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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
五日目。
108/109

06-29 黒森永遠による現時点でのまとめ。

 このとき、芦辺素直、七重芹香、路地遙の三名は芦辺邸で起こった爆発などの影響により警察に身柄を拘束され、事情聴取を受けていた。


 同じ事件の影響で負傷した知念はなはそのまま近所にあった整形外科医に駆け込み、手当を受けた。

 ぽっきりと前腕部の中程から折れた左手と顔や腕に無数の切り傷を負っていた知念の姿を見た看護婦は急患と判断し、待合室に待機していた患者たちの順番をすっとばして知念を診察室へと案内する。

 そこの医師はぐちゃぐちゃと文句をいわれながらも手早く骨折した箇所を簡易ギブスで固定し、そのあとに看護婦に無数にある切り傷を消毒するように指示をした。

 小一時間ほどして、知念は顔や腕に包帯や絆創膏をはりつけたミイラ男もかくやという無惨な姿となってその病院を出て、その足ですぐ近くにある薬局に駆け込んで鎮痛剤や化膿止めその他の薬剤を購入。

 医師にはしばらく安静にしているようにと念をおされていたし、それを別にしても流石にこの日は自分から行動を起こす気にはなれず、知念はそのまま青藍寮の自室へと帰って行く。

 途中ですぐに摂取できる食料を買い込むことも忘れない。

 タンパク質に、カルシウム。ビタミンにミネラル。

 ゲームが開始されてからこの方、知念の運動量は以前とは比較にならないくらいに増えている。

 ただでさえ寮で出される食事では物足りなく思っていたところに、この負傷だ。

 一刻でも早く傷を癒すためにも、栄養は十分に摂っておきたいところだった。

 その帰路において、知念はスキル『ぼっち王』の恩恵に対してはじめて感謝したい気持ちになった。

 現在の知念は「満身創痍」を表現したコスプレかと思うほどの酷い格好であったわけだが、そのスキルのおかげで誰からも注目されずに寮まで帰ることができた。


 三峰刹那は部活で剣道着を身につけて、講堂にて蛮声を張りあげていた。

 田所一は見舞いに立ち寄った病院に居た。

 有坂誠はいつもの通り、一度帰宅してからまた外出し、ロードワークに余念がない。

 基本的にこの三人は、ゲームがはじまっても決して自分のペースを崩すことなく、以前の通りの生活を保とうとしている……ように、黒森永遠には思えた。


 西城沙名、奥地八枝、夢川明日夢、辺見洋子の四人は、まだ例の喫茶店に長居して、雑談に興じている。

 ゲームに関することも多少ははなしているが、基本的には話題がどこへ転ぶのかわからない、いつも学校でやっている通りの「雑談」でしかなかった。

 この四人も、自分のペースを崩さないという点では三峰らと変わらなかった。

 が、この四人は、普段の言動とは裏腹に、時と場合によってはゲームについても驚くほどの意欲をみせる。

 特に、今の四人は、全員が四種の魔法系スキルを取得している。

 高い攻撃力と臨機応変に対応できる順応性、それに四人で組んで動いているという数の優位から考えると、この四人は決して軽視はできなかった。


 その四人と分かれた木ノ下紬は、家路を急いでいた。

 この木ノ下については、一応『フェアリーテイル』で監視してはいるものの、黒森も態度を保留している。

 現在所持しているスキルの数、いいかえれば、潜在的な脅威としてみたとき、この木ノ下についても警戒を怠るべきではないのだ……。

 どうも、木ノ下のゲームに対するスタンスやモチベーションが、この時点になっても曖昧なままなのだった。

 木ノ下は、このゲームから逃げたいのか、それとも、勝ちたいのか。

 本人もまだ態度を決めかねているのかも知れなかった。


 内膳英知は、学校からかなり離れた場所にある新古書店で時間を潰しているようだった。

 この内膳の態度からゲームに関するスタンスを推測するのは容易かった。

 内膳が自分から動いたのは、二日目に大量の罠を仕掛けた瑠河を大勢で狩りたてたときだけ。

 それ以外は、自分から能動的に動いたことはない。

 自分の身の安全が脅かされでもしない限りは放置、という方針で、典型的な専守防衛型だった。

 しかしこの内膳は、知念はなに襲われた際、返り討ちにしてスキル『見取り稽古』を奪取している。

 今日一日でかなり大量のスキルをコピーして自分の物にしているはずだった。

 スキル『スカウター』のように、誰かがどんなスキルを持っているのか一目で判別できるスキルを持たない黒森には、その詳細まで知ることはできなかった。


 そして、新堂零時。

 この新堂は、今、叶治郎と協力しあって、渡来治樹と瑠河秀夫を介抱して保健室へと運んでいるところだった。

 新堂は、ゲームの勝敗に関係のないところでは妙に面倒見がいい。

 基本的に善良な人柄なのだろうな、と、黒森はそう判断している。

 この新堂についていえば、「自分のみに降りかかる火の粉は払う」というスタンスは内膳といっしょだが、その背景にある思想はかなり異なる。

 このゲーム自体の完全否定。

 どうやら新堂は、自分たちがこんな理不尽な境遇にあることを強要されることが許容できないらしいのだ。

 心情的には同意できるのだが、それをわざわざ公言してもどうにもならないだろうな、と、黒森は思う。


 以上が現在黒森がスキル『フェアリーテイル』を使用して常時監視を行っている生徒たちの近況になる。

 黒森が判断する「要注意人物」というわけだが……これまでのところは、彼らが一斉に動くということはなかった。

 しかし、今日の放課後になってから、にわかに動きが活発になっている。

 一度はスキルを喪失した西城らが、須賀泰治のスキル『臥薪嘗胆』を利用して自分たちのスキルを復活させ、それどころかスキルの性質を巧妙に活用して「同じスキルを多人数にコピーする」という前例がないことをやってのけた。

