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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
五日目。
106/109

06-27 睦月庵vs叶治郎。

「なんで……」

 睦月は、そういったきり絶句した。


 なんで、こうもうまくいかないのか。

 誰も彼もが邪魔をして来るのか。


「愚問だな」

 叶治郎は、にやにや笑いを浮かべながら答えた。

「足を引っ張り合い、隙あれば他人を蹴落とそうとする。

 ──こいつは、もともとそういうゲームだったろう?

 もっとも……」


 ……例外は、居るようだけどな。

 と、叶は新堂に視線を走らせた。


「……こいつ、その気になりさえすれば、休み時間でも終業直後でも、クラス全員をいっぺんに爆殺することもできたんだぜ。

 さっきいってたことが本当だとすると」

「可能か不可能かでいったら、そうすることも十分に可能だったんだけどね……」

 新堂零時はそういいながら睦月の横をすり抜け、その場に横たわったままの瑠河と渡来の二人のそばに立った。

「……何度もいっているように、おれはこのゲームそのものに反対している立場だから。

 例外がない限りは、自分からは動かないよ。

 それから、これから君たちが決闘しようが殺し合おうが干渉をするつもりはないけど、こっちに近づいてきたら容赦なく攻撃をさせて貰う」

「いつでも勝てる立場にありながら、あえてなにもしない」

 叶はそういいながら、手の中にスキル『ランサー』で薙刀を出現させる。

「お前もたいがいにいかれていると思うよ、新堂」

「『ナイトシールド』が自分以外のすべてを護ろうとするスキルであるように、『トラップメイカー』がたまたま、そういうことが可能なスキルだったというだけのことだよ」

 新堂は冷静な口調で答えた。

「おれは、他のスキルだってすべて、使いこなせさえすればそれに匹敵するくらいの潜在能力を秘めていると思っている。

 そう思うからこそ、こんなスキルをたかだか潰し合いにしか使わせようとしないこのゲームのルールを憎んでいる。

 根本的に……」

 不毛じゃないか……と、新堂は続けた。


「と、いうことで、睦月さん」

 叶は優しい声色を出した。

「退けば新堂の『トラップメイカー』の餌食になるだけだ。

 残念なことに、今の君には選択権がない。

 どうせいつかはぶつかることになるわけだから……」

 今のうちに、やり合っておこうか……と、叶は続ける。


 睦月は無言のままスキル『マックススピード』を発動。

 叶の方に突進すると同時に、スキル『ジャック・ザ・リッパー』で見えない刃物を取り出し、横合いから斬りつける。

 スキル『マックススピード』の影響下にある睦月から見れば、叶の動きはかなり緩慢なものに映った。

 しかし、その緩慢なはずの動きで、叶は正確に睦月の目前、顔面の前に薙刀の穂先を繰り出していた。

 緩慢でありながら、なぜか、睦月の動きを先読みし、移動するであろう先に穂先を置くような、不自然に感じるほどに最小限で的確な動き。

 睦月は慌てて大きく床を蹴り、真上に飛びあがって薙刀の穂先を避ける。

 よろめき、不安定な姿勢になりながらも、その際に睦月はスキル『ジャック・ザリッパー』の穂先で薙刀の柄を横凪に両断していた。

 スキル『ジャック・ザ・リッパー』の見えない刃物は伸縮自在であり、コンクリートの塊や分厚い鉄板をあっさりと斬ることができる鋭利さを持っている。

 しかし、叶の反応も常軌を逸していた。

 両断され、穂先を落とされた薙刀の柄を睦月に投げつけ、同時に新しい薙刀を具現化する。

 叶の薙刀はスキル『ランサー』で具現化していたものだ。

 仮に破壊されたとしても、いくつでもすぐに再具現化が可能なのである。

 睦月の攻撃は……つまるところ、無駄であった。

 なにしろ、この叶は……『ランサー』以外にも『リヴェンジャー』のスキルも持っている。

 スキル『リヴェンジャー』の詳細についてはまだまだ明らかにされていなかったが、物理攻撃を反射する……といっった性質のものではないか、と睦月をはじめとするクラスの者たちは推測していた。

 今回、睦月があえてスキル『ジャック・ザ・リッパー』で叶に斬りつけてみたのは、叶に対して本気で攻撃を加えたかったというよりも、『マックススピード』と『ジャック・ザ・リッパー』の同時使用でどこまで今の叶に太刀打ちできるのかを実地に確認してみたかったからだ。

