琵琶牧々
付喪神。長い年月を経た道具や物は、いつしか想いを持って動き出すことがある。大切に使われなかったものが憎しみを抱き人を惑わすこともあれば、反対に大切に使われたものが人を助けもするだろう。ものも、人と同じように生きている。普段、ものはものとしての役割に徹するが、そうでないものもいるだけだ。人間は一人では生きてゆけない。多くのものに助けられて生きるのだ。
少女が手を引く。つられて足を進める。人ならざるものたちの喧騒を過ぎ越しつつ。
恐ろしい顔の鳥が頭上で鳴いている、石が涙を流して泣く声が聞こえる。歩いている鬼に目を付けられないように息を殺し、屋台に腰を据える人を見て微かに安堵するが、顔がないのに気づいてすぐに目をそらす。名も知らぬ白髪の少女に連れられて歩いている道は、とても落ち着くことはできなかった。少女は怯えもせずに歩みを進めるので、声をかけるが、ちらりとこちらを見るだけで、返事はない。青年は怯えながらも、すらりとしたその手を離さないように強く握った。
「ね…ねえ、どうして君は平気なの?化け物が沢山いるのに。」
「住めば都っていうじゃない?それにこういう明るい通りにいる妖は、襲ってきたりしないわよ?」
「襲ってくることもあるってことじゃん!それって。」
「ま、暗がりに入って襲われないよう気を付けることね。」
「明るいところにいるようにするよ…暗いのは怖いし。住めば都って言ったけど、君はここに住んでるの?」
「いいえ?家があるわけでもないわ。でも、長いこといるから。」
「長いことって、どれくらい?」
そう話していたとき、何かの音色が聞こえた。
「何の音だろう…?君はわかる?」
「そうね…今のは…」
「琵琶じゃよ。琵琶」
頭が琵琶の奇妙な妖がそう言う。
「最近の若者にはわからんかの~この音色の良さ。楽器も沢山増えたからのう…それでも色褪せん良さが、儂だけの良さが…あるんじゃがの~」
「あの…」
「いや、楽器が増えるのが嫌って訳じゃないんじゃ。勿論、いろんな音色があるのはいいことじゃからな。」
「あの、何の御用でしょうか…」
「それにしても、坊主の音色はおどおどしてふらふらして不安になるの~そっちの嬢ちゃんは…静かじゃの。なに、気を落とさんでもまたすぐに奏でられるようになるからの」
「お爺さん、何か用事かしら?」
「人間が裏通りを歩いとったからの。少し気になっただけじゃ。して、何処へ行くんじゃ?」
「海よ。ちょっと探し物をしてて。」
「成る程。その探し物、ちょっと儂も混ぜてくれんか?」
「えっ…それはその…」
「いいわよ。海へ行く道は長いもの。」
「それじゃ、行くかの。」
二人が歩き出す。
「ちょっ、ちょっと待ってよ」
「何かの?」
少女の手を引いて聞いてみる
「いいの?知らないひ…妖だけど…」
「賑やかな方がいいじゃない?それに妖なら旅の助けになってくれるときもあると思うわよ?」
「そっか…確かにそうだね。」
「相談は済んだかの?」
「うわっ!…は、はい、済みました。えっと…これからよろしくお願いします…?」
「ああ、挨拶をしてなかったのう。儂は琵琶牧々。これから宜しく頼むわい」
「私からも、これからよろしくね。琵琶牧々。」
賑やかな妖が、旅のお供になった。
海へ向かう道のりが、少しだけ騒がしくなりそうだった。




