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非日常へと至るための日常

 湊の涙が怪しく光る──────。

 湊が寝ている間、悠斗は日に日に増す危機感に対して焦りを覚えずには居られなかった。


 「涙が、曇ってやがる」


 じっと目を凝らして見ると見えるような靄。これが示すのはただ一つ、何かが湊を蝕んでいると言うことだ。


 また、つうっと零れ落ちる。このままではいつか大切なモノまでも無くしてしまいそうだ。


 「いくら自分の力を高めるために、泣きたい気持ちをこんな風に使うとはなぁ…」


 自分の弱さを無理矢理でも強みに変える。それは確かに素晴らしいことだろう。ただ、それは本当に正しいことなのだろうか?


 いや、正しさなどは今の湊に取っては関係の無い話ということには他ならない。


 「コイツの場合、仲間なんてモノはまずあり得ないからなぁ。偶然を願う暇があるのならば、必然で全てを塗りつぶしてやろうってか、アホらしい。だが、そんなところがコイツの凄いところでもあるのだがな」


 悠斗が誇らしげに呟いた。


 空はまだ暗礁に乗り上げている。本当の夜明けを求めて少年は仮初めの夜明けへと目覚め始める。




 


 「今日はやけにアイツは静かだったな」


 いつもならば、出かける間までずっと軽口を叩き合っていても可笑しくは無いはずなのだが…?


 そんな事よりも、と湊はプロテインバーを口に咥えながら校舎へと足を向け始めた。


 頭の中では、昨日の出来事を振り替える。


 うん、昨日。昨日!?


 銭湯で番台のおばちゃんと話している際にこっそり充電しておいたスマホを見て見ると、日付が一日進んでいた。


 「ふん、これで焦るたぁハードボイルドの名が泣くぜ。一旦冷静に、ってなれるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 俺は大丈夫、大丈夫と心の中で唱えながら全速力で校舎へと走り始めた。


 


 三十分ほどで校舎に辿り着いた。校門は湊を待ち構えんとばかりに開いていた。


 先生、起こってますよね~。この気合いの入りよう、この学校の先生達への待遇は良いとみた。


 「それよりも、先生に謝らないと。確か職員室はこっちだったはず…」


 慣れない昇降口を通って、二階にある職員室へと向かう。


 居た。


 オマエは私の名前を知らないだろうからわざわざ職員室の外に居てやる、といったオーラを放っている女教師がそこに。見た目は二十代中盤、スタイルは良い。人気のあるタイプだろう。


 と、そうじゃない。先程のオーラに対してこちらは呪力を出しておく。そうすれば頭痛はある程度は収まるだろう。要は気のバランスを保つと言うことだ。


 「おい、八代湊」怒気の籠もった声で話しかけられる。


 「はい、先生」


 「私に何か言うことがあるんじゃあないのか?」


 「はい、ございます。この度は体調不良に加え、連絡を入れないという無断欠席を犯してしまったことに深く反省いたします。また、入学式という大変節目のある出来事に対して私個人の事情で想定外の対応を…」


 もしかして、ワームホールの影響もあったり、無かったり…。


 「分かった。分かったから止めてくれ」。


 何故か困惑したような顔で女教師は僕を制した。


 「君がそれほどまでに反省しているのは分かったから。と言うより、問題はそんな事じゃ無いんだ。土御門家の当主様がこの学校にいることは知っているな。昨日、その方が怪我をしている君を保護したとの連絡が入ってきて…。君が無事に学校に来られたのだから私は何も咎めない」


 少し、先生の雰囲気が和らいだ。先程の怒りは虚勢だったのでは無いか?そんな気持ちが沸き起こるが否やかき消した。


 まだ、この人にも弱みを見せてはいけない。そう強く心に声がするのだ。


 「取り敢えず、校舎を案内するわ。私のツアーを楽しむ気はあるかしら?」


 「勿論」


 「いいわ。じゃあ行きましょう」


 かれこれ30分ほどでツアーが終了した。クラスメイトとなる人たちは昨日のうちにオリエンテーションなどを済ませておいたらしい。


 情報というのは大事だ。自分の立ち位置を再確認し、どのように対応すれば良いのか手掛かりを教えてくれる。


 また、それら以外にも気になることは沢山あった。高坂達のこと、土御門家のこと、そして俺の呪いについてのこと。


 すぐには答えの出る問題では無い。だからといって歩みを止める理由には決して当てはまることは無い。


 一つずつ思考を纏めながら、目的の教室へと向かう。


 「はい、ここが一組。君は窓側の一番後ろの席だね。俗に言う主人公席って所かな?君からは何かそういうモノを感じたのでね?」


 「はい、ありがとうございます」当たり障りの無い返事をする。


 良い先生だ。この先生となら今までとは違う生き方が出来るのかもしれない。


 そう思った矢先、イタズラっぽい声で先生が言った。


 「ところで~、先生的にはお咎め無しと言ったのだけれども、私個人としてはお咎めしても良いのよね?」急に先生が元気になった。


 「はい、勿論です。先生がこれから実行しようとしているのは一人だけ皆の前で自己紹介をしろとのことですよね?いわゆる、罰ゲームという奴ですか」


 ギクッ


 おお!あれよあれよと言ってみたら、ぎっくり腰の音がする。


 「ぎっくり腰の音じゃあ無いわよ!!!どこをどう見たらそんな歳に見えるの!?」


 軒並み好評、と。


 先生、とドア越しに声がする。女子のようだ。


 「あ、丁度良かった。遙花さん、今ここに見えると思う男の子の公開処刑されている姿を取るための準備をしてくれない?」


 「え、嫌ですよ。私は先生の趣味に付き合う暇はないので」


 「と、取り敢えずごゆっくりー」それは無理がある言い方だ。


 逃げやがったあの人。


 「よろしく、遙花さん」取り敢えず普通に挨拶をする。


 「こちらこそよろしく」相手もこちらと同じ感じであった。


 数秒間が開いて、「あのー、どこから聞いてました?」


 均衡を破る一撃。


 「最初から」


 「さっすが。次元が違うね」


 「それは褒め言葉じゃ無いわよ」


 「ところで、当たり障りのないものと、爪痕を残すようなもの、どちらがお好みだい?」


 「宇宙人」


 「え?」


 「宇宙人って言っているでしょう」


 「・・・・・・。」


 「なんとか言いなさいよ」


 「ウン、ソウダネー」


 取り敢えず座ろうか、と言って二人とも席へと座る。


 隣同士だった。


 「これからよろしく。たぶん非日常になれるまでは君にお世話になるかも」


 「何それ。まあ、発表は楽しみにしているわ。頑張ってね?」


 わ~お。女の子って凄いなぁ。上目遣いと最期の一言で心臓がバックバクだ。


 頭痛なんて気にならないほど、湊は遙花のキャラ変わりように開いた顎が塞がらなかった。









 ちなみに、発表は可も無く不可も無くといった感じだったとさ。



 



 


 


 




 


 


 

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