私は良いことを思いついたわ!
静まり返る部屋。
レイミの言葉は、アンジェリカの胸に深く突き刺さっていた。
「……そんなの嫌よ」
返ってきたその一言に、レイミはきょとんと目を瞬かせた。
「お嬢様?」
「うるさいうるさい! 嫌ったら嫌よ!」
アンジェリカはむっと頬を膨らませる。その姿は、最近ようやく落ち着き始めていた昔の癇癪を思わせた。
「ですが、お嬢様」
「だって! レイミがいなくなったら、誰がお茶を淹れてくれるのよ!」
「……そこですか?」
レイミは思わず苦笑する。
「次からはサラが淹れてくれます」
「お出掛けの準備だってあるじゃない!」
「それもサラが引き継ぎます」
アンジェリカは指を折りながら理由を並べるが、そのたびにレイミは淡々と返していく。
やがて、アンジェリカは口を閉ざし、ふいに視線を落とした。
「……確かに、お前は侍女のくせに生意気よ。主人の私に小言を言ってくるし、『勉強しなさい』って毎日のようにうるさいし……」
「私は愚痴を言われているのですか?」
「違うわよ!」
アンジェリカが言葉を切ると、ぎゅっと小さな拳を握りしめ、小さく続けた。
「でもね……レイミがいないと、なんだか落ち着かないの」
「お嬢様……」
その一言に、レイミの瞳がわずかに揺れる。
アンジェリカは俯いたまま顔を上げないが、その肩は、小さく震えていた。
そんな二人を見つめていたサラが、穏やかに微笑む。
「レイミ。専属侍女は、あなたが続けて差し上げて」
「サラ……?」
レイミが驚いて振り返る。
「私が療養していた間、お嬢様を一番近くで支えてきたのはレイミでしょう?」
「それは、代理を務めていただけで……」
「代理だったとしても、お嬢様の信頼を得たのは事実よ」
サラは優しく微笑んだ。
「お嬢様は、もうあなたを頼りにしているわ」
「……」
アンジェリカがここまで変われたのは、レイミが誰よりも近くで支え続けてきたから。サラはそう信じて疑わなかった。
そのとき、不意にアンジェリカがぽんっと手を叩く。
「そうだわ! 二人とも専属侍女になればいいのよ! それで全て解決するじゃない!」
しん、と部屋の空気が止まる。
唯一、アンジェリカの瞳だけが輝いていた。




