03-04 瑠河秀夫、スキル『トラップメイカー』。
その日の朝、倉石市立中央高校の一年生昇降口でちょいとした騒ぎが持ちあがった。
いきなり、爆発音が轟いたのだ。
「……ふん」
そういうこともあり得ると想定していてスキル『エアタンク』を発動して身を守っていた三峰刹那は、下駄箱の前で鼻を鳴らす。
「想定していた以上に、小規模な爆発だ」
三峰はそういったが、周囲はもうもうたる白煙に包まれているし、下駄箱から少し離れた場所にあった傘立てや観葉植物の鉢植えなどの備品も、爆風に煽られて横倒しになっている。
爆発そのものの威力は、決して小さなものとはいえなかった。
ただ、三峰のスキル『エアタンク』の防御力を突破するほどの威力はなかったようだが……。
事実、その爆発音を聞いて何事かと興味を持った生徒たちが、昇降口に集まりつつあった。
まだ一般性とが登校してくるのには早い時間だが、部活の朝練などの用事ですでに登校している生徒たちもそれなりにいるのだ。
「おそらくは、瑠河のスキルなんだろうな」
三峰はそう呟いたあと、爆発音を聞きつけて集まってきた生徒たちにむけ、
「ゲーム関係のゴタゴタだ!
巻き込まれたくなかったら、近寄るな!」
と一喝して、近寄らないように牽制をする。
「まだ、続きがあるかも知れないぞ!」
そういって三峰は、爆発でボロボロになったビニール傘で自分のクラスの下駄箱を片っ端から開けていく。
また、立て続けに爆発が起こった。
「……と、いうようなことがあったらしいのですよ」
その出来事からかなりの時間が経過したあとの教室で、西城沙名は夢川明日夢ら「魔法使いパーティ」に説明をする。
「わたしらが登校してきたときには、もう片づけられていたけど」
「瑠川くん……スキル『トラップメイカー』かぁ……」
「名前まんまの機能だとすると、やはり彼が犯人か」
「なんか根暗で陰険そうだしね、彼」
「姑息なスキルだな。
自分は安全な場所に隠れて、相手にダメージを与えるとか」
「この時間に教室居ないということは、ほぼ確実か」
四人の女生徒たちは口々に勝手なことをいいあっていた。
この時点で朝のホームルームがはじまる直前、すでに教室内にはほとんどのクラスメイトたちが揃っていた。
「今の時点で来ていないのは、その瑠川くんに、ええと……」
「黒森さんも来ていないね」
「あと、芦辺くんも」
「瀬川くんも、な」
「ああ、最初の犠牲者だな」
「ニュースにも出ていたねえ。
未成年だからか実名は報道されていなかったけど」
三十四名の中でそれだけの人数が欠席となると、流石にかなり空席が目立つ印象になる。
「これからどんどん休む人、欠ける人が増えるのかなあ」
「縁起でもない」
「それも、ゲームが終わるまでだよ」
この時点では、この四人組も心情的にはまだまだ昨日までの日常の延長線上にあり、逼迫した心理にはなっていなかった。
「……でも、なんで三峰くん、そんな早い時間に登校していたんだろう?
今日は、剣道部の朝練もない日だったよね」
昨日、瀬川太郎が何者かの襲撃にあってスキルを喪失したことは、このクラスの全生徒が知っている事実だった。
あのとき、全員の脳裏に瀬川のスキルが略奪された旨がアナウンスされているのだ。
テストプレイのときとは違い、瀬川のスキルを奪った者の名前が不自然にノイズにまみれて聞き取れなかったことを気にする者も居たのだが、その原因はまだわかっていない。
その瀬川が意外に重傷だったこともあり、ゲーム二日目にあたる今日、おおぴらに動きはその下駄箱の騒動だけだった。
ひょっとしたら、誰かが人知れずなんらかの準備を行っているのかも知れなかったが、今のところはまだ露見していない。
「……あれ?」
教室を見渡していた奥地八枝が、あることに気づいて首を捻る。
「どうした?」
奥地があげた声に、辺見洋子が反応した。
「数が、合わない」
奥地は、呆然とした様子でそんなことを呟く。
「欠席者は四名のはずなのに、空いている席が五つもある」
「……え?」
「嘘っ」
四人の少女たちは立ちあがり、教室を見渡した。
「ええっと……瀬川くん、芦辺くん、黒森さんに、瑠河くん」
「あ。
本当だ」
「空席が、ひとつ多い」
「一番前の席。
三峰くんの隣」
「あそこに座っていたの、誰だったけ?」
「……あれ?」
「え?」
「思い……出せない?」
「席順からいって、女子の誰かのはずだけど……」
少女たちは顔を見合わせ、誰もそこに座っていた少女のことを思い出せないということを悟ると、気まずい顔つきになった。
「……なにかのスキルの効果だよね。きっと」
「たぶん、ね」
「どんなスキルなのかは、想像もつかないけど」
「記憶を操作するとか、そういう能力?」
「そんな能力があったら、それこそ無敵じゃないか」
「……んー……。
どうなんかな。
流石にそこまで突き抜けて有利なスキルってのは、ないと思いたいけど……」
少女たちがごちゃごちゃとそんな会話を続けているうちに予鈴が鳴り、生徒たちはそれぞれ自分の席についた。
ホームルームに続いて一時限目の授業が終わり、休み時間になると三峰刹那は席を立ち、つかつかと矢尻知道の席へと移動する。
「矢尻、ちょっといいか?」
三峰は矢尻にそう声をかけた。
「え? あ、ああ」
不明瞭な声で、矢尻は返答をする。
「な、なにかな?」
「ゲームに関することだ」
三峰はやけにはっきりした発声でいった。
「矢尻のスキル、は名前から判断して防御力に優れたスキルなんだろう?
