【 11 】
―― そして運命の結果発表。
うん、僕はカッツンのお弟子さんや信者になることはできなさそうです。
真柴さんが自分の顔の上からいなくなり、地面から青い空を見上げているもう一人の僕。
可愛いお人形さんを受け止めようと伸ばした両手は天に向けて掲げられたままだ。
その目には空の青さが映っているけど、さっき屋上にいる時と違って全然冷たさを感じない。
だって今のカッツンは真っ赤な顔で呆然としているからね。
そうだよねー、あの光景を間近で見ただけの僕でもあれだけの強烈なディープインパクトだったのにさ、君はそれにプラスして顔面でそれを実際に体感したんだもんねー。
……………………いいなぁ…………。
さて、またどす黒い気持ちが湧いてきちゃったら大変だ。うじうじと羨むのはこれぐらいにして、カッツンを正気に戻してあげようっと!
「おーい、生きてますかぁー?」
左肩を掴んでぐらぐらと揺さぶってやる。見上げる視界に僕の顔が入ったせいか、カッツンはやっと自分を取り戻した。
「い、今の……は……!?」
あーあ、今の君はまるでこの真っ青な上空の水槽から落ちてきた酸欠金魚だね。そんなに何度も口をパクパクさせているのに出てきた言葉はたったそれだけ?
普段はクールなロボット金魚もさすがに今の光景には度肝を抜かれたみたいだ。
そこで真柴さんには聞こえないようにカッツンの耳元に口を寄せ、小声でそっと祝福の言葉を贈ってみた。
「カッツン、君は今 ≪ 幻の蒼い楽園 ≫ を見たんだよっ」
僕の言葉を聞いたカッツンが顔をこちらに向ける。その表情は説明しずらい不思議な表情だった。
「幻の青い楽園………?」
「うん! だって青かったでしょ?」
「なんでお前がこいつの下着の色を知ってるんだ……?」
「だって僕も見ちゃったんだもん。君と同じでアクシデントでだけどね」
「…………」
カッツンはまた上空に視線を戻す。何かを考えているようだ。そんな僕らの耳にしくしくと泣き声が聞こえてくる。真柴さんの泣き声だ。
「……うっ……うっ……勝利さまが他の女に思いを寄せていらっしゃるなんて……。ここまではっきりと断られてしまったらワタクシがいくらお慕いしてもきっとムダなのでしょうね……。あぁワタクシは勝利さまのお嫁さまにはなれないのですね…………」
あっちのフォローを忘れてたー!!
また地面に座り込んでしまっている真柴さんに急いで駆け寄り、彼女の前にバッとひざまずく。
「ごっごめんね真柴さん! 泣かないで! きっと僕以外の本当の王子さまがやがて現れるから!」
「気休めは結構でございます!! ワタクシのことはもう放っておいて下さいませ!! せっかく出会えた王子さまに見捨てられるなんて姫の資格はございませんもの!! もうワタクシのプリンセス人生はここで終わったのですわ!!」
ウワーンと大声で泣き出す真柴さん。困ったなぁ……。はつらつタイプの真柴さんに号泣されて困り果てていたカツの気持ちが今はすごくよく分かる。
それにそろそろ体育の授業も終わっちゃう頃だし、こんなところで真柴さんを泣かせていてしかも僕が二人いる光景を見たら、グラウンドから戻ってくるクラスメイトも驚いちゃうよ。早くここから撤退しなくっちゃ。
「真柴さん。こんなところで泣いてたらあれだからあっちに行こ? ね?」
「放っておいて下さいませ!」
立ち上がらせようとした手を払われてしまった。
うーん、どうしよう……。乱暴なことは大嫌いだけどここは少々強引でも真柴さんを連れてとりあえず学校から離れた方がよさそうだ。
そう判断した僕は真柴さんを抱き上げようと、その背中に左手を置き、広がったスカートの中にある両膝の下に右手を差し込んだ。何も言わずにいきなりだったせいか、驚いた真柴さんは甲高い声を上げる。
「なにをなさるおつもりでございますのッ!? ハレンチさんが再発生ですわッ!」
「えぇっ!? 僕またハレンチさんになっちゃったの!?」
「至極当然ですわ! だって勝利さまはもうワタクシの王子様ではないのでしょう!? でしたらハレンチさんに早速カムバックでございますわ!」
うわぁ…………。またそんな人権侵害もどきの悲惨なニックネームをつけられて超ショックです。でも今はそんな些細な事に落ち込んでいる暇は無いよね。
「じゃっ、じゃあさ真柴さん、とりあえず立とう? せっかくの可愛い服が汚れちゃうよ?」
この言葉は予想以上に効果テキメンだった。
お気に入りの青い服がとっても大切らしい真柴さんが急いで立ちあがる……と思ったら、僕の胸にぐらりと倒れ掛かってきた。
「だっ大丈夫!? どうかした?」と言った直後に彼女の右足がつま先しか地面についていないことに気付く。そうか、足を挫いちゃったんだね……。きっと門柱から落ちた時に捻っちゃったんだ。
「足、挫ちゃったんでしょ?」
僕の問いかけに片足一本立ちフラミンゴ状態で小さく頷く真柴さん。
「ね、一旦君の家に戻ろう? 真柴さん、まだ制服着ていないしさ、その足、手当した方がいいと思うんだ。痛い? 歩けない?」
「……いえ、少し支えていただければ大丈夫ですわ」
「じゃあ僕が支えるよ。そっちの足に負担がかからないようにできるだけ僕に体重預けるようにして歩いてね」
真柴さんは曇った表情だったけど、僕が腕を差し出すとそこにおとなしくつかまった。よし急いでここを離れよう!
だけど真柴さんを支えてあげながら校門を出ようとしたところで急に後ろからぐいっとかなり強引に肩を引っ張られた。
「な、なに!?」
「……俺がやる」
振り返るとまだわずかに赤い顔の酸欠金魚がいつの間にか地面から立ち上がっていて、僕の右肩を痛いぐらいにがっちりとつかんでいた。




