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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
五日目。
100/109

06-21 敗者たちの足掻き。その二。

 ときを少し遡る。


「居たか?」

「いや、こっちには居ない!」

「下駄箱にはまだ靴が残っていた!

 まだやつは校内に残っているはずだ!」

「なんとしてでも捕まえるぞっ!」


 廊下でそんなことをいい合っているのは、琉河秀夫と渡来治樹の二人。

 たまたま通りかかった無関係の生徒たちは、その二人が一年D組の生徒であると気づくと足早に遠ざかるか、それとも生温かい視線で見守るかのどちらかっだった。

 一年D組の生徒たちが例のゲームのせいでかなり傍迷惑な存在と化していることは、学校中の関係者と、それに市内の一部の人々に知れ渡っている。

 一年D組の生徒たち同士の抗争に運悪く巻き込まれてしまったらただでは済まないことの方が多いわけだが、だからといってその災厄を未然に防ぐことは事実上不可能だった。

 彼ら、一年D組の生徒たちを見かけたら逃げる……という手がないわけでもないが、これも、相手の姿を確認する前に巻き添えになることまで、完全に防げるわけではない。

 このゲームが終わるまで、一年D組の生徒たちからはできるだけ距離を置き、あとは運を天に任せる……くらいしか対処法がなかった。


 そんなわけで、スキル『臥薪嘗胆』の持ち主である須賀泰司の姿を求めて校内をさまよい悪いている琉河と渡来の二名は、誰からも見咎められることなく小一時間ほど放置されている。

 その間、一年D組の生徒のみに伝えられる例のアナウンスによって、西城沙名ら数名の女子生徒たちが複数のスキルを入手したことも確認した。

 そのアナウンスの内容を考慮すると、どうも、同じスキルを複数人に分け与えている……としか考えられない事態が起こったようだ。

 おそらく、須賀のスキル『臥薪嘗胆』の働きによるものだろう。

 少なくとも、これまではアナウンスされたことがなかった、はじめての現象であることは確かだった。


 そのこともあって、琉河と渡来の二人は血眼になって須賀の姿を求めていた。

 須賀のスキルがあれば、もともと持っていたスキルを復活させるだけではなく、他人のスキルを増殖させて所持することもできる……可能性さえ、ある。

 勢い、真剣にもなろうというものである。


 そんな二人の様子を見て、同じ一年D組の生徒たちは冷淡な反応を示した。

「スキルを奪われたのなら、そのまま大人しくしていりゃいいのに」

 帰りがけに、彼ら二人にそう声をかけてきたのは新堂零時であった。

「そうすりゃ、少なくとも大怪我したりそれ以上の酷い目にあうことはないんだぞ」

 瀬川太郎、眞鍋伸吾……それに、林道鈴。

 このゲームのせいで悲惨な目にあった生徒は居るのだ。

 特に最後の林道鈴にいたっては、多くの同級生の目前で災禍にあったばかりであり、多くの生徒にとっては記憶に新しい……はずだ。

 新堂にいわせれば、すでにこのゲームから解放されている身で、自分の意志でゲームに復帰しようとするこの二人の気持ちが理解できない。


「お前はそういうがな、新堂!」

 渡来治樹は、そう吼えた。

「奪われたスキルが、あとでかなり使えるもんだったと判明するのはかなり口惜しいもんだぞっ!」

 渡来が持っていたスキル『シーフ』は、林道鈴が使い出した途端、ごく短い間に多くのスキルを奪う実績を見せつけていた。

 渡来にしてみれば、

「自分が使いこなしてさえいれば……」

 という思いがあるのだろう。

「そうだそうだっ!」

 琉河秀夫も、渡来の意見に賛同する。

「おれはなあ!

 このままやられっぱなしの被害者のままで終わるのがいやなんだっ!」

 スキル『トラップメイカー』の所持者であった琉河は、ゲーム開始二日目で大勢の生徒たちに追いつめられ、その結果スキルを手放している。

 その『トラップメイカー』は、なぜか新堂に預けられているわけだが……。

「だって、お前……」

 新堂は冷静に指摘した。

「……お前のスキルが取りあげられたのは、元はといえば、お前が『トラップメイカー』を使って無差別に攻撃をしようとしたからじゃあないか」

 あまりにも危険、かつ迷惑であるから……という理由で結託した有志生徒たちによって追いつめられた形である。

「確かに、おれのやり方が浅はかだった!」

 琉河は、叫んだ。

「よくよく考えてみれば、あれでは敵を増やすばっかりだ!

