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その後

終わりまで持ってこれました。よかった……。

 

 王妃()と部下へ謝罪し、やっとほっとしたのもつかの間、今度は宰相からのお小言――の比ではない文句――があった。


「まったくあなたという人は我慢を知りませんね! 待てと言ったはずだしお願いもしたはずですけど⁉︎ なのになぜ逮捕に向かわせた部下から相手の意気消沈ぶりを聞くことになっているんでしょうかね⁉︎」


 公爵が部下を犯人たちのもとへ向かわせる前に報告しておこうと思って執務室へ入った早々、セイブル公爵はすでに背後に噴火した火山がみえそうなくらいに怒りのオーラを纏って私へ疑問を投げつけて――投げかけではない、投げつけて――きた。

 彼以外が居なかったので私が来ることを承知で文句を言うために待ち構えていた模様。

 いやだって、もう限界だったから。


「犯人は大人しく捕まったし罪状もはっきりしたしでめでたしじゃないですか、何か問題あります?」


「………っ…、罪状やその後の扱いについて決まったのはあなたが向かって帰ってきたついさっきなんですよ。つまり、あなたが相手方にいろいろやっていた時はまだ無実扱いなんですっ」


「……えっと、だから?」


「…~~っ! …だ、か、ら…! 下手したらあなたの方が家宅侵入に暴行罪で訴えられる可能性があったと言ってるんですよ‼︎」


 なんだ、そんなことか。

 そんなもの最初から想定して覚悟の上でむかった。

 元気が有り余って訴えて来ようものならこちらは揉み消す手段を準備していたさ! この世界で真っ向から勝負なんて考えてない。

 まあ、たぶん私がやらなくてもこの身内には優しい宰相がなんとかしてくれるだろうけど。


「はあー…、あなたが妃殿下から離れている間というのはほんとにろくでもないことばかりやる………。なんで守っている時のように大人しく出来ないのか……」


「守っている時に何かしたら彼女から離れなきゃいけないじゃないですか。それはダメですよ。離れざるを得ない時を利用しないと何も出来ません」


「だから何もするなと言っているんですよ‼︎ こっちだってちゃんと調べて相手を捕まえる準備をしているんですから余計なことしないでほしいんです!」


「え、でもただ捕まえるだけですよね? それじゃあまた何か企んで報復の機会を狙ってくる可能性もあるじゃないですか。なら逮捕の前にとことん追い詰めておいた方が今後の再発防止にもなると思って……」


「それが余計です! 彼らを回収した後の聴取はまともに進んでませんよ! ひとつ尋ねるとその度にビクビクして、やれ財の没収はやめてくれ、地位の剥奪はやめてくれと煩いったらないですよ! いつまでも終わらない!」


 ストレス溜まりまくっているのか、保ってる丁寧口調の後に「あんちくしょうがっ!」と罵倒が聞こえた。

 ………うん、聞かなかったことにする。


「こっちはあんなのを構ってる暇なんてないんですよっ、それこそ確固たる基盤を築いて信用できる臣下を今以上に増やし、より良い政策ができる環境をつくっている最中でまだまだやる事ばかりで半分も出来上がっていないというのに! こんな面倒でくだらないことに頭使わせないでほしいんですよこっちは…! 王は王でやる気無いし!」


 公爵の荒ぶりように口もはさめず聞き入る。

 現在王は政策関係での裁決、制裁対象の選別の有無が溜まりまくっているのでその消化に努めている。が、終わらなさすぎて最近ろくに(シアン)と会話しておらず、やっと時間ができたというときに何を話せばいいのか思いつかなくてポロっと一番話題にするべきじゃなかった私の交代案を、健気にずっと話せる日を待っていた彼女に聞かせてしまったためせっかくの癒しの場(オアシス)極寒零度の地(アイスバーン)と化し、怒れる妻に部屋から追い出されて行き場がなくて泣きながら仕事している状態になっている――らしい。

 それでこの前の癇癪かと私は納得。

 にしても、なにをやってるの国王…。

 相変わらず妻への気遣い方下っ手くそなんだから。なんで久しぶりの会話で真っ先にそのこと話題にしちゃうかなあ………。


「相変わらずのようで…」


 もうそれしか言えない。いつだったか誓った殴ろうって気持ちも失せたよ。


「ええ、相変わらずですよ! 外面を保っているときはまともで仕事もはかどるというのに、身内だけにするとこれだ…………。というか気の置けない者ばかりだからってそんな空気を職場に持ち込むなあのバカッ!」


