【 14 】
それを聞いた瞬間、僕の心は踊りだしたいぐらいの嬉しさで一杯になった。
「それだよ、それそれ! それが感動なんだってばカッツン! 良かったねー!」
カッツンの手を握り、あらん限りの祝福をする。
だけどこの場の流れに完全に置いてきぼりにされちゃった真柴さんはキョトンとした顔をしていた。
「お二人とも何をそんなに喜んでいらっしゃるのですの?」
「あっ聞いてよ、真柴さんっ! あのね」
「バ、バカ! 余計な事言うな!!」
僕の口を押さえようと慌てたせいでカッツンの肘がディスクの山に勢いよくぶつかった。途端にタワーは盛大な崩壊を引き起こし、数々のDVDソフトが一気に真柴さんの前にまで押し寄せる。
「あら……!?」
目の前に流れ着いたソフトの一つを手にした真柴さんの声が上ずった。
「あなたもこの映画がお好きですのっ!?」
そのパッケージには青い服を着た少女が描かれていた。尋ねられたカッツンが真柴さんの服に目をやる。
「お前のその服、そいつのを真似て作ったんだろ。すぐに分かったよ」
「そうなんですの! だって私、このお話がとっても大好きなんですものっ! だから一生懸命作ったんです!」
「結構よく出来てんじゃん」
自分の服の出来具合を褒められ、真柴さんはとても嬉しそうだ。またほっぺがピンク色になっている。
「えぇ、頑張りましたもの! 完成するまで半月もかかりましたわ!」
「でもスカートの部分はちょっと違うな。そいつのはそこまで広がってねぇだろ」
「フフッ、そこは私のアレンジですわ! お姫様のイメージをこれでもかってばかりに前面に押し出してみましたの!」
「ふぅん。手先が器用なんだなお前」
「はいっ!!」
……あれれ、なんだか勝手に意気投合し始めているなぁ……。よーし! じゃあ最後のお手伝いといきますか!
真柴さんの肩をちょんちょんと二度突っついて注意を僕に向けさせてから「ねぇ真柴さん、その映画を見て感動した?」と聞いてみる。
「えぇもちろんですっ! 初めて見た時なんて感動で号泣しちゃいましたわ!」
「そっかぁー! 感 動 で泣いちゃったんだねー!」
僕がわざと真ん中の言葉に力を入れたのでカッツンはギクリとした表情を見せた。邪魔をされたら困るので急いで次の言葉も言っておく。
「でもね真柴さん、カッツンはこの映画では感動しなかったんだよ?」
「えぇっ!? こんなにステキなお話なのに感動出来なかったのですか!?」
「うん。っていうかこの映画というよりね、カッツンて今まで一度も感動したことがないんだって! だから感動すると体がどういう反応をするのか知らないみたいなんだ」
「まぁ……。つくづくお可哀想な方なのですね……」
真柴さんが哀れみのこもった瞳をカッツンに向ける。
「でも大丈夫! 実はそれはついさっきまでの話ってことになりそうなんだ!」
「だっだから余計なことを言うなよ!」
カッツンが僕に飛び掛ってきた。
でもその行動は完全に想定範囲内だったのであっさりと回避できた。ささっと素早く真柴さんの横に移動し、さっきよりもさらに早口で教えてあげる。
「でも今真柴さんとキスした時に胸が震えたって言ったでしょ? つまり君とキスして初めて感動したんだよ、カッツンは!」
その瞬間から真柴さんの頬の色がさらに綺麗な桃色になる。
「ワタクシとのキスで、ですか……?」
「そうだよ! 無感情なロボットが真柴さんのおかげで人間になれたんだよ! 真柴さんのお姫さまパワーのおかげだよきっと!」
「まぁ……!!」
真柴さんは動揺しているカッツンをしばらく見つめた後、手当てをしてもらった右足首の包帯にそっと手を当てて優しく微笑んだ。それは本当に魅惑的な微笑みだった。
「ワタクシ、あなたの先ほどのご提案を採択させていただくことにいたしますわ!」
「ホント!? じゃあこっちのカッツンを真柴さんの新たな王子さまに正式に任命するってこと!?」
「えぇ! どうぞよろしくお願いいたしますっ勝利さま!!」
青いスカートを揺らし、真柴さんは優雅に一礼した。でも “ 勝利さま ” と呼んで今お辞儀をした相手はもちろんもう僕じゃない。
あーあ、これで僕はもう真柴さんの王子さまじゃなくなったわけだ。
ちょっと寂しい………………けど、これでいい!!
見事、新しい王子になったカッツンはこの急展開にまだパニックになっているらしく、アウアウと言葉にならない声を出している。さて、予想外にこの世界の僕たちも上手くいったことだし、次の世界に行くことにしようっと。
「カッツン、僕もう行くね」
「い、行くって学校へか?」
「ううん。次の世界」
「次の世界ですって……!?」
真柴さんの瞳が輝きだしている。
どうせ信じてもらえないと思ってそのまま言っちゃったけどマズかったかな……。
「そういやお前、さっきも屋上で妙なこと言ってたよな。なんだよその次の世界って」
「えーいいよー。だって話しても信じてくれないと思うし。僕、時間ないんだけど」
「いいから話してみろよ」
「聞きたいですわ! 話して下さいませ!」
うーん、早く先に進みたいんだけどなぁ……。
二人に代わる代わる熱心に言われ、結局またこのパラレル体験の一部始終を最初から説明する羽目になってしまった。