 その結果は……惨敗、もいいところだったが。


 刃渡りが観測できない『ジャック・ザ・リッパー』の見えない刃と、『マックススピード』の超加速。

 このコンビネーションを持ってしても、今の叶には適わない……ということが確認できた。


 ──反則だ。

 と、睦月は思う。

「……それ、『ランサー』の機能?」

 叶から少し距離を取って一時的に『マックススピード』を解除し、睦月は訊ねた。

「そう」

 叶は答える。

「『ランサー』の第三段階、薙刀は身体能力の全般的な向上と達人級の武芸補正がついているだ。

 実に、使えるよね」


 ──反則だ。

 と、睦月は思う。

 本人はあらゆる物理攻撃を跳ね返し、スキル『マックススピード』に追いつけるほどの超人的な速度と先読み能力があるなんて……。

 叶が持っているスキルはたったふたつだったが、この組み合わせは、近接戦闘に限定すればほぼ無敵なのではないか?


 ──だったら……。

 睦月は、スキル『アイスエイジ』を発動して叶の体温を奪う。

 それとほぼ同時に、叶の方が睦月に薙刀を振るってきた。

 あまりにも鋭い動き……だったが、直前に『マックススピード』を発動していた睦月は、かろうじて叶の斬撃を避けることに成功した。

 一度は睦月の頭部すれすれを通過していった穂先が、すぐに帰ってきて、再び睦月を襲う。

 睦月は慌ててその場に尻餅をついて、どうにか難を逃れた。

 つい先ほどまで睦月の首があったあたりを、薙刀の刃が通過していく。


 睦月のおくれ毛が、総毛立った気がした。  


 やばい。

 やばいやばいやばいやばい。


 睦月の頭の中で、先ほどから警鐘が鳴り響いいている。


 叶の動きには、躊躇というものが微塵にも感じ取れない。

 こいつは、あっさりと人を殺せるんだな……と、睦月は確信した。

 それに、あのふたつのスキル。


 スキル『アイスエイジ』があいつを凍らせて、身動きができなくなるまで……自分は、逃げ回ることができるだろうか?


 いや。

 他のスキルは?


『シーフ』……駄目。

 叶が素直に触らせてくれるとも思えない。

 この場に居るもう一人のスキル持ち、新堂はといえば、「近寄ってきたら攻撃をする」と宣言している。


 なら……『トラップメイカー』は?

 奪取したばかりのスキルであったが……どうやら、これに賭けてみるしか、この場を打開する手段はなさそうだ。


 睦月は、覚悟を決めた。


 やべえなあ……とか思いながら、叶はにやにや笑いを浮かべて白い息を吐く。

 体が冷えはじめて、まだせいぜい数十秒といったところだろう。

 なのに、体中の血管が収縮するほどに、叶の体は冷え切っていた。

 あと一、二分もすれば体を動かす気力もなくなり、それ以上の時間が経てば今度は本格的に叶の体組織が凍結しはじめるだろう。

 スキル『アイスエイジ』の機能は本物だ。

 低レベルでさえも、これほどの威力なのだ。

 こいつは……是非とも、奪わなければな……と、叶は思う。


 そんなことを考えている間にも、叶は薙刀を縦横に振るって睦月のことを追いつめていた。

 現在、目前に居る睦月については、叶自身はほとんどなにも考えていないのだが……。

 叶の体が睦月の姿を目で追い、普段の動きの何倍もの速度で、ほぼ反射的に動いている。

 とても洗練された、合理的な……最小限の動きで、着実に睦月を追いつめていた。

 初撃で睦月が沈んでいないのは、睦月の動きが不自然なほどに素早いから、スキル『マックススピード』の影響下にあるからにすぎない。

 睦月の動きは、速いだけであり、おおよそ洗練されたものではなかった。

 むしろ無様で、ときには滑稽な動きになることもある。

 直線的な動きは早いのだが、柔軟性というものに欠けていた。

 睦月はその速度を生かし、狭い廊下であちこちに動き続けるので、叶と睦月はめまぐるしく体を入れ替えていた。


『ランサー』の影響により驚異的な動態視力を持った叶の目には、睦月の動きはあまりにも無駄が多いように思える。

 それも、段々と足元がおぼつかなくなっているようだ。

 スキルを使えるとはいっても、素の睦月は単なる女子高生に過ぎない。

 体力についてもその他の身体能力についても、決して傑出したところはなかったはずだ。

 たとえ『マックススピード』で超加速をされていたとしても、ずっと動き続けていれば息はあがってくるだろう。

 そうでなくても、睦月の動きに隙は多くなる一方……に、なるはずだった。

 長期戦になればなるほど、こちらが有利になるな……と、叶は判断する。


 そんなことを考えつつ、攻撃を続けていた叶に……不意に、叶の体が動かなくなった。


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