私のストレスが溜まっていくわ!
レイミの言葉どおり、屋敷から召使いたちの姿はほとんど消えていた。
広々とした廊下には高価な調度品だけが並び、人の気配はない。
静まり返った屋敷は、どこか物寂しい雰囲気を漂わせていた。
「まったく……やはり平民は駄目だな。今後は貴族出身の使用人を採用せねば」
そう口にするお祖父様だったが、レーベル家の生活が大きく乱れるほどではない。
多少、身の回りの世話が行き届かなくなった程度で、お祖父様も、お父様も、お母様も、それほど気にしている様子はなかった。
──問題なのは、私だった。
「お嬢様。本日の朝食はパンとスープになります」
「……またなの?」
レイミが運んできた朝食へ目を落とす。
焼きたてのパンは柔らかく、ほんのりとバターの香りが漂う。
スープも灰汁のない澄んだ出汁が取られており、十分に美味しそうだった。
朝食としては申し分ない。
けれど、アンジェリカにとっては質素にしか思えなかった。
「ステーキが食べたいわ」
脂の乗った肉厚のステーキ。食後には苺のショートケーキ。
それが彼女の大好物だった。
「朝からそのような贅沢はできません。さすがに無茶が過ぎます」
「でも、お父様たちは今までどおりの食事をしているじゃない」
「旦那様方のお食事は優先して用意しておりますので。屋敷の主人方に粗相はできませんから」
レイミは、さも当然のように言った。
腹立たしくはあったが、その理屈は理解できなくもない。
「私は、お前の主人よ……? そんな生意気な口を利いて、どうなるか分かっているの?」
「解雇なさいますか? ご自由にどうぞ。困るのは、お嬢様の方です」
「……お祖父様に言いつけてやる」
「ご随意に」
脅しをかけても、レイミはまったく動じない。
あの日以来、ずっとこの調子だった。
実は先日、お父様へ召使いたちの件を訴えた。
だが返ってきたのは、「新しい使用人を雇うまでは我慢してほしい」という言葉だけだった。今は私の領地に関する手続きで手一杯らしい。
先日の議会では、税率の引き上げに対して多くの貴族から反対意見が出たと聞いている。
この私に我慢を強いるなんて、本来なら腹立たしい話だ。
それでも、お父様は私のために動いてくれている。
そう思うと、強く不満をぶつけることはできなかった。
皿の上のパンを一つ手に取り、口へ運ぶ。
……バターの味が、まったくしなかった。




