私の召使いが生意気よ!
「お嬢様、掃除をするので、そこを退いてください」
部屋の椅子でくつろいでいると、近くから素っ気ない声が飛んできた。
掃除用のハタキは遠慮なくこちらへ向けられ、それを握る少女の表情も実に無愛想だ。
「はあ? お前、誰に向かって命令しているのよ」
「命令ではなく、お願いをしています」
鋭く睨みつけても、レイミは涼しい顔で受け流す。
彼女は、体調を崩したサラに代わって、新しく専属となった召使いだ。
「お嬢様がそこを退いてくださらないと、掃除が捗りません。部屋が汚れたままでもよろしいのですか?」
「……分かったわよ」
促されるまま椅子から立ち上がり、部屋の隅へ移動する。
無愛想な表情に、少し高めの冷たい声。
私の牽制にも怯まず、自分の意見をはっきり口にする性格は、従順だったサラとは正反対だった。
平民のくせに私へ意見するなど無礼極まりない。
だが、着任した日に言われた言葉が、今でも頭から離れなかった。
「お嬢様。することがないのでしたら、領主としての勉強をなさってはいかがですか?」
「嫌よ。勉強は嫌いだもの」
「そのようなことを仰っていては、いずれ領地は立ち行かなくなりますよ?」
「うるさいわね! お前には関係ないでしょ!」
ここ数日、こんなやり取りばかりだった。
反抗的な態度に、生意気な物言い。こんな召使いは初めてだ。
主人は私のはずなのに、気づけば主導権はいつもレイミに握られているような気さえする。
当然、こんな無礼な召使いを折檻しようと思った。
けれど、どうしてもできなかった。
振り上げた手は途中で止まり、そのたびに頭へ浮かぶのはサラの顔だった。
……何なのよ。
どうして、いつもサラの顔を思い出すのよ。
あの苦しそうな表情が、頭から離れない。
何度も自問自答を繰り返すたび、レイミの言葉が脳裏によみがえる。
――『私はサラのように甘くはありません』




