第十章:【音楽】音楽という「きまりのある音」を楽しむ(小1~小3編)
音楽の時間は、裕太にとって少し不思議な時間だった。
みんなは歌を聴くと楽しそうにしたり、しんみりしたりする。
でも裕太には、それがどうして起こるのか分からなかった。
「お父さん、音ってただの音だよね?どうして『いい音』とか『きれい』って感じるの?」
家でリコーダーを手にしながら、裕太は首をかしげた。
純一は、静かにうなずいた。
「いい質問だね、裕太。音楽は『気持ち』で考えると分かりにくい。でも『きまり』で考えると分かりやすいんだよ」
真依も優しく続けた。
「音楽にも、ちゃんと順番やパターンがあるの。裕太にはそこから入る方が合ってると思うよ」
そこに、台所から美佐子ばあちゃんの声が飛んできた。
「ガハハハ!音楽なんてな、“並べ方のコツ”よ!料理と同じだわ!」
さらに、遊びに来ていた梅子ばあちゃんも笑った。
「現場でもね、“感じろ”じゃなくて“手順を教える”のがコツだったよ」
こうして、裕太の音楽の学びが始まった。
■ 音を「並び方のルール」で考える
高野はピアノの前に裕太を座らせた。
「裕太、この鍵盤は順番に並んでいるよね。ド、レ、ミ…これはバラバラじゃない。“決まった並び”なんだ」
裕太は鍵盤を一つずつ押した。
「本当だ…順番に上がっていく」
「そう。この並びを使って音楽は作られている。つまり音楽は“ルールのある並び替え”なんだ」
美佐子ばあちゃんが口をはさんだ。
「カレーだってな、いきなり砂糖ドバッと入れんやろ?順番があるんよ!」
裕太は思わず笑った。
「順番があるなら、分かるかも」
■ 例題①(音の並び)
ド → レ → ミ → ド
「この並び、どんな感じがする?」
裕太は考えた。
「上がって、戻る感じ」
「そう。それが音の動き。これを覚えると、音楽が見えるようになるよ」
■ メロディを「動き」で理解する
真依は紙に簡単な図を書いた。
「音が上がると“ワクワク”、下がると“落ち着く”。こういうパターンがあるの」
裕太は目を輝かせた。
「じゃあ、音楽って“上がる・下がるのゲーム”なんだ!」
梅子ばあちゃんがうなずいた。
「そうそう。いきなり全部感じろって言われても無理だからね。まずは動きを見るのよ」
■ 例題②(メロディの動き)
ミ → ソ → ラ → ソ → ミ
「どう動いてる?」
「上がって、少し上がって、戻って、下がる」
「正解。これがメロディの流れ」
■ リズムは「タイミングのルール」
次に、高野は手を叩いた。
「タン・タン・タン」
「裕太、同じタイミングで叩いてみて」
裕太も手を叩く。
少しずれる。
「難しい…」
「大丈夫。これは“合わせる練習”なんだ」
美佐子ばあちゃんが笑う。
「盆踊りと一緒や!ズレたら気持ち悪いんよ!」
梅子ばあちゃんも続ける。
「現場でも、まずは“同じタイミングで動く”ことからやるのよ」
■ 例題③(リズム)
タン・タン・タン・タン
(同じ速さで手を叩く)
「これができれば、音楽に乗れる」
裕太は何度も繰り返した。
少しずつ、ぴったり合うようになった。
「できた…!」
■ 音楽が「分かる」に変わる
その日の夜。
裕太はリコーダーで簡単な曲を吹いた。
まだぎこちない。
でも止まらなかった。
「お母さん、これ、順番とタイミングでできてる!」
真依は優しく微笑んだ。
「そうだね。裕太のやり方で、ちゃんと分かってきてる」
高野は静かに言った。
「音楽は“感じるもの”でもある。でも裕太は“分かってから楽しむ”タイプなんだ。それでいい」
美佐子ばあちゃんが大笑いした。
「ガハハハ!分かってから楽しむなんて最高やんけ!」
梅子ばあちゃんも頷いた。
「順番が分かれば、安心して楽しめる。それが一番大事だよ」
裕太は小さくうなずいた。
「音楽って、分からないものじゃなかったんだ」
音が、少しだけ好きになった瞬間だった。
裕太はもう、音楽の時間に立ち尽くすことはない。
自分なりのやり方で、音の世界に入っていけるようになっていた。