 だからこそ、今度はもっとうまくやり直したいんだよっ!」


「……へぇー……」

 二人の意気込みを前にして、新堂は半眼になった。

「まあ、考え方もいろいろだしな……。

 せいぜい、頑張れや」

 このゲームの存在自体を忌々しく思っている新堂にしてみれば、スキルを失ってもなおこのゲームに固持するこの二人の思考はまるで理解不能であった。

 かといって、自分が思うところに従って二人の考え方を改めさせる……というほど、新堂も暇ではない。

 誰にでも、自分の意志で破滅する権利はあるしな。

 とか、新堂は思った。

 結局のところ、所詮、他人事なのであった。

 

「なあ、矢尻くん」

 同じ頃、叶治郎は矢尻知道に声をかけている。

「君なら、わかるよねえ。

 須賀の居場所」

 矢尻は、スキル『ファイブセンス』を持っている。

 もう一人の『ファイブセンス』の所持者である睦月庵は、現在林道の件で大人たちに囲まれて事情聴取中だった。

 黒森永遠の『フェアリーテイル』や芦辺素直の『自動筆記』の具体的な機能について、この時点ではまだ大多数の生徒たちには知れていない。

 そのてめ、叶は、『ファイブセンス』の他に、須賀の現在地を特定できそうなスキルに心当たりがなかった。

 除去法で、頼るべきあてが矢尻のみとなる。

「わかるといえば、わかるけど……」

 声をかけられた矢尻は、言葉を濁した。

「ああ。

 そう、おびえる必要もないよ」

 叶は、矢尻の顔色を読んでそういった。

「別に君にどうこうするつもりはない。

 仮にするつもりがあったにせよ、それがうまくいくとも思わない。

 君のスキル『バリヤー』は、物理攻撃には強いからね。

 今のぼくには、とうていどうすることもできない。

 だから、これは……」

 あくまで、お願いだ。

 と、叶はいった。

「別に拒否して貰っても構わないけど、須賀の居場所を教えて貰えたら恩に切る」


 実のところ、叶は、このゲームに対してはあまり本気ではなかった。

 スキル『リヴェンジャー』の力を利用して苦汁を飲まされていた義兄に報復する……という、叶にとっての第一の目的はすでに果たしている。

 あとの部分は、叶にしてみればボーナスステージみたいなもので……純粋にどこまで勝ち抜けるのか、ゲームとして楽しんでいる部分があった。

 あるいは、一年D組の生徒全体の中で、この叶治郎が一番このゲームを純粋に満喫しているのかも知れない。

 とにかく、叶は、「この場で矢尻が協力してくれるか否か」も含めてゲームであると考えている。

 こうした偶然や運によって左右される要素も、優れたゲームには欠かせないからだ。

 しかし、叶が返答を強要しようとしなかった態度が幸いしたのか……。


「須賀くんは、今、この校舎の、一階南側、男子トイレ個室にいる」


 ……矢尻は、あっさりと叶に教えた。

 あるいは矢尻は、変に返答を渋って叶のような存在に粘着されることを単純に避けたかっただけなのかも知れないが。 


「そうか。

 ありがとう!」

 叶は矢尻に礼をいって、やけに爽やかな笑顔を浮かべたあと、自分の鞄を手に教室を去っていった。

「お礼に、ゲーム中に一度は矢尻くんを助けるよ!」


 この校舎の、一階南側、男子トイレ。

「すっがくぅーん!」

 ……まで移動した叶は、唯一使用中だった個室の前で大声を張りあげた。

「無駄な抵抗を止めて出てきなさぁーい!

 出てこないと……その個室の壁を、破壊しちゃうぞ!」

 そういって叶は、スキル『ランサー』の機能により十字槍を実体化。

 それを大きく頭上に掲げて振りかぶった。


「……おまっ!」

 すぐに、個室の中から須賀の慌てた声が聞こえる。

「待て待て!

 出て行くから!

 はやまったまねはするな!」

 その言葉通り、須賀がすぐに個室の中から姿を現した。

「叶、お前、ときどき思い切ったことをするからな……」

 額に浮かべた冷や汗を拭いながら、須賀はそうぼやいた。

「こんななんでもないことで怪我をしても割に合わない。

 ……それで、なんのようだ?

 叶、お前、今スキルをふたつ持っているはずだろう」

 そういう人間にとって、須賀のスキル『臥薪嘗胆』は意味がない……はずだった。

「さっきの、同じスキルを複数の人間にわけていたろう?」

 十字槍の柄を肩に乗せた叶は、そう訊ねた。

「まずはその仕掛けを説明して貰いたいな」


「ちょっと待ったぁ!」

 とかいいながら、琉河秀夫と渡来治樹の二人が男子トイレに突入してきた。

「その理屈は、おれも聞きたい!」

「それ以前に、おれのスキルを復活して欲しい!」

 口々にそんなことをいいながら、二人は須賀に詰め寄る。


「まあ、待ちなって、二人とも」

 叶はそういって、十字槍の穂先を見せつけた。

「まずは、須賀の説明を聞いてからだ」


 スキルは、『臥薪嘗胆』しか持っていない須賀。

 スキルを喪失している、琉河と渡来。


 この場には、叶に逆らえる人間はいなかった。


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