私は二人を私の侍女にすることにしたわ!
突拍子もない発言に、レイミとサラは顔を見合わせた。
「……お嬢様」
「何?」
「専属侍女は"専属"です」
「それが何よ」
「つまり、一人だから専属なのです」
「……あ」
アンジェリカの笑顔がぴたりと固まる。
「じ、じゃあ特別に二人にすればいいのよ!」
「前例がございません」
「今日から前例を作ればいいじゃない!」
「公爵家の制度を、お嬢様の思いつきだけで変えるわけにはいきません」
「うっ……」
即座に返され、アンジェリカは言葉を詰まらせた。そして腕を組み、「うーん」と唸る。
「だったら……主席専属侍女と、副専属侍女!」
「役職が増えております」
「じゃあ第一専属侍女と第二専属侍女!」
「数字を付けても同じです」
「専属侍女Aと専属侍女B!」
「書類仕事が増えるだけです」
「なんでよぉ!」
次々と却下され、アンジェリカは机へ突っ伏した。
その姿に、サラは思わず笑みをこぼす。
「ふふっ。お嬢様らしいお考えですね」
「ええ、とてもお嬢様らしいです」
「笑い事じゃないわ!」
アンジェリカは勢いよく顔を上げた。
「だって、本当に二人とも必要なんだもの……」
それは紛れもない本心だった。
アンジェリカは二人の手を、そっと握る。
「レイミはいつも私を叱って、助けてくれる。サラはずっと昔から私の傍にいてくれた。 どっちか一人なんて……選べないわ」
「……お嬢様」
二人は静かに目を合わせた。
やがて、サラが穏やかに口を開く。
「私は専属侍女じゃなくてもいいんです。同じ侍女として、お嬢様を支えられれば、それで十分ですから」
「でも……」
「それに」
サラは悪戯っぽく笑った。
「今のお嬢様のお世話は、少し大変そうですもの」
「え?」
アンジェリカが目を丸くする。
「昔のお嬢様ならともかく、今は毎日のように新しいことを始めるでしょう?」
「そうね」
レイミも静かに頷いた。
「朝は寝坊したかと思えば、朝食も食べずに使用人棟へ走って行く。かと思えば、急に『勉強する!』とか言い出すし……」
「昨日なんて、庭師さんと一緒に花まで植えていたわよね」
「その前は、厨房で料理人と柔らかいパンについて話し込んでいたわ」
「そうそう」
二人は顔を見合わせて笑う。
アンジェリカだけが、きょとんと首を傾げていた。
「わたし、そんなに動いてる?」
「十分動いております、お嬢様」
「自覚がないところも、お嬢様らしいわ」
「お、お前たち! もっと主人に遠慮しなさいよ! レイミはともかく、サラまでそんなことを言うようになったの!?」
頬を膨らませるアンジェリカ。その拗ねた様子がおかしくて、サラとレイミは思わず吹き出した。
部屋に穏やかな笑い声が広がる。
笑いが収まると、レイミは改めてサラを見つめた。
「……本当に、いいの?」
「もちろん。専属侍女は、レイミが相応しいわ」
サラは静かに頷き、アンジェリカへ微笑みかける。
「私はこれまでどおり、お嬢様のお力になります」
「それって……」
「はい。専属にはなれませんが、よろしければ、お嬢様付きの侍女としてお仕えさせてください」
アンジェリカの表情がぱっと明るくなる。
「もちろんよ! これで決まりね!」
ぱん、と手を叩く。
「レイミは専属侍女!」
「はい」
「そしてサラも、これからもずっと私の侍女よ!」
「もちろんです」
満足そうに頷くアンジェリカ。
「これで安心だわ!」
その笑顔につられるように、サラとレイミも自然と笑みを浮かべた。
二人は揃って一礼する。
「これからも、よろしくお願いいたします、お嬢様」
「よろしくお願いします、アンジェリカお嬢様」
「ええ! 二人とも、これからも私について来なさい!」
胸を張って宣言するアンジェリカ。
こうしてレーベル公爵家では、レイミが専属侍女を務め、サラはお嬢様付きの侍女として共にアンジェリカを支えることになった。
三人の新たな日常は、笑顔とともに静かに始まるのだった。




