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カタルシス  作者: つきたておもち
第7章

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「僕、ヘン、ですか?」

 そのように月島へ返したタクヤへ、

「まぁ、それだけではなく、」

 と、いったん言葉を区切り、軽く目を伏せたが、その視線を上げタクヤを改めて見ると、

「永良さんは『彼』に自分を重ね合わせていましたしね。」

 苦笑。

 月島の言葉、その表情から、月島には『彼』に対するタクヤの心の動きが知られてしまっていたようだ。

「それと、」

 と、月島が何かを言いかけようとしたその時、橘が、

「永良さん、少し落ち着いたようですが、まだ、『彼』と完全に切れていません。紅茶は、今回は効かないようです、センセ。」

 小さなため息と共に、意味深な科白を吐いた。

 彼女の科白から汲み取れるのは、つまり、タクヤはまだ『彼』と同調したままだということか。

 けれども、確か、橘の紅茶の効能は。

「僕は、橘さんの紅茶の効果は、第三者との深層に繋がりやすくなるためのアイテムだと聞いていましたが?」

 最初に月島や橘から聞かされた橘の紅茶の効能についてと、今回の橘の科白には矛盾がある。最初に聞かされた橘が淹れる紅茶の効能は、対象者の深層に繋がりやすくなる、といったことだった。だから、タクヤはそれを聞かされた当初は、月島の診察室で提供される飲食について、疑念を抱き素直に口にできなくなった。それは、とても失礼な行為だとわかりながらも、口にすることをためらってしまっていた。

 訊ねたタクヤへ、橘はふわふわとした雰囲気ながらも、若干の呆れたような表情を浮かべ、

「今回の紅茶も、ジンジャーティーです。」

 と、タクヤが手にしているカップを指す。

「これは身体を暖め、深層で影響をその身に受けてしまった闇を洗い流すためのものです。洗い流す、ということは、同調を切る、ということに繋がります。だから、前回もジンジャーティーをお出ししたのです。前回はうまく切れたのに。」

 小さなため息。

「コトネさん。今回は仕方がありません。」

 そこに月島が、

「永良さんは『彼』に自分を重ねていましたし。それに私が、永良さんが第三者との親和性が高いことを、失念していました。」

 申し訳ない、と謝ると、彼は目蓋を閉じた。

 とたん。

 タクヤの中に、何かが戻ってきた感覚が、した。

 心が、何となく実態が伴ったような気がする。強いて言えば、()()になった感じ、だ。

 先ほどまでの状態が、重い、昏い、といった感覚はなかった。けれども今は、先ほどまでタクヤの心は少し重く、薄暗かったのだといった感覚が、ある。

 そして、自分の半分が帰ってきて、本来の『永良タクヤ』に戻った。そのような感覚。感触。

「『彼』の中に残っていた永良さんの残滓を連れ戻してきました。」

 そう言いながら目蓋を開けた彼の瞳は一瞬、銀色、だった。けれどもそれはホンの一瞬で、直ぐに本来の薄茶色の瞳に戻っていた。

「永良さん。体調は、どうですか?」

「…軽く、なりました。」

 自分を卑下してしまう気持ちは、正直に言えばまだ残っている。

 否。

 残っている、のではなく、それは、タクヤの中で根付いているものだ。消えることはない。

 けれども、ソレにタクヤ全体が覆われてはいない。ソレは今は、タクヤのコントロール下に収まっている。先ほどまでの重い気持ちはない。

「おそらく、今回の件は永良さんの水晶の力による、作用ですね。永良さんにとっては、副作用、というべきか。」

 タクヤには月島の、わかるようで意味のわからない説明。けれども橘は月島のその言葉に大きく頷いているので、彼女には通じているようだ。

 タクヤの理解が追い付いていないと気づいた橘が、

「永良さんは『彼』に貪られてしまっていたんです。ね、センセ。」

 と、タクヤにわかるように説明をしてくれた。

 ただ、橘のその説明でも、やはりタクヤには理解できない部分がある。

「でも、僕は『彼』とは対面していませんし、『彼』の吐き出す話に耳を傾けていません。」

 そう。『彼』については、『浄化』の対象者としてタクヤが一方的に『彼』を知っているだけだ。『彼』はタクヤのことを一切知らない。橘の説明のような現象が起こるような、『彼』はタクヤの友人や同僚たちとは立っている位置が違う。『彼』とは知人ですら、ない。会話どころか、顔すらも合わせていない。

 タクヤが発した疑問は、『彼』とタクヤの関係性からの疑問。

『彼』とタクヤの関係性は、『彼』からタクヤの持つ水晶の力を貪られてしまう、またはタクヤが与えてしまうようなものでは、決してない。なのに月島や橘は、タクヤの力が『彼』に貪られていたと言う。

「『彼』の深層に降り立った。それが永良さんと『彼』との繋がりになってしまった、ということです。」

 月島がタクヤの疑問に答える。


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