 スキル『見取り稽古』でも表面上、同じようなことは可能なのだが、あちらのコピーはどうやら何らかの欠陥があるらしい。

 過去に『見取り稽古』を持っていた知念はなと内膳英知の言動から、黒森はそう判断している。

 彼らは、どうも『見取り稽古』について、あまり信用していないような態度を取ることがあるのだ。

 多少の制限はあるにせよ、本当に「見るだけ」でスキルのコピーが可能になるのなら、これほど有利なスキルもないように思うのだが……。

 実際には、知念も内膳も、スキル『見取り稽古』を過大に頼りにしている節はなかった。

 むしろ、どちらかというと持て余し気味であるようにも思える。


 それから、知念はなが芦辺素直、七重芹香、路地遙の三名を襲撃して、芦辺の自宅で派手にやりあったのも、これまでにはなかった事例だった。

 知念はそのスキル『ぼっち王』の性質おかげで基本的に単独行動を強いられているわけだが、そのせいでフットワークが軽くなるのか、これまでにも積極的に他のクラスメイトたちを襲撃している。

 これまでに、一度も成功してはいないのだが。

 それでも、すでに複数のスキルを持ち、スキルの使い方にある程度習熟し、なおかつ、芦辺の元である程度戦略的動きはじめていたこの三人組を相手にして、かなりいい線まで拮抗していたことは評価してもいいと思う。

 現在の知念は、たとえば黒森の『フェアリーテイル』や芦辺の『自動筆記』、それに睦月庵の『ファイブセンス』のような「相手の状況を察知するためのスキル」を欠いている。

 そのため、誰かを襲撃するにしてもどうしてもごり押し、力ずくになるしかないわけだが……また、これまでに知念の襲撃が成功していないのは、そんなところが原因として大きいのだと思うのだが……それでも、何度も失敗してもまだまだ次のことを考え、実行に移している知念のバイタリティは十分に評価に値する。

 この知念が情報収集に秀でたスキルを持ったとしたら、大きく情勢が変わるのではないか?

 と、黒森は思った。

 そして、それだけはどうにかして阻止しなければなならない、とも。


 それに……林道鈴への不意打ちを成功させ、放課後になってからも連戦してスキルを奪って歩いた睦月庵。

 この睦月に関していえば、黒森も芦辺と接触したあたりから「一応」監視はしていたが、今日になるまでさほど重視していなかった。 

 もともと持っていたスキル『ファイブセンス』がさほど強力なものに思えないこともあったのだが……攻撃力のあるスキルを手にした途端、ここまで豹変するとは予想していなかったのだ。

 その睦月は、叶からスキルを奪って逃げ出したあと、女子更衣室に移動して制服に着替え、帰宅のための支度をしている。

 ついさっきまで真剣勝負をしていたとは思えないほど、悠然とした態度をしていた。

 睦月は芦辺らと手を組んでいたときに自分のスキルについても簡単に説明しており、その説明を芦辺を監視していた黒森も同じように聞いていた。

 だから、黒森も睦月のスキルについて概要くらいは把握している。

 スキル『ファイブセンス』がある限り、一年D組の生徒が近づいてくれば事前に察知することができるわけで、警戒という意味ではこの睦月は他の生徒たちよりもずっと有利な立場にある。

 このダークホース的な存在が、あと何人現れるのか。

 いや、こうしている今も、黒森が監視をつけていない生徒たちが予想外の動きをし、パワーバランスが大きく崩されているところかも知れなかった。

 まだまだゲームが開始されてから五日目に過ぎない。

 須賀のスキル『臥薪嘗胆』の機能が判明したおかげで、一度完全にスキルを奪取された生徒たちでもまたゲームに復帰する可能性があることが歴然となった。

 しかもその『臥薪嘗胆』は、機能について公然なものになった途端にコピーされ、複数の、決して少なくはない生徒たちが持つに至っている。

 これは、つまり……完全に勝利を狙うのならば、一度スキルを喪失した生徒であっても、念を押して復帰できないようにしなければならない、ということを意味するのではないか?

 いや、そのように判断する物は少なからず存在するはずであり……。

 と、いうことは、このゲームは今後、より暴力的な要素を強めていく……ということになる。


 ここに至って、これまではなかった要素がどっと出てきたな。

 と、黒森は思う。

 それも、ゲームの難易度がより高くなるような要素ばかりだった。


 そして、今は週末。

 明日と明後日の土日は、このゲームがはじまって以来の連休である。

 事業時間という安全地帯を失い、町中に解き放たれた一年D組の生徒たちがどう動き、誰と誰がぶつかり合い、どんな化学反応が発生し、町中でどんな馬鹿騒ぎを起こすことか。

 黒森には、まったく予想ができなかった。


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