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カタルシス  作者: つきたておもち
第7章

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 だからあのときはタクヤの眼前にガラスの壁があり、タクヤはあの場に降り立ちたくても降り立てなかったのか。橘がタクヤを認識したものの捉えきれなかったのは、その辺りが関係するのだろう。

「ご明察です。」

 月島がタクヤの考えを笑顔で是と答える。

「私は今、『彼』の深層を確かめるために覗いてみました。『彼』は私の診察室で『浄化』を受けていましたし、繋がりやすい状態ですので、その行為自体は難しいものではありませんから。『彼』の状態を確かめた私が下した判断が、大丈夫、だということです。」

 再び、安堵の表情。

 が、すぐに一転し、

「ただ。」

 と、

「『彼』の深層が好転しすぎてしまった理由がわかりません。」

 真顔に変化する。

「コトネさんが指摘したように、永良さんが関係するのだとは考えられますが。」

 月島からタクヤを探るようにまじまじと見つめられ、タクヤは居心地が悪くなってくる。

 周囲の状況や話の流れから、どうもタクヤが原因だということにたどり着きそうだった。

 月島たちの手伝いを、と請われ、また、彼らの役に立つことができればとの考えだったが、タクヤは()()()ここでも役立たず、ということなのだろうか。

 そのような、ネガティブな考えに支配されていく。

「そのようなことは、ないです。永良さんは私にとってはとても必要な方ですし、それにあなたは誰からも必要とされているではないですか。」

 月島からの慰めのような言葉。

 慰めのような、ではない。慰めてもらっている状態だ。タクヤは今、月島の被支援者として月島の眼前に座し、彼はタクヤへカウンセリングを施そうとしている場面になっている。

 そのことに気づいたとたん、タクヤの中で何かが弾けた。

「ソレは、僕が水晶玉を持っているからじゃ、ないですか。」

 反射的にタクヤは強めの口調でそう返していた。

 卑屈でしかない。

 これは月島への、たんなる、言いがかり。

 わかっている。

 月島はタクヤの気持ちに寄り添い、タクヤを肯定してくれている。彼がタクヤの心を読み取れるように、タクヤも月島の動く心を少しだが感じ取れる。

 だから、言える。

 彼は心にもないことを、うわべだけの科白を吐いているのではないということを。

 それでも。

「月島さんも、友人も同僚も、僕が彼らを癒すことのできる水晶を持っているから、僕を必要としている。それは、水晶を持っていなければ『永良タクヤ』は、必要ない、ということですよね。」

 卑屈な言動はタクヤの口から止まることなく、吐いてでる。

『彼』に似て、また『彼』に劣らず、タクヤは自分が、自己肯定感が低いのだということはわかっていた。

 自信がない。

 それは自信の持てる何かを、タクヤは持っていないからだ。

 だから、誰かの役に立ちたい、と他人よりも強く思ってしまうのだと思う。誰かの役に立つことで、存在価値を見いだしているのだと、自覚はある。

 先日、月島から『彼』は自己肯定が低くなってしまっている、と教えられて以降、タクヤは勝手に『彼』に対してシンパシーを抱いていた。自分と『彼』とを重ね合わせてしまっていた。

 先ほどの、受け付けカウンター前の長椅子で月島のコールを静かな佇まいで待っていた『彼』の姿は、タクヤが心の不調に陥り、月島のカウンセリングを受け始めた頃のタクヤの姿と重なっていた。

『彼』は『永良タクヤ』だった。

 ゆえに、『彼』を癒したかった。タクヤの『浄化』の力が少しでも、彼が元気になるための後押しになれば、と願っていた。

 そう願い、今回も『彼』の深層に降り立ち、不完全ながらも『浄化』の風を渡らせるはずだったのだが。

「永良タクヤさん。」

 月島が、ゆっくりと、丁寧な口調でタクヤの名を呼ぶ。

 月島は、タクヤが強い口調で彼に対して否定的な言葉を吐いたことに、不快な表情を見せていない。

 穏やかな気。

 柔らかな色を湛えた、薄茶色の瞳。

 名を呼ばれ、タクヤはその薄茶色の瞳を見る。

「少なくとも、私は『永良タクヤ』さんが必要です。」

 独特の抑揚。ソレは、嫌な感じは今までと同じく、しない。タクヤの荒れていた心が凪いでいく、感覚。

 月島が椅子からゆっくりと立ち上がり、タクヤの前で跪くと、タクヤの手にそっと触れてくる。月島の暖かな手に触れられたとたん、

「月島さん、ごめんなさい。」

 タクヤは謝罪の言葉を()いていた。


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