキル『ぼっち王』を発動している限り、知念の存在は他人には知覚されない。

 結局は、スキルの発動を止めない限り、授業には出られないわけで……。


「でも、まあいいや」

 知念はそう呟き、制服に着替えて食堂へとむかった。

 制服姿で出歩いていれば、なにかの拍子にスキルが途絶えたとしても不審がられることはない。

 知念はこのまま学校へいくつもりだった。まともに授業を受けるつもりはなかったが。

 せっかくスキル『見取り稽古』を取得した以上、それを活用しない手はないのだ。

 今日からゲームは本格化するはずであったし、そうでなくてもスキル『ぼっち王』を活用すれば自分のこの目で情報収集も可能である。

 それに、運が良ければ昨夜、瀬川太郎に行ったように、隙をみて誰かを襲えるかも知れない。

 一度襲撃に成功したおかげで、知念はかなり楽天的な気分になっていた。


「……ばぁーか」

 知念はなが部屋から出てしばらく経過してから、黒森永遠は小さく呟く。

「同室の人を、真っ先にチェックしないわけがないじゃない」

 知念は自分のスキルのおかげで黒森が知念の存在を知覚できない、と思いこんでいる。

 そのこと自体は、紛れもなく事実であった。

 つい先ほどまでおなじ室内にいた情報を、黒森は、自分の五感を通じては知覚できていなかった。

 しかし、黒森自身のスキル『フェアリーテイル』を経由すれば、事情は異なってくる。

 機能のテストプレイのとき、黒森は自分のスキルが使用可能になった段階で真っ先に「見えない妖精」を知念にまとわりつかせ、その動静を継続して探らせている。

 知念の昨日の行動、放課後に釣具店や百円ショップにむかい、買い物をするところから瀬川太郎の襲撃まで、黒森はスキルを経由してすべて詳細に把握していた。

 その課程で知念のスキルがどうやら姿を消す働きがあるらしいと気づき、知念がこの部屋に帰ってきてからもそのスキルが奏功しているように振る舞った。

 とはいえ、実際に知念のスキル『ぼっち王』は黒森にも効果を及ぼしていたので、下手な芝居をする必要もなかったが。

 そうしている間にも、黒森のスキル『フェアリーテイル』は知念に関する情報をリアルタイムで黒森に送り続けてていた。

 知念だけではない。

 昨日のうちに黒森が要注意人物だと認識した数名の生徒たちにも、同じように見えない妖精を張りつけてその動向を見守っていた。

 こうしている今も、黒森の脳裏には複数の人物の行動がスキルを通じて詳細に送信されてきている。

 スキル『フェアリーテイル』が生み出す妖精は、見ることも触れることができない。

 物理的な接触ができないため、攻撃にはまるでむいていないスキルではあったが、一度妖精を張りつければ距離が離れたところにいる相手のことも手に取るように見聞することが可能だった。

 その妖精の五感から得られた情報が、黒森の脳裏に直接送られてくるのだ。

 同時に複数のテレビ番組を使用しようとするようなもので、普通ならそのすべてを把握できないはずなのだが、スキルの影響か今の黒森はさして混乱することなく膨大な情報を理解している。

 ノートパソコンでメモを取っているのは、あくまで念のために行っているバックアップのつもりだった。

 

 実のところ黒森自身は、このゲームについてあまり情熱が持てないでいた。

 こうして情報収集を続けているのは、せっかく得られたスキルを試してみたいという誘惑に駆られただけ、という側面がある。

 黒森には、自分のスキルがどこまで使えるのか検証したいという欲望はあったが、こうして集めた情報を活用して自分自身がゲームで勝ちあがろうという気概がない。

 いっそのこと、さり気なく同室の知念はなに役に立つ情報を渡して、知念に勝たせるというのも手かな、とか思いはじめている。

 幸いなことに、知念はなの存在感を消すスキルは、不意打ちや闇討ちには持ってこいの性能を持っている。

 やりようによっては、最後まで勝ち抜くことも決して不可能ではないだろう。


 幼少時から病弱で同年代の子たちよりも発育が悪い黒森は、肉体的な戦いの中に身をおく勇気を持たなかった。

 あるいは、それは……。

 黒森の代わりに戦うのは、別に知念はなでなくてもいいのかも知れない。

 自分自身が戦うことを望まない黒森永遠は、仮にこの先、支援するとすれば誰がいいのかを頭の中で検討しはじめる。


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