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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
五日目。
103/109

06-24 睦月庵の戦い。

 ようやく大人たちの「事情聴取」とやらから解放された睦月庵は、進路相談室を出て迷うことなく廊下を歩いていく。

 体育の授業直前に例の一件を起こし、そのまま身柄を拘束された睦月はこのときもまだ学校指定の体操着であるジャージ姿だった。

 大人たちに拘束されている間にも、睦月の感覚は遠く離れた場所までも関知している。

 互換を研ぎ澄ます、スキル『ファイブセンス』のおかげだった。

 触覚が一番近く、嗅覚が一番遠くまで関知することができる。

 触覚の次に「近い」のが視覚で、その次が聴覚だった。

 半径数百メートル単位をカバーできる嗅覚ほどではないにせよ、『ファイブセンス』使用時の睦月は、構内の会話ならすべて選択的に聞き取ることが可能だった。

 当然、裏庭であった西城ら自称魔法少女たちと須賀泰司、それに乱入者である木ノ下紬とプレデターこと知念はなたちの間でなされたやり取り、その場から抜け出した須賀と琉河秀夫、渡来治樹、叶治郎らとの間で交わされた会話もすべて聞いて把握している。

 このうち須賀泰司、叶治郎、琉河秀夫、渡来治樹の四名は、愚かなことに、まだ校内に残っていた。

 当然、睦月としてはこんな美味しい獲物を逃すはずもなく、そのうちひとりにむかって足を早めている……ところなのであった。


 狙うのは当然、須賀泰司である。

 もともと与えられている『臥薪嘗胆』に加え、『シーフ』と『トラップメイカー』まで持っている。

 スキル『シーフ』はそのまま放置しておくとどういう局面で邪魔になるかわからないようなスキルであることは、林道鈴の行動によって証明されている。

 できればすべて回収したいところだったが……それを別にしても、攻撃系スキルを持っていない須賀一人を始末するだけでみっつもスキルを獲得できる好機であり、睦月としてはそれを逃がすつもりはなかった。

