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正しい人生の壊し方part2

 「社、という男が動き出したのよ」

 こちらの反応を楽しむように老婆はぽつりぽつりと語り始めた。


 「彼は私の可愛い孫で、やる事なす事全て上手くいくような子でもあったわ。それで今度は何をやるのかと思えば、化け物退治ですって。あははははははは!!!仮にも陰陽師の跡取りが、()()()()()()の中でよく言われるようなことをしだすとは!!!!天才は考えることが分からないさねぇ」


 「それはお役人としての側面と()()()()()()()()()側面を上手く使い分けて立ち回っているんだろうさ」


 「それで、化け物と言われているアンタは何の罪を犯してあの子に狙われるんだい?」


 もう我慢出来ないと老婆はソワソワとし始めた。


 「あんた、性格悪そうだな。それはさておき、そうだな、とある少女の寵愛を一身に受けたという所か?」


 「それにしては嬉しくなさそうな顔をしているがねぇ」


 あんなモノが本来の愛のはずがない。人に不安定な力を無理矢理押しつけ、自分のモノとする行為が。


 「ところで、アンタは俺よりも呪術の知識がありそうだな。あんたもこの世の神秘によって土御門に嫁入りしたクチか」


 「そうでしょう。最初は驚きましたが、今となっては彼以上の夫は居ませんもの。オマケに選ばれたのは私の運の強さもあるわ」


 「それは強敵だね。さぁ、戦いを始めようか」


 「あんたそんなキャラじゃないだろ」


 「それでは湊さんで、隠形~オン・マリシエイ・ソワカ~」


 「歌番組か!!それよりも相手の目の前でバカ正直に隠形を唱える奴がおるか!!」


 「か~ら~の~、脱出!!」


 「だから脱出と言いながら脱出する奴がおるか!!」


 ツッコミを入れさせる間の隙を逃さず湊は一瞬にして消え失せた。


 「逃げられたか…。おや?」


 床に何か紙が落ちている。


 拾って、それらに目を通してみると


 『いい湯でしたよ。また来ます』とご丁寧に筆で書かれていた。


 「綺麗な字だねぇ、あの人にそっくりだ」


 敵ながら字の綺麗さにうっとりしていると、電話がなった。


 目をやると、そこには愛しい孫の名前が!!


 あっという間に上機嫌担ったと思うと、嬉しそうに話し始めた。


 「ふふん、愛する孫の為ならスマホなんて一瞬で適応しちゃうおばあちゃんで~す」


 「何やら楽しそうだね、おばあちゃん」


 「ええ、もちろん。だって、社ちゃんの予言通りだったのだもの。八代湊がここに来る、って」


 「そうだね、僕の予言に外れはないよ、おばあちゃん」


 「うふふふふ」


 高齢女性に惚気が乗ってきたか…?


 「あ、そうそう。()()()は一瞬にして消えたんだよね?」


 「ええ、そうよ。おばあちゃん、しかとこの目で見ましたから」


 なるほど、と社は思った。


 これは、やり甲斐がありそうだ…。


 


 「情報提供ありがとう、おばあちゃん。健康に気をつけてね、じゃあね」


 ああ、なんって可愛らしいのでしょう。切れ者なのに、キチンと甘え上手。こんなの恋しちゃうに決まっているじゃ無い!!


 「わしゃNTRは認めんぞ」


 「あら~、おはようございます。()()()


いかにもわざとらしいような猫なで声だ。


 「あの子は所詮私たちの、いや、全てに対する模造品じゃ。人生もフィクションの二番煎じが良いところじゃろうか?」


 「ええ、この世界とは異なる空間の情報をベースに彼を設定しております。あ、勿論著作権には気を遣っていますよ?」


 「うん、それでいい。著作権はこの世で何よりも怖い物だからな」


 「それをあなたほどの人がおっしゃいますか?」


 「ははははは、面目ない」


 現土御門家当主の祖父にして、銭湯「湯けむり ~その湯は君を離さない~」の店長である土御門 湊。


 彼は湊について全てを知っているはずだった。


 しかし、驚きを隠さずにはいられないとばかりにこう言った。


 「ところで、あの坊主は化けるぞ、美奈子」


 「ええ、ええ。これは楽しみです。力を蓄えてもう一度私たちと相まみえる瞬間を!!そして、彼の全てが絶望で塗りつぶされていく姿を見るのも!!!」


 なぜ、そのような風に捕らえてしまうのか?やはりこの女と結婚したのは間違いじゃったかの…?