 おっと、とうとう口調も崩れて本音が出てしまった。


「公爵、本音でてますよ」


 そっと教えてやったら、ハッとした公爵は咳払いで誤魔化して少し冷静になった。


「と、とにかく! こんなことにかかずらっている場合じゃないんですよ。もう処断も決めて通達しましたけど、その時間すら惜しい。もう終わったから次です次」


 もはや名前すら上げないで話を終わらせる公爵の雑ぶりに相当追い込まれているんだなあってことは理解した。


「結局どういう処分にしたんですか?」


 私は彼らを追いつめるために自分の予想を語ったけど、その後の王たちの決めた扱いは知らない。あいつらを覚えておく気はないけど、処分は聞いておこうと思った。


「…チェレン伯爵家当主、及びその娘アリアナ嬢は領地・財産没収、爵位剥奪の上で貴族社会からの追放です。妃殿下を狙っていたら当然ですよね。彼の配下だったラスト男爵は財産没収と5年間の自領への軟禁になりました。なお、男爵は軟禁中は他の貴族と一切の交流禁止を言い渡しました。破れば泣くのは自分です」


 大体思った通りの処断だった。おそらく今頃空を見上げてお先真っ暗な生活を憂いているだろう彼らを想像する。自業自得だけどね。

 その後は公爵からの説教もそこそこに起こる時間がもったいないと執務室から追い出された。

 戻り際通りかかった公爵の配下の担当者が声をかけて、親切に彼らのその後の様子まで教えてくれた。

 曰く、伯爵は身ぐるみ剥がされたように財を持っていかれて空っぽの屋敷でぎゃあぎゃあ喚いていたらしい。「国庫が潤う」と言ってほくほくと回収に行った財務課がとてもいい笑顔だったといらない情報まで知れた。

 令嬢の方は母方に引き取られていったらしいが、もう結婚相手もできないだろう娘は邪魔でしかなかったのか、寺院に送らせたという。

 自分で努力せず、周りの力を使って憤るしかできないやつらには当然の報いだ。


「悪いことはするものじゃないわねー」


「本当ですねー」


 そんな会話を交わして教えてくれた担当者と別れた。

 自分からの仕返しと結末に満足して、女神の待つ宮へと戻って来た。

 中では何事もなかったように安心して微笑む王妃(シアン)と母に抱き着いてキャッキャッと喜ぶ姿を見せる王太子。

 その姿は、ああ、もう、癒される…………。

 なんて和やかかつ美しい光景だろう。

 まるで慈愛の女神がこの世に降り立って彼女を慕う天使を愛でて…………(以下略)とにかく素晴らしい光景です。

 そう、みんなこうやって平和に過ごせばいいのだ。

 無理に悪いことしたって、とっても痛いしっぺ返しがくるだけなのだから。私みたいな許せない人から。


 それからは暫く何も起こらなかったのでいつもの通りに仕事し、時間になれば謁見に来た使者や臣下と王の隣で挨拶を交わす王妃を待ったり、たまに王太子の遊び相手になったり、部下たちの鍛錬に付き合ったり、アスファルと提出用の書類を作成したりして日々を過ごしていった。

 バカが奇襲を予定していた遠出の護衛も何事もなく終わり、新鮮な風景に親子で興奮してはしゃぐ様子に私はもう二人の愛らしさに感動するやら見惚れるやらよだれが出そうになるやら(部下その他からは冷めた視線をもらい)忙しかった。









 …………といったこれまでのことを、目の前に座って落ち込んでいる国王にシアンと共に話して聞かせた。

 場所は私の私室。

 こちらが楽しそうに話すのと比例して、陛下の頭はどんどん下に向いていった。

 気のせいであって欲しいけど、ベソかいてるのか鼻をすする音がする。それを隣のシアンが甲斐甲斐しくハンカチを渡して拭かせている。

 この間片づけて、まだなんとか散らからずにいる私室に何故陛下たちがいるのかといえば、プライベートなおしゃべりがしたいという国王夫妻の提案からだ。

 安全面は私がいるから大丈夫だし、ちゃんとセイブル公爵も付き添っているからなにかあっても誤解を解く証人はいるから大丈夫。いや、なにも起きないし誰も信じないだろうけど、一応。

