私はアンジェリカ!
「不味い!」
とある茶会。美しく咲き誇る庭園で、ティーカップが音を立てて割れた。
「この私にこんな不味い紅茶を飲ませるなんて...良い度胸ね」
「も、申し訳ありません、お嬢様! 」
手慣れた手付きで、地面に散らばる欠片を拾い集める使用人。一口だけ飲まれた紅茶は甘美な香りだけを残し、粗のない土に塗れた。
その光景を煩わしそうに眺める美少女──。
名をアンジェリカという。
父親譲りの灰色の瞳に、母親譲りの端正な顔立ち。
二つに結われた黒髪は愛らしい印象を与えるが、高級なドレスに身を包む姿は大人顔負けの存在感を醸し出している。
「全く、お父様はどうしてこんな使えない召使いを寄越したのかしら」
「......」
「お前に言ってるのよ? サラ」
「...申し訳ありません」
蔑んだ瞳で見下す主人にサラが頭を下げる。
黒色を基調としたメイド服は格式の高い王道の装いをしているが、エプロンを握る指先は小刻みに震えている。
「す、すぐに新しい紅茶をご用意致しますので」
「もういいわ。そんな気分じゃなくなったもの。部屋に戻るから、お前は後片付けをやっておきなさい」
「...承知致しました」
本日、何度目かの命令をサラに下すと、アンジェリカが庭園を去っていく。
その小さな背中を見つめる使用人の顔には、嫌悪感よりも恐れの方が表れていた。
──私はアンジェリカ・レーベル!偉大なるレーベル公爵家の孫娘よ!
愚民共はひれ伏しなさい!