 首尾よく須賀からスキルを取りあげることができたら、他の三人についても順番に始末ができれば最上だ、と、睦月は思う。

 だが、ここでは焦らずに一人づつ、確実にクリアしていくことにしよう。


 その須賀は、今、二階にある一年D組の教室にむかっているところだった。

 標的四人の中で一番の難敵に思える叶は、昇降口に居てもう下校しかかっている。

 この叶については、下手に近くに居て邪魔には居られるよりは下校してこの場から離れて貰った方が都合がよかった。

 スキル『ファイブセンス』を所持する睦月ならば、いつでも居所を割り出すことが可能なのだ。


 その須賀には、教室前で追いついた。

 足音を忍ばせていたこともあって、背後から睦月が近寄っていたことにはまだ気づいていない。

 睦月は念を入れてスキル『マックススピード』を起動し、須賀との距離を一気に詰めた。

 そして、スキル『ジャック・ザ・リッパー』で見えない刃を出現させ、須賀の足の甲に突き刺す。

 スキル『ジャック・ザ・リッパー』で出すことができる見えない刃物は、所持者の意志によってそのサイズを変えることができる。

 このときの睦月は、「細身で刀身の長い、切っ先の鋭利な刃物」を脳裏に描いていた。


『ジャック・ザ・リッパー』の見えない刃は、易々と須賀の左足の甲を貫通して廊下の床材に縫いつけた。

 須賀が派手な悲鳴をあげるが、『マックススピード』によって時間の流れが違う空間に居る睦月の耳には、その悲鳴がまともに聞き取れない。

 睦月は須賀の足を床に縫いつけるとすばやく須賀から距離を取り……そこで、スキル『マックススピード』を解除した。


 途端に、世界に「音」が復活する。

 文字にならない悲鳴をあげる須賀。

 その須賀の足下で、なにもない空中で起こっている小爆発。


 ──やはり、な。

 と、睦月は思う。

 スキル『トラップメイカー』。

 その機能により、須賀は「敵意を持って自分に近づいてくる存在を関知したら爆発する」という罠を仕掛けていたわけだ。

 睦月が『マックススピード』を使用したことにより、その罠が作動する前に距離を取ったことで、結果的には不発に終わったわけだが。


「……む、睦月……お前……」

 足を床に縫いつけられて移動を封じられた須賀は、額に脂汗を浮かべて突如姿を現した睦月を睨んだ。

「今、あなたにできる選択肢はふたつ」

 睦月は冷静に、用意していた台詞を口にする。

「すべてのスキルをわたしに譲渡するか、それとも無駄な抵抗をして林道鈴の二の舞になるかだ。

 わたしにしてみればどっちにしろ同じ結果になるわけだが……一応、選ばせてやる。

 命さえ残っていれば……今までに『臥薪嘗胆』を分けてきた誰かかしらがお情けでスキルを復活させてくれるかも知れないぞ」

「……お前!」

 痛みを堪えながら悪態をつき、須賀は睦月にむけてスキル譲渡画面を出現させる。

「……数が足りないな」

 その画面を見て、睦月は冷静に指摘をした。

「ふたつではなく、みっつだ。

 あたなは、今、スキルをみっつ持っているはずだ」

「……くそっ!」

 小さく叫んで、須賀は、スキル『臥薪嘗胆』の譲渡画面も表示させる。

「最初から素直にそうしておけばいいのに……」

 睦月はそういってから、スキル『マックススピード』を再び起動。

 また空気が粘性をもって重たくなるのを感じながら、睦月は須賀が表示したスキル譲渡画面の「Yes」の部分を三連打し、須賀から離れた。


《須賀泰司のスキル『シーフ』が睦月庵に譲渡されました。》

《須賀泰司のスキル『トラップメイカー』が睦月庵に譲渡されました。》

《須賀泰司のスキル『臥薪嘗胆』が睦月庵に譲渡されました。》

 

 例のアナウンスが三連呼されたのを確認してから、睦月はスキル『マックススピード』を解除する。

 スキル『マックススピード』を使用中にこのアナウンスが起こったとき、他のクラスメイトにはどう聞こえるのか興味があるところだが……。

 今の睦月には、それを検証するよりも重要な関心事があった。


「その怪我、最小限の傷にしたつもりだけど、早めに治療した方がいいよ」

 須賀にそういい捨てて、睦月は『ジャック・ザ・リッパー』を解除して刃を消した。

 そのまま、あとも見ずに須賀の前から姿を消す。

「……お前、あとでおぼえていろよ!」

 という須賀の捨て台詞が、背中から聞こえてきた。


 ──あとふたり、か。

 あっけなく『シーフ』『トラップメイカー』『臥薪嘗胆』のみっつのスキルを奪取した睦月は、その足で残りの二人、琉河と渡来の元へとむかう。

 この二人が所持するスキルは、須賀が持っていたものとかぶっている。

 つまり、今、睦月が二人の元へむかっているのはスキルの奪取が目的ではなく、いや、より詳しくいうのならスキルの奪取が目的ではあるのが、それはその二人のスキルが欲しいからではなく、その二人にスキルを喪失させること自体が目的であった。

 さらにいうのなら、その二人が完全に戦意を喪失してこの先もゲームに介入してこない……と安心できるまでに心を折ることができれば、ベストといえよう。

 つまり睦月は、邪魔者を一人でも多く退場させるつもりだった。

 最悪、林道鈴のときのように手加減抜きで潰しにかかる結果になるかも知れなかったが……。

 ここで睦月は琉河と渡来の顔を思い浮かべ、

「あの二人なら、少し痛めつけて脅せば十分か」

 とも考える。


 その二人が現在どこに居るかというと、呆れたことにまだ例の男子トイレの中に居るのだった。


「……なんだってお前に協力しなければいけないんだよ!」

「馬鹿!

 ここまで差を付けられてだな、この先も自分のスキルだけでやっていけると思ってんのかよ!」

 手を組むのかどうかで、いい争いになっているらしかった。

「おれの『シーフ』はだな。

 使いようによってはどんなスキルだって盗むことができる……」

「だが、今ではお前がその『シーフ』を持っていることは知れ渡っている!

