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カタルシス  作者: つきたておもち
第7章

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 月島はタクヤからそのような視線を受けても、柔らかな笑顔は崩さなかった。

 彼はタクヤの心の動きをつかんでいるはずだ。それなのに、その応対ということは、その言葉たちは彼の本心、なのか。

 なら。

 本心であれば、タクヤのこの月島に対してとても失礼な勘ぐる思考に、ホンの少しでも苛立ちの感情があっても良いと思うのだが。

 そう思った矢先、月島はその柔らかな笑顔に少し翳りを落とす。そして、けれども、と、

「けれどもそのことは、私としては、」

 月島はそこで口を噤んだ。

 私としては、なんなのだろう。

 何かその続きが語られるのかとタクヤは月島の次に紡がれるであろう言葉に耳を傾けるが、彼は、いえ、と、軽く頭を振る。次いで、ふ、と真顔になり、

「それが、私には面白くない。」

 と、呟くように言葉を落とした。

 月島の言葉の意味が、理解できなかった。

 面白くない、とは?

 やはり偽善になるのであろうタクヤの行動は、月島にとっては腹立だしいものなのか。

 そう思いながらタクヤが見返した先の月島は、真顔から一転して、元の柔らかな表情だった。

 本心を、その表情の下に隠したのか。隠しているのだろうか。

 疑念。

 彼は、カウンセラーという職業人だ、ということがタクヤの頭の中でなぜか強調されてしまい、ゆえに、今は、タクヤは彼の何もかもをまるっと信じ飲み込むことが、できない。

 否。

 できないのではなく、タクヤは怖いのだ。

 月島を信頼している。これは揺らいではいない、タクヤの中にある感情。

 彼らの役に立ちたい。この気持ちも変わらずタクヤの中に、強くある。

 だからこそ。

 タクヤは彼らから否定されることが、怖い。

 しかし彼は、カウンセラーといった職業人ゆえに、彼のその本音を上手く隠す術、つまり第三者に覚られないような方法を身につけているのではないか。月島がタクヤに見せるカオは、彼の計算下によるものではないか、と思ってしまう。そう思ってしまうからこそ、彼らからタクヤが要らない人物だと評価が下っていたとしても、彼、彼らはそれを上手く隠してタクヤと接するに違いがない、と考えてしまう。

 ここは。

 この月島の診察室は。

 いつしか、タクヤにとって居心地が良い場所となってしまっていた。この場に通うことがタクヤの、今の生活の一部となっている、と言っても言い過ぎではない。

 月島の診察室に訪ない、橘が淹れてくれる紅茶、月島がドリップしてくれる珈琲のもてなしを受けることを心待ちにしている自分がいた。

 それがなぜなのか、どうしてこの診察室の雰囲気が心地が良い、と、そう感じてしまうのか、タクヤはわからない。

 居心地が良く、またこの部屋を訪ねたいと思ってしまうのは、この部屋がなんとなく、穏やかな雰囲気がいつもあるからか。タクヤがこの場所がそのように穏やかな雰囲気だと受け止めてしまうのは、この部屋の主である月島への信頼度が高いからか。

 また、タクヤがこの部屋に立ち寄るたびに月島がタクヤに向けて放つ言葉たちによって、タクヤ自身が肯定感を得られるからか。

 自分は、求められる存在だと、この場にいても良いのだといったポジティブな感覚に包まれる空間だからか。

 けれども。

 今は。

 タクヤは、月島が時折見せてくるカウンセラーのカオに対して、最初の頃のような好意的な感情があまり持てなくなってきているようだった。なぜならそれは、彼のウソ、ではないが、ホントウでもないことに徐々に気づいてきたからだ。

 彼はタクヤに対して、仲間だと言いながら、友人だと認めていると言いながら、全てをさらけ出していない。

 とは言っても、そもそも他人に対して、それが家族であろうとも、己の全てをさらけ出すなんてことはできないし、無理な話だとタクヤは理解している。タクヤ自身もそのようなことを要求されても、困るだけだし、できはしない。

 だから、月島へのそのようなタクヤの要求は、土台無理な話だとわかってはいる。そのようなことを要求すること自体、子どものすることであり、青臭い話だ。

 ただ、せめて、橘に見せているモノくらい、そろそろタクヤに見せてくれても良いのではないか、といった不満が心の奥底にあることに、タクヤは今、この場で気づいた。

 …それこそ、子ども、だ。独占欲と類似した感情。

 赤面する話。

 そこまでの思考に辿り着いたタクヤが、思わずうつむいてしまったタイミングで、

「永良さんは、自分は消えたい、と。自分を消したいと思っていますか?」

 不意の問い。

 その問いにタクヤは反射的に、

「いいえ。」

 と、大きく首を横に振り、否定していた。己が消えたいか、消したいか。は、無い。

 自己嫌悪や、自己への否定感は有り余るほどあるが、だからといって自分が消えたいとか消したいとかは、これまでも、今も、無い。

 ただ単純に誰かの役に立っていると思われたい。役に立っているのだと、この場にいても良いのだと、思いたい。

 その誰かは今までは、またこれからも友人や同僚ではあるが、今はその中に月島や橘が居る。

 つまり、そういうことなのだろう。

 タクヤの否定に月島は、

「なら良かったです。」

 と、爽やかな笑顔を見せる。

 ソレはカウンセラーのカオ。月島のホントウがその下に隠された、カウンセラーという職業人の、カオ。

 月島のその表情に、少しの不満がタクヤの心の中で顔を出そうかといったタイミングで、

「これだけは信じてください。」

 と、月島が、

「私は『永良タクヤ』さんとは、これからも関わりを持ちたい、と、そう願っています。友人でありたい、と思っています。」

 と、不意に砕けた笑顔を見せた。

 その笑顔のまま、だから、と、

「明日以降も永良さんにお願いはしたい。また、診察室に来ていただけますか。」


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