凶運
怒られることが苦で無くなったのは、いつからだったろうか?湊は眠りにつく前に考えた。先程入ったこの不可思議の空間の中でも、一度思考を始めてしまえばそれ以外の感覚はしっかりと麻痺していく。
「母さんは手紙を読んでどう思うだろうか?」その時が来なければ知りようもないことをまたもぐだぐだと考えている。悩むことが生活の一部になっている。
はあ、とため息をついて思考を現実へと戻す。空気はあるけど、無重力。まるで某猫型ロボットのポケットの中のような空間だった。慣れてしまえば、寝ることも出来るだろう。こういうことは悩まないのにな、と愚痴をこぼす。
正直、自分が何をしているのかさえ怪しくなっていた。所詮、素人の推測だ。当たっているはずが無い。
「家が、恋しい」
自分の都合で抜け出して、勝手に後悔する。何の進歩も無い。それでも、そんな自分を肯定するほか道は無い。鬱屈とした空間に一人閉じこもって、自分の考えを肥大化させるだけの空間なんかぶち壊してしまえば良い。
というか、まずはカラーリングを考えなければ。この色では、息も詰まってしまう。そんな事に気づくのも、もう入ってから30分が経過しての事だった。
「所詮、才能なんて関係ない。行動を起こさなければ、才能があるかどうかも分からない。例え、才能があったとしても自分はコレを扱いきれるかも分からない。才能なんて努力の最低値だ。努力をしなきゃそれを生かせるわけが無い」
もっともっと動かなきゃ。
「俺は才能なんて言う言葉で自分の限界を決めたくねぇんだよ!!!」
傲慢と言われても良い。今はそう考えなければ、行動を起こすのにはもっと時間が掛かるだろう。
考え過ぎるのは悪くない。ただ、たまには考えずに動いてみるの悪くはないのかもしれないな。
こうでもしなければ、落ち落ち眠ることも出来ない。誰か、俺の考えを分かってくれる人が側に居ればなぁ…。
「考えたくなんかない。もっと自由に生きてみたい。全部がわかり合える人なんか居なくてもいい。それでも、誰かと一緒に生きたかった!!!もう一人は嫌なんだよ!!!」
「勝手に一人になってよく言うよ。オマエはもう、家には帰れない。あのふざけたシールも貼った意味が無くなるな。ハハハハハハハハハ!!!まずはベッド無しの生活からだな。よーく、お眠りになってくださいね?ハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」黒い霧は相変わらずうるさかった。
ブチィと湊は現実とのリンクを切断した。
終わりなど無い。絶望はこれからだ。他人だけが幸せの道を歩き始める。
朝は勝手にやって来る。睦は、ベッドの周りに何か異様な気配を感じて目を覚ました。目をやると、「差し押さえ」と描かれている黄色と黒に彩られたシールが周りを埋め尽くしていたのだ!!
「な、なにこれ…」それだけでは終わらなかった。
結人が、いた。
私の目の前で死んでいった幼なじみ、兼私の大切な友人。正直、彼の本当の気持ちを最後まで知ることが出来なかったのが、心残りだったのに。
泣きそうになるのを堪えながら、私は結人の顔に手をやった。
「起きて、結人」
その瞬間、目映い光が結人を包み込んだ。
「うふふ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!やってくれたなぁ、八代 みな、と…」
どうして?と困惑の表情が彼から浮かび上がってくる。
「む、睦!?お、俺ずっと今まで君の事を、あ、後、あの時死んでしまってごめん。あの人と約束したのに…。でも、コレも何かの縁だろうか。次は絶対に君と一緒に────」
言葉が上手く紡げない。その気持ちは私もよく分かる。でも今は、
「あの、さ、取り敢えず服を着てくれない?」
はぁ?と思って周りを見ると、服が辺りに散らばっていた。そ、そうだ、確かアイツが俺をここまで運んできた際に、俺がオマエの服を着るぐらいならば裸で寝てやる!!!みたいなことを言ったっけ…。
取り敢えず、修道服を装着するために十字架に触らなければ…。
俺は首に掛けておいた十字架に手をやるのだが…無い。ない。ん無ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!?
横はに手書きメモがさぞご丁寧に置かれており、嫌な予感がしつつそれを読んでみると
「戦いの中で君の十字架は壊れた。おそらく教会の物だろう。コレがオマエを復活させたのと関係があるのかもしれない。責任を持って俺は、コイツを調べてみる」
ふん、一丁前に言いおって...。
その時、部屋をノックする音が聞こえた。「だ、誰だ!?」
「湊の母です。今朝がた、湊から手紙が届いたの。重要な話があるか、ご飯を食べながらでも話しましょう」
それだけ言うとあの女はドアから離れていった。と、そうだ。服を着るんだった。俺の実力を舐めるなよ、八代湊!!!
両手を結び、祈る。高坂の体は再び光に包まれた。見ると、立派な修道服姿だ。触媒無しでやってのける、即ち俺が修道服であり修道福が俺であるのだ!!!
「こうすれば睦も文句は無いだろう?」
「時間掛かりすぎ!!後、天才過ぎて変態」
「睦になら何を言われてもご褒美になるな」
とまあ、紆余曲折がありながら睦に手を引かれながらダイニングへと向かった。
「さーて、結人ちゃんも来てくれたことだしいただきますをしよっか!!いただきまーす!!」
何故あんなに上機嫌なのだろうか?
「それはね、少しでも暗い話題から目を背けたいと思ったのよ。ご飯を食べるときぐらいはね」
心を読まれた!?む、睦この人は…。
ふりふりとかぶりを振る睦。どうやら睦も経験があったらしい。慣れるしか、ないのか?
「さ、お父さんも食べちゃいましょ、ね?」
目を真っ赤に泣きはらした中年男性が八代湊の母と思われる人の横に座った。多分、父親で間違いないだろう。
「うう、ぐすん。うん、そうだね。いただきます…。」
朝ご飯の様子は普通の家庭、と呼ばれるような感じだった。
羨ましく思った。
「そう、ならあの子の考えは無駄じゃ無かったと言うわけね」
「あなたは…俺の何を知っている!!!」
「全てを。それを踏まえた上で聞いてちょうだい。あなた、家に居候しなさい。勿論、睦ちゃんも含めてね」
は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
幸せが舞い込んでくる。それは誰にも止められない。
彼が不幸となるのならば、天は彼にどんな才能でも与えよう。決して変わることの無いこの事実を彼の目にしかと焼き付けてみせる為に。




