06-30 比留間結衣は快晴を泳ぐ。
そろそろ日が暮れかけている五月晴れの青空の中を、スキル『エアリアルダイバー』の所持者である比留間結衣は悠然と泳いでいた。
──しかし、今日はなぜだかいっぱいアナウンスがあったな。
空中を泳ぎながら、比留間は他人事のように考えた。
この比留間にとっては、ゲームは完全に他人事なのである。
──せっかく期間限定のスキルなんだから、みんな、ピリピリしていないでスキルを使って楽しんでおけばいいのに。
とも、思う。
ある意味では、この比留間ほど自分に与えられたスキルを享受している者はいないのだろう。
もちろん、ゲームの進行や勝敗などについても、この比留間はかなり関心が薄かった。
比留間のスキル『エアリアルダイバー』は、いざとなれば上空という誰にも追跡不能な領域に逃れることを可能とするスキルである。
そうしたスキルを与えられていた比留間は、それだけ精神に余裕というべきものがあった。
この『エアリエルダイバー』を手放す可能性やリスクを考えるだけで自分から誰かに手出しをしようという気持ちはきれいに失せてしまうし、今後、どうしても避けられない対決を強いられた際には、あっさりと自分のスキルを相手に譲渡するつもりでもあった。
こんな強制されたゲームのせいで痛い目にあうのは割に合わない。
と、比留間は考える。
あとで全快すると保証されたとしても、だからといってわざわざ自分から痛い目をみにいくのは、愚かな行為に思えた。
このスキルが使用な期間をギリギリまで引き延ばしつつ、いざとなったら全面降伏してスキルを明け渡し、自分が死傷しないように心がける。
ある意味ではかなり健全な思考ではあるのだが……こうした比留間のスタンスは、ゲームに参加している他のクラスメイトの中ではどうやら少数派になるようだ。
最初のうちおとなしくしていた生徒たちも、積極的にゲームに参加する他の生徒たちに引きずられるようにして好戦的になっていく。
今日のアナウンスの異常な回数から考えてみても、クラスのみんながこのゲームに次第に熱狂しはじめていることは明白に思えた。
──よくよく考えてみると、かなり異常な状況であるのだが……。
その異常な状況に放り込まれた結果、一年D組の生徒たちはそれまでには表面化していなかった資質を徐々にあらわにしはじめている……らしい。
そういう変化を観察するのも、ゲームマスター……なんていったっけ?
ああ、そうそう。
リライターという人たちの目的なんかな?
と、そんなことを漠然と思ったりもする。
この比留間にしてみれば、リライターの目的や思惑など、「知ったことではない」わけだが。
比留間は、他の生徒たちと同様に、眞鍋伸吾や林道鈴が血まみれになって倒れた光景を目撃している。
このゲームがなかったとしたら、人間が他の人間に対して明確な悪意を持って攻撃する光景を目撃する機会は、おそらく一生なかったはずなのだ。
それは、比留間だけではなく、一年D組の他の生徒たちも同じであるはずであり……。
できるだけ考えないようにしてはいるのだが……そうした経験が今後なんらかの影響を及ぼすであろうことは、想像するに難くない。
いや。
もう影響は出はじめているか。
──それまで静かにしていた生徒たちも含めて、一年D組の生徒たちがやけにゲームに積極的になっている、という形で。
根本には、猜疑心や恐怖心もあるのだろう。
が、比留間には、みんなが血に酔って浮かされているようにも見えた。
──ま、勝手にするさ。
と、比留間は思う。
殺し合いをしたいやつは、勝手にやっていればいい。
わたしも、勝手に泳ぐし。