 そんなことを思ってたらブツブツと陛下がなにかを呟いた。


「う………私はろくに関われてないのに、二人は凄く楽しそうだ…。私もそっちに混ざりたい……」


 謁見の間の威厳溢れる姿はどこにもなく、楽しい行事に自分が混ざれなかったことを拗ねる王。

 情けない、その原因をつくったのは自分だろうに。

 遠出の予定だって、本来なら家族三人で行くことになってたのに団長交代案を聞かせてしまったことでシアンに同行拒否されて仕事する羽目になったのだから。


「なによ、私から姉さんを奪おうとする人のことなんて知りませんわ」


 冷ややかに返すシアンに陛下はただただうなだれてしまう。


「ですからね、陛下。まず夫婦の会話の最初に仕事を持ち出すのがよくないんですって。この子はこれで独占欲強いんだから、もっとベタベタすればいいんですよ」


「ちょっと姉さん、その言い方どうなの?」


「グラナーテ団長、口調崩しすぎですよ! もっと丁寧な言葉遣いを」


「よい、口調などもう慣れた」


「陛下……」


「シアンと話したのは5日ぶりなのだ、この時間を少しでも引き延ばしたい」


 もはや言葉を失った公爵。呆れた様子で紅茶に口をつけ、もう何も言うまいと空気と化した。

 その間にはずむ私たちの会話。


「あの見ているほうが恥ずかしいと思えるバカップルぶりはどこにいったんですか⁉︎ 場所もはばからずに口説き文句言ってたくせに」


「シアンから煩いから止めろと言われてやめた。しかし言いたい気持ちは山ほどあるぞ」


「だから止めさせたのよ。ずっと言われ続けると言葉の重みが薄れるでしょう。煩いだけです」


 溺愛しているのがわかるくらいキリッとした目つきで宣言する陛下。

 しかし当の妻にぴしゃりと流される。

 なぜそこまで言えて機嫌をとることが下手なんだ…とこっちは思って仕方ない。


「我が子の成長話とか、あるでしょう? ほのぼのと話したらよかったんですよ」


「しかし、いざ話すとなると話題が出てこなくてな……スラスラ出てくる仕事のことに逃げてしまって……」


 だからダメなんだよ! と叫びたいのをぐっと抑えて優しく教える。


「夫婦なんですから、仕事の話をするのは普通です。でもそればかりだと何も面白くないから不機嫌になるんですよ。シアンがどんな所にいて何をしてたか報告されてても、本人からも聞くんです。シアンの声を聞き続けることが苦痛なわけないんだから、聞いて反応してあげてください!」


 そうだそうだと言わんばかりに頷くシアン。やはり反応がほしかったようだ。


「う、うむ……努力する」


「あと………、ちょっと、いえだいぶ嫌ですけど、私の話を持ち出しちゃダメですよ。とくに今回みたいな提案ごとは決まってからか絶対に言わないでください」


「ちょっと、姉さん!?」


「だが、身内のことなのだ、気になると思って……」


「気にしますけど、(嬉しいことに)彼女は私と離れたくないともうずっと言ってくれてるんですよ? 陛下だって聞いてるでしょう。そんな人に「大好きな人離してもいいか?」なんて聴いたら部屋だって追い出されますよ」


「す、少し、ヤキモチも浮上して………つい」


((バカかこいつ!))


「バカじゃないの、あなた」


 心の中のツッコミだったのに、隣の公爵とはもった気がした。そして代弁してくれたシアンありがとう。


「夫なのに親族間の仲の良さに嫉妬するって、このお馬鹿! 外面国王!」


「陛下……心が狭すぎます。そして妃殿下、陛下を貶さないでください」


 空気と化すのが限界になった公爵は流石にツッコミを入れて止める。

 なんでプライベートではこうも残念な陛下を見てしまうのか、と私と公爵は知らず溜息をこぼしていた。

 その後も陛下へのダメ出しをシアンが容赦なく続け、ただのダメな夫と尻に敷いた妻の会話を公爵と一緒にまあまあと宥めながら、このいつもの時間を楽しんだ。





 その後も相変わらずな生活が続き、心の底から安堵して二人が寄り添うことができたのは7年の月日が経過してやっとだった。

 邪魔な奴らはすべて排除して、信用の置ける者を集め、各地に配置してからは書類との格闘ばかりでほとんどの邪魔は入ってこなくなった。

 陛下と公爵のキリッとしながらも平和を噛みしめてる顔が面白い。

 そしてシアンも、やっと穏やかな生活を持つことができた。

 オル殿下と陛下と三人でいる時の時間は、それはもう幸せに満ち満ちた顔をしていて、私のシスコン度も高まる一方だ。

 たくさん苦しんだ分、今後末永く妹が幸せであることを祈る。

 そして私も、そのためにこれからも彼女の傍らでその笑顔を守ろう。




終わらせるのって難しい、と実感しました。

違和感を持ってもどうかオブラートに包んで生暖かく見守ってください……。


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