【 13 】
「カッツン、開けてもいい?」
四つ目の並行世界の僕の家に着いたので、カッツンの代わりに玄関の扉を開けていいか聞いてみる。
するとカッツンは真柴さんを下ろし、「いや俺が開ける」と自分で扉を開けた。でも開かない。鍵がかかっていたからだ。
「もしかして誰もいないんじゃない?」
「みたいだな」
「どうしよう?」
「鍵は持ってる。俺の部屋に行くぞ」
鍵を開けたカッツンは僕らをそのまま自分の部屋に案内してくれた。
この世界の僕の部屋の中にはあちこちにDVDやブルーレイのソフトが積み上げられてある。きっとこれ、みんな映画のソフトなんだろうなぁ。
ひねった足首に湿布と包帯を巻いてもらっている真柴さんもそれらの山をずっとしげしげと見ている。
真柴さんも映画が好きなのかな? だったらカッツンと話が合いそうだね。
「よくもまぁこんなにせっせと集めましたわね……。こちらにあるディスクって全部エッチ関係の作品なのでしょう?」
ぶはっと噴き出したのはもちろんカッツンだ。あ、包帯がころころと転がっていっちゃったよ。
「ちなみにあなた様はどういう傾向のエッチな作品がお好きなのでしょうか? よろしければ教えていただけます?」
「勝手に決め付けんな! そこにあるのは全部映画だ!」
「ですからアダルトな映画ってことですよね?」
「だから違うって言ってんだろ!? そこのパッケージ見てみろよ!」
「では拝見させていただきますわね! ……ふふっ、考えておられますわね北原さま! こうして仰々しく有名映画のタイトルを入れておいて実はその中身は18禁…、というオチなのでしょう? 小細工が凝ってますわね!」
「違う!! 想像力たくましすぎんだろお前!!」
これでもかってなぐらいにまで必死に否定しているカッツン。もうそこにはクラスからロボットなんて呼ばれている面影なんて微塵も感じられないや。なんとなくだけどここの二人もいいコンビになりそうな予感がビシバシと感じられるよ。
実際は何もしていないけどじわりと感じる達成感に浸っていると、真柴さんが「勝利さま?」と今度は僕に話しかけてくる。
「勝利さま、こちらの北原さまは必死に否定なされていますが、普通は男女がくんずほぐれつの艶かしい事をしている生殖活動を撮った作品を暗ーいお部屋にこもってお一人で舐めるようにご鑑賞なさることが、男性の皆さま共通のご趣味なのですよねっ?」
うー……なんて答えればいいのでしょうか……。
「勝利さまはエッチな作品をご覧になったことあります?」
「ちょっとならあるよ」
「ですよねーっ!! ですからワタクシの認識は間違っておりませんよね!?」
「うん、そこまではっきり言われると確かに否定出来ないかな……」
「否定しろっ!」
とカッツンに思いっきり叱られてしまった。
えぇーっ、ここで一人だけいい子ぶるのってズルくない!? 見ようと思ったら雑誌とかネットとかでだっていくらでも見られるじゃん! 今まで一度も観たことないなんて言わせないよ!
「じゃあさ、カッツンはそーいうのを今までまったく見たことないっていうの?」
「なっ、ないっ!」
「えー本当にー? 嘘ついてないー?」
「ついてない!!」
「いいえっ絶対にウソですわっ! エッチな作品のご鑑賞経験が一切無いなんてどう考えてもおかしいですっ! 少なくともご本くらいはお持ちになっているはずです! 北原さまっ、ご覧になったこと、本当はございますわよね!?」
「ねぇカッツン、ちょっとぐらいならホントはあるでしょ!? 素直になったほうがいいよ!」
「う……」
僕ら二人から同時に問い詰められ、カッツンの顔が少し引きつり始めている。
「ほーら、そのお顔! ウソがつけない性格なのですね!」
真柴さんはなぜか嬉しそうに微笑み、パン、と胸の前で両手を合わせると、またしてもとんでもない事を言い出してきた。
「ワタクシ、是非一度エッチな作品を最初から最後まで通して観てみたかったんですの! 今見せて下さいな!」
「ぶはっ!」
今度は僕とカッツンで同時に噴き出す。
「ここにあるのが全部そうなのですよね? どうせでしたら北原さまのコレクションの中で一番再生回数の多いお気に入り作品が観たいですわ!」
「だからそれは全部映画だ! 疑うならそこのデッキに差し込んでみりゃわかる!」
「ではコレクションはどこにございますの? 人目のつく場所に野ざらしにはしないタイプなのならば、人目につきにくい所にお隠しになっているということですわよね! オーソドックスにベッドの下とかでしょうか?」
