私は退屈よ!
「退屈ね」
新調したばかりのソファーに腰を預けながら、アンジェリカは溜息を吐いた。
彼女が跡取り教育を拒否して今日で約半年──。両親と祖父にも特に咎められる事なく、自由を満喫する権利を与えられている彼女は、代わり映えのない日々にヤキモキしていた。
「何か面白い事でもないかしら」
ここには甘いキャンディーも魔法の羽も全て揃っている。
だが、それでも足りない。特別も当たり前となれば、特別ではなくなってしまうのだ。
「サラ。お前は何か良いアイデアはないの?」
主人に声を掛けられて、サラが肩を上下させる。エプロンを握る指先は皸を起こしており、日頃の過酷な生活が垣間見えるが、アンジェリカがその事に興味を抱く筈もない。
「...り、領地の視察などはいかがでしょうか?」
「領地の視察?」
アンジェリカは生まれた時から領地の一部を与えられていた。孫を寵愛するオリヴァーの案である。
当然、跡取り教育を放棄しているアンジェリカ自身には、領地経営の知識など持ち合わせていないが、両親が手配した文官が代理で管理を行っていた。
言われてみれば、もう長いこと領地には行っていない。定期的に邸を訪れる文官を通じて、税と一緒に、大して興味もない特産品を受け取る程度の認識だ。
「ま、たまには出向いてやるのも良いかもしれないわね」
「は、はい...!お嬢様に顔を出して頂ければ、きっと領民の皆さんも喜ぶと思います」
「お前はバカなの?」
「えっ?」
アンジェリカは腕を組んだまま、いつものようにほくそ笑む。
「領民の気持ちなんて知ったことないわよ。重要なのは私の退屈がしのげるかどうかよ」
「....失礼致しました」
「分かったら、さっさと馬車の用意をなさい」
「承知致しました」
──この私がわざわざ出向いてやるんだもの。愚民共は光栄に思うことね!




