02-05 黒森永遠、スキル『フェアリーテイル』
一日目のテストプレイ中のことである。
黒森永遠は自分に与えられたスキル『フェアリーテイル』の性質を把握するとその場で発動させ、とりあえず最初はしぶとそうな三峰刹那に「不可視の妖精」を張りつけることにした。
【
スキル:
フェアリーテイル Lv.1 ◇特殊系
『見えない妖精が現れ、感情移入した相手にまとわりつきはじめる。
好意を持つ相手には加護を、悪意を持つ相手には呪いを。
レベルアップするごとに妖精の数は増える』
】
黒森のスキル『フェアリーテイル』は不可視の妖精を張りつけた相手に運や不運をもたらすだけではなく、その妖精が見聞したことをスキルユーザーである黒森も知ることができるという特徴があった。実際にスキルのユーザーになってみないとわからない、スキルの説明文には表示されていない隠れた情報だった。
スキル『フェアリーテイル』は特殊系だけあって一撃で敵を沈めるような攻撃方法こそ持たなかったが、情報収集という点ではかなり優れたスキルであると黒森は思う。
なにより、人知れず不特定多数の情報源を持つことができるというのは大きな利点だ。
黒森がそんなことを思っている間にもテストプレイは白熱していく。
田所という男子生徒が倒されて、有坂という男子生徒が一人、逃げ腰になっている大半の生徒たちを尻目にスキル『エアタンク』を持つ三峰刹那の方にむかっていった。
その頃には黒森のスキル『フェアリーテイル』のレベルも二にあがっていたので、黒森はもう一体の不可視の妖精を出現させて有坂につけることにした。
そして、三峰に不運を、有坂に幸運を呼ぶよう、強く意識する。
幸いなことに、スキル『フェアリーテイル』は一度弾みがつけばレベルがあがりやすいスキルだった。一定時間、不可視の妖精を出現させておけばレベルアップするのだが、一度に二体の妖精を出しておけば経験値の蓄積も二倍となる。低いレベルよりも高いレベルの方がレベルアップに必要な経験値は多くなるわけだが、それでも妖精が一体増えるごとに経験値の増え方も大きくなるので、不可視の妖精は継続して出せるだけ出しておいた方が得だった。
もちろん、出すだけではなく出した上で使うわけだが。
黒森はテストプレイで活躍した三峰刹那、有坂誠、田所一、西城沙奈、辺見洋子、夢川明日夢、奥地八枝、内膳英知だけではなく、スキル『スカウター』のユーザーである頼衣珠世とその相談役である新藤零時にも不可視の妖精をつけた。それ以外にも、個人的に気にかかる生徒何人かにも妖精をつけたところで、テストプレイの時間が終了する。
つまりは、ごく短時間のうちに黒森のスキル『フェアリーテイル』のレベルがそれだけあがったということだった。テストプレイ終了時、スキル『フェアリーテイル』のレベルは十六にまであがっていた。
雑然とした教室をこっそり抜け出してからも十六体以上の妖精は出しっぱなしであり、スキル『フェアリーテイル』のレベルはあがり続け、ユーザーである黒森に監視対象の情報を送信し続けた。都合のよいことに、不可視の妖精と黒森との距離がいくら開いても、途中に遮蔽物があっても、通信は途絶えないらしかった。それから、方っておいてもレベルはあがっていったので、黒森はレベルアップするごとに不可視の妖精をクラスメイトの誰かに割り振るのだが、その際にも距離は関係なく、監視対象がどこにいようとも不可視の妖精は指定した者のすぐそばに出現してそのまま張りつくらしかった。
特殊系に分類されるスキルの中には、この『フェアリーテイル』と同様に情報収集能力に秀でたスキルがおそらく何種類か存在するのだろうが、一度監視対象を指定すればほぼ自動で、半永久的に相手に対する情報をユーザーに送信し続けるこのスキルほど手間がかからないものはないののではないか、と、黒森は思い、自分の引きの強さに感謝したくなった。
あとは収集した情報を整理し、誰から順番に片づければいいのかを熟考し、実行に移せばいいだけだ。
黒森永遠は成果を焦るつもりは毛頭なかった。なにしろスキル『フェアリーテイル』は優秀なものの、戦闘むきのスキルではない。黒森自身も、女子の中でもかなり背が小さい方だし体重も軽い。運動神経だって、自慢ではないがいい方ではない。
一言でいって、正面からこのゲームに参加するのには不利な条件が揃いすぎていた。
それよりは少し時間をおいて多くの対戦候補を観察し、弱点を見極め、お互いに争って消耗した隙を狙ってピンポイントで攻める方法でしか勝機というものがみえなかった。
ゲームの進行速度を見ながら調整するつもりではあったが、最初の二、三日は様子見をして直接的に干渉しないようにしよう、と、黒森は思う。
黒森は学校から徒歩五分ほどの距離にある青藍寮へ直行し、そのまま自分の部屋へとむかう。この学生寮は市立倉石高校の創設以来の伝統を誇るそうで、なるほど古びた建物ではあったがそれなりに快適な環境ではあった。門限もあり、朝晩の食事も食堂で配膳されるが、事前に申請すれば学生側の事情にも柔軟に対処してくれる。