 不用心にお前に近寄るやつなんかいねーよ!」

「……おまっ……。

 お前の『トラップメイカー』だってな、まるで使い物にならないゴミスキルな癖に!」

「使い物にならないのはどっちだ!」


 スキル『ファイブセンス』でその口論に聞き耳を立てていた睦月は軽くため息をついた。

 ──ガキの口喧嘩か。

 手を組むなり決別するなり、さっさと結論を出せばいいものを、いつまでもダラダラと……。


 その男子トイレの前に到着した睦月は、そのまま中に入るのには流石に抵抗があったのでスキル『アイスエイジ』を使用することにした。

 目の前の男子トイレの中をキンキンに冷やしてやることにする。

 スキル『アイスエイジ』の有効範囲は所持者が認識できる範囲内まで。

 たいていは「視認できる範囲内」に限られてくるのだが、スキル『ファイブセンス』のおかげで五感が鋭敏になった状態の睦月にとっては極端に伸張する。

 極端なことをいうのなら、百メートル以上離れた相手を凍死させることも可能なはずだったが……今回の目的は、男子トイレの中に居る二人を外に追い出し、そのあとで決定的な敗北感を植えつけながらスキルを取りあげることあった。


 琉河と渡来の二人は、睦月が『アイスエイジ』を使用してからいくらもしないうちに飛び出してきた。

 トイレから出て睦月の姿を認め、二人とも目を見張る。

 その瞬間に睦月はスキル『マックススピード』を使用、渡来の方に近づいて、その体を琉河の方に押した。

 スキル『マックススピード』の高速空間の中で、渡来の体がゆっくりと琉河の方に倒れていく。

 睦月は自分のステータス画面を表示させて、スキルが移動していないのか確認した。

 すべて、無事。

 どうやら、渡来の『シーフ』は、触れただけで自動的に作用する働きはないらしい。


 そのあと睦月は、二人の体がもつれあってゆっくりと廊下に倒れ込むまで観察してからスキル『マックススピード』を解除する。

 同時に、『アイスエイジ』で二人の体を冷やしていった。


「おま……お前の仕業か!」

「この寒さは!」

 琉河と渡来は、廊下に倒れたままそんな風に抗議した。

 声も体も、ぶるぶると震えている。

 五月だというのに、吐く息も白い。

 その二人の周囲だけ、氷点下の世界になっているのだから当然のことだった。

 短時間ならさほど影響がないはずだったが、数分以上、睦月が『アイスエイジ』を使い続ければ、凍傷などの半永久的な影響を免れなくなる……はずだ。

 だから、というわけではないが、睦月は手っ取り早く用件を切りだした。


「スキルを譲渡しなさい。

 そうすれば、この場は見逃してあげる」

 そういって睦月は、再びスキル『マックススピード』を機動し、その状態のままスキル『ジャック・ザ・リッパー』の刃を出現させて二人に浅く切りつける。


 渡来の頬に浅い切り傷ができ、琉河のワイシャツの胸元がぱっくりと裂けた。

 そして、睦月がスキル『マックススピード』を解除するのと同時に、その琉河の胸元で小爆発が起こる。


 ──やはり、スキル『トラップメイカー』か。

 そりゃあ、自衛のための備えはするよね。

 と、睦月は冷静に考えた。


 その爆発に驚いた渡来が、「ひっ!」という悲鳴をあげて琉河から離れた。

 そうしている間にも、琉河と渡来の体温はどんどん失われている。

 今や二人の目はうつろであった。

 急激な体温の低下によって、正常な判断力が失われている状態だ。

 凍死するときは、なぜだか眠くなるというアレである。


 睦月は、これ以上この二人が抵抗することもないだろうと判断し、スキル『アイスエイジ』を一旦解除することにした。


「あなたたちは凍死しかかっている」

 睦月は、冷静な口調でそう説明する。

「選択肢は、みっつ。

 一、わたしにスキルを譲渡する。

 二、このまま凍死する。

 三、この場で斬殺される……」


 琉河秀夫と渡来治樹は、結局スキル譲渡画面を表示させてそのまま気を失った。


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