第二章:見えない気持ち――国語という壁の越え方(小1~小3編)
三年生になった頃、裕太に新しい壁が現れた。
国語だった。
物語文になると、手が止まる。
算数はできる。
でも、国語は違った。
■ 「なんとなく」が分からない
ある日の夕方。
裕太は教科書を開いたまま止まっていた。
「……むずかしい」
真依は隣に座る。
「どこがむずかしいの?」
「なんで、この子おこってるのかわかんない」
裕太は、「なんとなく感じる」ということが苦手だった。
曖昧なままでは、頭の中で整理できない。
はっきりした順番や理由がないと、理解につながらないのだ。
■ たとえば、こんな問題
真依は教科書を指さした。
【例題①】
太郎は、楽しみにしていた遠足の日に、朝から雨が降っていました。
「今日の遠足は中止です」と先生が言いました。
太郎はうつむきました。
問題:太郎は、なぜうつむいたのでしょう。
「……わかんない」
裕太はすぐに答えられなかった。
■ 間違ったやり方
「どう思う?気持ちを考えてみて」
そう言われると、裕太は止まる。
考えようとすると、頭が真っ白になる。
長い文章をそのまま頭に入れようとすると、
すぐにいっぱいになってしまうからだった。
■ 「気持ち」はあとでいい
高野が言った。
「裕太、気持ちは当てなくていい」
「え?」
「順番で考えると、最後に出てくる」
ノートに書く。
・何があった?
・どうして?
・そのあとどうした?
■ 例題を分ける
「太郎は何したかった?」
「……遠足いきたかった」
「でもどうなった?」
「……雨ふった」
「そのあと?」
「……中止になった」
「じゃあ、どうなる?」
裕太は少し考える。
「……いやだった」
「そのあと?」
「……うつむく」
「あ……つながった」
■ 答えはこうなる
裕太は書く。
「遠足に行きたかったのに、雨で中止になったから」
「正解」
■ 「気持ち」は結果である
高野は言った。
「怒る、悲しい、うつむく——これは全部“結果”なんだ」
「結果?」
「何かが起きたから、そうなる」
裕太はうなずいた。
「当てるんじゃなくて、つなげるんだ」
■ もう一問やってみる
【例題②】
花子は、大事にしていたえんぴつを友だちに折られてしまいました。
花子は、そのあと何も言いませんでした。
問題:なぜ何も言わなかったのでしょう。
「① 何があった?」
「えんぴつ折られた」
「② どうして?」
「大事だった」
「③ どうなる?」
「……かなしい」
「④ そのあと?」
「……何も言わない」
「答えは?」
「かなしかったから」
■ 長い文章の読み方
それでも長くなると止まる。
「……つかれる」
真依は付箋を渡した。
「途中で止まっていいよ」
「え?」
「次どうなると思う?って書いてみて」
「……またけんかするかも」
書いてから続きを読む。
「あ、ちがった」
「それでいいの」
真依は言った。
「考えながら読むと、頭が止まりにくくなるよ」
■ はじめての「できた」
テストの日。
同じような問題が出た。
裕太は、順番に分けて考えた。
そして、本文に線を引く。
答えを書く。
返ってきたテスト。
丸がついていた。
「……できた」
■ まとめ
裕太は、“人の気持ちをなんとなく読む”ことはできなかった。
でも、“出来事を順番につなげる”ことで、
気持ちを理解できるようになっていった。
「できないんじゃない」
高野は言った。
「やり方が合っていなかっただけだ」
見えなかったものが、少しずつ見えてくる。
曖昧だった世界に、形ができていく。
裕太は、自分のやり方で、
物語の中も歩けるようになっていった。