 半ば地球の神秘に関する実験の為に、という体で結婚した二人であったが、今となっては愛情も芽生え、夫婦仲は円満だったはずなのに…。やっぱこの人怖いわ。


 珍しく私に悩みの種が出来るのかと感じた美奈子の夫であった。






 と、そんなことを聞かれているとは露知らずに土御門夫妻は多くの情報を湊に対して与えた。いや、壊すためにわざと与えたのだ。


 あの手紙が式神であることは美奈子の目にも明らかであった。それを利用し、一つ目の絶望への足掛かりへとするために────。







 う、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!


 異空間(ワームホール)へと戻ってきた湊を容赦なく言霊が殴打してゆく。


 手紙を式神とする案は良かったが、隠形の練習不足が裏目に出たのか。それとも、()()()()()()のか。


 手紙というのがそもそも間違いであったのだ。敵がお礼を渡してくると言うだけでも十二分に怪しいのに、わざわざ目に付くような渡し方だ。スタイリッシュさを出そうとした演出のつもりだったが、そのような余裕さえも敵には付け入ることの出来る隙となってしまった。



 術式に介入は予想していたが、ここまでとは…。


 そこで湊は気を失った...はずだった。


 時間の流れを無視して湊は目を覚ました。塞ぎ込んでいる時間は無いという思いが湊を突き動かしたのだ。


 聞きたく、無かった。これから俺が知らなければならないような事がたった一分のうちに破壊された。


 俺の生きる理由がまた一つ減った。


 人は理由によって生きるモノではないと、見知らぬ人はそう言うかもしれないそれでも、俺には理由しか見つからなかった。


 まだ、泣くわけにはいかない。泣いてしまったら、負けだ。


 「なあ、黒い霧のお兄様よ。俺は、…になる」


 ゆっくりとアイツは現れた。


 「オイオイ、何だって?」


 肺にあった空気を全て吐き出す。


 「俺は、罪の簒奪者になる」


 「それは、神の子と言うことか?思い上がるなよ、凡人。オマエが言っているこ」


 それは断じて違う。それだけは否定する。それだけは、言わせない。


 「違う、そうじゃ無い。俺はこの世界を幸せにしたいんだ。例え二番煎じでも良い。俺が死ぬのは、全てを救ってからで良い。じゃなきゃ生まれた意」


 「また意味か?」


 試すような口調。何度目だろうか?俺はそれに対して毎度新鮮な気持ちでこう答える。


 「ああ、生きていればきっと見つかるはずさ、それ以外の大切なモノが。まだ、知らないモノが俺の周りを覆っているけどいつか全部この手で掴み取ってやる」


 いくぞ、と自分に渇を入れる。


 これから唱えるのは、自分をちょっぴり信じてみるためのおまじないだ。


 「オン・シュチュリ・キャラロハ・ウンケン・ソワカ」


 唱える。


 「オン・シュチュリ・キャラロハ・ウンケン・ソワカ」


 それしか出来ない。


 「オン・シュチュリ・キャラロハ・ウンケン・ソワカ」


 俺は生きている。


 「オン・シュチュリ・キャラロハ・ウンケン・ソワカ」


 俺はまだ自分を信じられないけど、


 「オン・シュチュリ・キャラロハ・ウンケン・ソワカ」


 いつか胸を張れるような男になる。


 「オン・シュチュリ・キャラロハ・ウンケン・ソワカ」


 そのためには沢山のモノに拒絶されたとしても歩みを止めては行けない。


 「ねぇ、悠斗。杏奈は、俺を見守っていてくれるかな?」


 震える声で、しかしどこか勇気のある声で尋ねる。


 それに黒い霧はこう返した。


 「当たり前さ。あの呪いは誰のモノだと思っていやがる。うちの可愛い妹だぞ」


 「そうだな。それは心強いな。まだまだ救いたい人が山ほど居るんだ。そして、知らなければならないことも沢山あるし」


 「やっと俺の言う意味が身に染みたのか?湊」


 うん、と湊は目に涙を浮かべながら頷いた。


 「泣かないんじゃないのか?」湊の顔を見て悠斗が可笑しそうに笑う。


 「うるさい。明日からそんな暇ないから、今思いっきり泣くんだよ」


 それに、今日支払った犠牲と対等な程に収穫もキチンと得られたしな、と少し満足げな湊さんであった。


 「そうかい、今夜は赤ちゃんも顔負けな泣き声が響き渡ると思うとゾクゾクするな」


 「一言余計だ」


 世界に一つだけの部屋は今日も賑やかになりそうであった。





  まだ戦いは始まったばかり、次なる出会いが湊達をどのように導くのか。それは()のみぞ知る、とだけ言っておこう。


 


 


 

 


 



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