私はお祖父様が大好き!
煌めく壁飾りに磨き抜かれた大理石の床。文字通り豪華絢爛な内装は、広大な敷地に立つ豪邸の外観に釣り合っている。
アンジェリカの生家であるレーベル家は、セイクリッド帝国内でも指折りの名家と評されており、皇家に連なる権威を振るっては、巨額の富を築き上げてきた。
お気に入りのぬいぐるみから始まり、綺麗な宝石に豪華なドレス。欲しい物は何でも強請ってきた。手に入らないものなどない。両親も私を咎めることはなく、それが当たり前と化すのに時間は掛からなかった。
しかし、そんな当たり前も続けば、やがては飽きがやってくる。
そこで両親に新しく強請ったのが、自分専用の召使いだった。
貴族が国を構成する貴族社会では、爵位も持たない血縁は何の実権も持たない。サラはそんな平民の一人だ。どうせ逆らえやしないのだから、と乱暴に扱っているうちに、次第と優越感に浸るのが快感になっていった。
「次はどうやって虐めてやろうかしら」
身の回りの世話から家事全般。最近では料理の真似事もやらせている。
その方が面白いからだ。退屈を埋める玩具。その程度の認識でしかない。
「おお、姫よ。今日も可憐じゃな」
ご機嫌な様子で声を掛けてきたのは、長い髭を蓄えた大柄の男性だった。
「お祖父様!」
彼の姿を見るや、アンジェリカが笑顔で駆け寄る。その振る舞いは、先ほど召使いを虐待していた者と同一人物には見えない。
オリヴァー・レーベル。その昔、都を強襲した賊を打ち払う功績を挙げて、代々続くレーベル家を名家へと発展させた立役者である。
「こんなところで会うなんて奇遇じゃな。お茶会は終わったのか?」
「気分が萎えたから止めちゃったわ。あんな不味い紅茶じゃ、優雅な気持ちに浸れないもの」
「なんと...姫にそんな不味い紅茶を飲ませるとは不届きな輩じゃ。儂が直々に懲罰を与えてやろう」
オリヴァーが顔に怒りを滲ませる。彼は昔から孫娘には特に甘く、両親以上に寵愛を注いできた。何でも望みは叶えてくれて、まるで自分の事のように怒ってくれる祖父の事がアンジェリカは大好きだった。
「ありがとうお祖父様。でも、お祖父様が本気で懲罰を与えたら、私の召使いが死んでしまうわ」
それは困る。サラには今後も遊び相手になってもらわなくては。
最近はだんだんと元気がなくなってきているが、私の役に立てない事を悔やんでいるのだろう。早いところ私に相応しい玩具になって欲しいものだ。
「仮に死んでしまっても、また新しい召使いを用意すれば良いじゃろう?」
「んー...それもいいけど、お父様に迷惑が掛かるのは嫌だもの」
「おおー、姫はなんと優しい子なんじゃ。何か困った事があったら、遠慮なく儂に言うんじゃぞ」
「ええ、お祖父様!」
──流石はお祖父様! いつだって私の力になってくれる。
私はお祖父様が大好き!