本来なら頼める筋合いでもないのだが、瑠河の『トラップメイカー』に対抗するために、一時的に協力して貰いたい」
そういったあと、三峰は少し間をおいて矢尻の顔をまともに見つめる。
矢尻知道のスキルは『バリヤー』という。
ベタなその名前が示す通り、防御力に偏重したスキルであった。
そして三峰は、
「ゲームはゲームとして、だ。
あいつを野放しにしておくと、無駄に被害が増えて迷惑この上ない。
それ以上に、こそこそと隠れて誰かを傷つけるやり口が気にくわない」
「きょ……協力って、ぼくは、なにをすれば……」
矢尻は臆病そうな目つきで三峰を見あげた。
「罠が仕掛けられていそうな場所を片っ端から調べる。
もちろん、おれたちのスキルを発動したままだ」
「それは、いいけど……」
そういって矢尻は三峰を上目遣いでみあげた。
「……瑠河くんを放置したままで罠だけに対処しても、鼬ごっこになるだけでは?」
「……いわれてみれば、そうだな」
三峰は虚を突かれた表情になる。
「よし。
瑠河狩りはいずれやるにしても、今は時間がないし、教室内の罠がありそうな場所を片っ端から確認しいこう。
身の回りの安全が保障されていないと、どうにも居心地が悪い」
その日、午前中の休み時間になるたびに、その教室内から連続して爆発音が鳴り響いた。
「……おい、お前ら」
四時限目に教室内に入った古典の上原先生は教室内の惨状を目にして、覿面に顔を強ばらせた。
「ゲームだかなんだか知らないが、あまり派手に学校の備品を壊すなよ」
「瑠河にいってください」
教壇のすぐ前の席に座る三峰が平静な態度で発言した。
「むしろわれわれは、被害を最小限にくい止めるために動いています。
それに学校の備品は、ゲームが終了し次第、修復されるはずです」
三峰刹那の席は最前列のほぼ中央、つまり、教壇のまん前なのである。
「三峰。
お前が真面目なことはよく知っている」
上原先生は心中で「その真面目さが、どこかズレているときもあるがな」とつけ加える。
「とりあえず、ゲームのルールにも学校の授業などの邪魔にならない範囲内でやろう、とかいう項目があったはずだ。
できるだけ穏便な方法でやってくれ。
それでは、今日は教科書の六十七ページからだな……」
「新堂」
昼休みになると、三峰は今度は新堂零時に声をかけてきた。
「お前のスキルも防御用のものだったな。
よかったら、協力してくれないか?」
「教室内の罠探しは、今まででもう一段落ついたんじゃないの?」
一刻でも早く購買部にむかいたかった新堂は、思わず不機嫌な声をあげてしまう。
「おれのスキルが必要だったら、いくらでも使っていいけど……」
昨日、七重芹香と路地遙が酷使したおかげで、新堂のスキル『ナイトシールド』は極端にレベルがあがってしまっている。
今なら、クラス全員の身を『ナイトシールド』で保護することさえ、なんの苦もなく行えるのであった。
そんなことをすれば例のゲームがさらに泥沼化、長期化してしまいそうだから、誰かに頼まれても実行するつもりはなかったが。
「そうか。はなしが早い。
感謝する」
早口にそういって、三峰は頷く。
「これから、瑠河を狩り出すために有志を募るつもりだ。
放課後までには人数がはっきりすると思うから、そうしたらそいつらに新堂の『ナイトシールド』の力を貸してやってくれ」