古くからこの地方の名門校とされている市立倉石高校は部活動にも力を入れていて、朝早くから夜遅くまで寮を留守にする生徒は少なくなかった。というか、この寮の利用者の大半が、その部活動を目当てに遠い自宅からわざわざ倉石高校を受験してきた生徒たちで占められている。融通を利かせるのも当然のことといえた。
寮生たちが寝る時間や起き出す時間もバラバラだったから、最低限の規則さえ守っていれば他の生徒に干渉しようとする者はいなかった。管理人の夫婦が市に雇用する形で住み込んでいるのだが、こちらの方も機械的に出入りをチェックするだけであり、寮生に対してうるさいことをいうことはなかった。
ちなみに黒森自身は家庭の事情によりこの寮を利用している。
父親が海外に転勤になり、「ちょうどこの寮があるから」という理由でこの高校を受験し、永遠自身だけが日本に残る形で、母親も父親と一緒に渡米した。ひょっとしたら、内向的で友達が少ない永遠を案じてそれまでとは変わった環境へ放り込んでみたのかも知れなかったが、その永遠といえばまだ同室の生徒とも必要最低限の会話しかしなていない有様だった。
そんなわけで、この寮の利用者は年々減っていく一方だそうだが、それでも現在、三学年で男女五十余名の学生がこの寮に寝起きしている。
寝起きをしている、というだけであって、寮生同士の紐帯とかは限りなく薄い。少なくとも、黒森自身の周辺においては。
だから、黒森もかなり自由に行動することが可能だった。
自室に入った黒森はノートパソコンを立ちあげてネットに接続し、スキルからは得られない情報を検索しはじめる。市外から受験した黒森は地元民である他の生徒たちが知っている知識を持っていないことが多かった。
まず、以前、小耳に挟んだ噂をこの機会に検証してみることにした。
市議会議員の三峰智紀が同級生の三峰刹那の実の父親である、という噂。
いや、噂というというよりも、地元民には自明視するほど当然の情報なのかも知れなかったが、少なくとも黒森にとっては検証してみなければ正誤の判断がつかないのだった。
「倉石市 市議 三峰」とか「倉石市 三峰家」とかのキーワードで検索すると、知りたい情報は簡単に確認できた。むしろネット上でさえ、三峰家の情報は多すぎるくらいだ。地元の豪農、というやつだろうか、三峰の家はかなり古くからあるらしい。今でもかなりの資産を持っているらしいし、そこの一人息子である刹那は旧家の御曹司ということになる。
その刹那が小学校のときに文部科学省大臣賞を貰った読書感想文とか、中学のとき、剣道の個人戦で県大会に優勝したときの記録とかもヒットした。三峰刹那は親の七光りというだけではなく、昔からそれなりに優秀な子どもであったらしい。黒森自身は、そんな刹那にあまり興味は持てなかったが。
それから、黒森はふと気になって、「三峰 戦車」というキーワードを検索してみた。
先ほどまでとはうって変わり、ヒット数は一気に激減したのだが、何件か気になる情報が引っかかった。
三峰春惟という人物が、第二次大戦中に戦車兵をしていたらしかった。出身地も、この地方で間違いない。
この人物が実際に三峰刹那と関係しているのかどうかまでは、わからなかったが。仮に関係していたとしても、刹那とは四世代から五世代以上も隔たった年齢のはずである。
これは、今回のゲームには関係なさそうだな、とは思うものの、黒森はなんとなく引っかかるものを感じていた。
三峰刹那のスキルが『エアタンク』であることは、果たして偶然なのだろうか?
あとでなにかの役に立つかも知れなかったので、黒森はメモ帳を立ちあげてその情報をコピペし、外出先でもその情報を参照できるように、自分のスマホのメアドにも同じ情報を送信しておいた。
続いて黒森は「デリンジャー」という単語を検索する。
内膳英知のスキルがそういう名前であったことを、漏れ聞いた断片的な会話から知っていたからだ。
その「デリンジャー」とは、小さな護身拳銃の総称らしかった。最初は特定の拳銃を指した名称だったようだが、のちに他社も同じようなコンセプトの拳銃を開発してそれに「デリンジャー」という名称をかぶせた。
ややこしいことに、「デリンジャー」という小型拳銃はメーカーをまたいで何種類か発売されているらしい。
だが、一般には、「手が小さな女性でも扱える、小さくて反動が少ない護身拳銃」の代名詞のようにいわれているらしかった。当然のことながら、一般的な拳銃と比較すると殺傷能力には劣るようだ。
黒森が調べ物をしている間にも、黒森が放った不可視の妖精たちは膨大な情報を黒森に送り続けている。黒森はそれらの中から重要だと思える部分だけを抜粋してメモ帳に書き込み、自分のスマホのメアドへへと送信した。
今のところ、この情報収集能力こそが黒森永遠の一番の武器なのである。
そんなことをしている間に、
《瀬川太郎のスキル『見取り稽古』が????に奪取されました。》
というアナウンスが黒森の頭の中に響いた。




