第八章:道徳というパズル――気持ちの理由を見つける(小1~小3編)
三年生になると、道徳の授業が始まった。
でも裕太にとって、それはとても難しい時間だった。
■ 「気持ちが分からない」
「このとき、どんな気持ちでしょう?」
その問いに、裕太は止まった。
「……分からない」
同じ場面でも、
悲しくて泣く人もいれば、
嬉しくて泣く人もいる。
「答えが一つじゃないなら、どう考えればいいの?」
■ 真依の気づき
帰り道、真依は裕太の様子を見ていた。
(この子は気持ちが分からないんじゃない)
(“考え方”が分からないんだ)
その夜、食卓でぽつりと聞いた。
「どこが一番困った?」
「……気持ちのところ」
■ 「気持ち」をやめる
それを聞いた高野純一が静かに言った。
「裕太、“気持ちを当てる”のはやめよう」
「え?」
「理由を探すんだ」
■ 例題でやってみる
高野はノートを開いた。
【例題①】
「友だちにおもちゃを取られた」
「何が起きた?」
「取られた」
「じゃあ、そのあとどうなる?」
「……いやな気持ち」
「そう。順番で考えるんだ」
裕太が小さくうなずく。
■ 美佐子ばあちゃんの一言
そこへ美佐子が笑いながら入ってきた。
「ガハハハ!」
「いきなり“気持ち”考えるから分からんのよ!」
「先に“何があったか”でしょ!」
真依も思わず笑った。
「それなら私も分かりやすいかも」
■ 順番で考える
高野がゆっくり書く。
「できごと → 理由 → 気持ち → 行動」
「これが順番だ」
■ 例題②
真依が横から声をかける。
「じゃあ、これでやってみようか」
「友だちにぶつかられた」
① ぶつかられた
② 痛い
③ いやだ
④ 怒る
「……つながってる」
裕太の目が少し明るくなる。
■ 梅子ばあちゃんの話
梅子がうなずいた。
「現場でもね」
「“気持ちが分からない子”じゃないの」
「“順番が飛んでる子”なの」
真依はその言葉にほっとした。
■ 「やさしさ」も同じ
高野が続ける。
「優しさも同じ構造だ」
【例題③】
「友だちが転んだ」
① 転んだ
② 痛そう
③ 心配
④ 助ける
「これが“やさしさ”だ」
「……ルールなんだ」
■ 「うそ」はどうする?
裕太が少し考えて言った。
「でも、正直に言ったらダメなときもあるよね?」
真依がその問いに少し驚いた。
■ 場合で変える
高野が答える。
「全部同じじゃない」
■ 例題④
真依が優しく言う。
「例えばね」
「友だちの絵がちょっと変だったら?」
「どう言う?」
「変って言う?」
「それだと傷つくよね」
「じゃあ?」
「色がきれいだね」
裕太がうなずく。
■ 美佐子ばあちゃんのまとめ
「ガハハハ!」
「正しいことでも、言い方でケンカになるのよ!」
真依はその言葉に救われる思いがした。
■ はじめて分かった
次の日の授業。
「困っている子がいたらどうする?」
裕太は止まらなかった。
「まず、何に困っているかを見ます」
「それから、その部分だけ手伝います」
教室が静かになる。
先生がやさしくうなずいた。
■ 母の気づき
その話を聞いた夜。
真依は胸の奥が温かくなった。
(この子は優しくないんじゃない)
(優しさの“やり方”が分からなかっただけなんだ)
■ まとめ
裕太は、道徳が苦手だった。
でも——
・何が起きたかを見る
・順番で考える
・場合で変える
これで分かるようになった。
「いい?真依ちゃん」
美佐子が言う。
「やさしさってのはね、“気合い”じゃないの」
「やり方よ!」
梅子がうなずく。
「できる子はね、“心が特別”なんじゃないの」
「順番で考えてるだけ」
気持ちは見えない。
でも、理由は見える。
順番で考えれば、優しさは作れる。
裕太は、自分のやり方で、
人の気持ちと向き合えるようになっていった。