挫いた足を庇いながら立ち上がり、カッツンのベッドにちょこちょこと近づき始める真柴さん。
大慌てで立ち上がり、「かっ勝手に家捜しすんな!!」とすかさずベッド下のガードに入るカッツン。
この慌てぶりだと本当にベッドの下になんらかのお宝が隠してあるのかもしれない。
「ケチケチなさらないで見せて下さいな! ワタクシ前から一度見てみたかったんです! 噂によるとそういうエッチ作品って、一見ストーリーがありそうに見えて実は支離滅裂、っていうパターンが多いそうですわね! 破たんしているストーリーにすごく興味ありますわ!」
「どこから得た情報だよ!? そんなものここには無い!」
「ウソですわ! そんなにムキになられるところを見るとやはりそのベッドの下にエッチ関係の作品がおありになるのは間違いないですわね! さぁ北原さまおとなしくそこをどいてくださいませ! 捜索させていただきます!」
真柴さんがさらに詰め寄る。
それを後ろで見ていた僕はあっ、と声を出した。挫いた足に思わず力が入ってしまったのか、真柴さんがまたバランスを崩したのだ。
「うわっ!?」
とっさのことで勢いよく倒れこんできた真柴さんを受け止めきれなかったカッツンが後ろに倒れる。でもカッツンの後ろはベッドだから安全だ。
ドサリ、とベッドに上半身を倒れこませた二人はなぜかそのまま動かずに固まっていた。……あれ、全然動かないや。どうしたんだろう。
不思議に思った僕が位置を変えて二人を見てみると、カッツンと真柴さんはこのアクシデントで顔と顔が完全に接触していて……ぶっちゃけキスしちゃってるってことです。
いやホントにビックリ。オドロキモモノキ状態だ。
……と言いつつ、僕と真柴さんのキスシーンを第三者的な立場で見るのはこれで二回目だから驚きつつも意外と冷静な僕。そういえばひとつ前の並行世界で僕も真柴さんと実体験もしているしなぁ。
「ワ、ワタクシ……」
体の硬直が解け、カッツンの上から身を起こした真柴さんがわなわなと声を震わせる。
「ヒ、ヒドイですぅ――――!」
と絶叫した。
同じくベッドから身を起こしたカッツンは唖然としている。僕もだけど。
「ひどいってどういうことだよ?」
「だってワタクシのファーストキスは王子様に捧げるって決めていたのですのよ!? どうしてくれるんですか!?」
僕とカッツンはお互い顔を見合わせる。あ、カッツン顔赤くなってるや。
「……もしかして俺のせいなわけか?」
「うん、カッツンのせいだろうね」
とアッサリ肯定する僕。
「い、今のは不可抗力だろ!?」
「でもさ、女の子にとってファーストキスってかなり重要らしいよー? それをアクシデントとはいえ、君が真柴さんの最初のキスの相手になっちゃったからね。足のケガは僕のせいだけど今の件はカッツンに責任が発生すると思うなぁ」
「そうですわ! しっかりと責任をお取りいただきたいですわ!」
「ど、どう責任取ればいいんだよ?」
「今から五分前に時間を戻して下さいませ!」
映画じゃあるまいしできるかよ、と渋い顔でカッツンが答える。
よーし! 来た来た来ました――!! ここで僕の出番だね!!
「真柴さん、時間を戻すよりもすっごくいい解決方法があるよ! こっちの勝利をあらたな君の王子さまにすればいいんだよ! それなら今のファーストキスもちゃーんと意味のあるものになると思うんだけどどうかな!?」
「なっ、なにぃ!?」
焦った声を出すカッツン。その顔、面白ーいっ!!
「ねぇカッツン! 今の君……っていうか、真柴さんと会ってからの君ってさ、とてもロボットとは思えないぐらいくるくる表情が変わってるよー? 見ていて面白すぎるんだけど?」
「勝利さま、お話し中すみません。その “ ロボット ” ってなんですの?」
「あのね、こっちの勝利はいつも無表情でぜんぜん感情を表に出さないから、クラスの皆から冷血ロボットってあだ名をつけられているんだって!」
「まぁ……お可哀そうに」
「でももう大丈夫だと思うよ。だって真柴さんに会ってからその仮面がどんどん剥がれてきてるんだもん。カッツン自身もとっくに気付いていると思うんだけどなぁ。そうだろ?」
そう言いながらカッツンに目を向けるとまだ顔の赤みが取れない元・ロボットは少しだけ顔を背けた。
「……おい、お前さっき言ってたよな」
「何を?」
「感動すると鳩尾や食道や心臓が痛くなるって」
「あっ、もしかして今ので痛くなったの!?」
「いや」
カッツンはためらいがちに視線を僕に戻し、ゆっくりと言った。
「……震えた、…………ような気がする」




