【 3 】
「さぁ、どうぞ勝利さま」
好きな女の子の家の中に入るなんて初めての経験だ。「お、お邪魔します……」と言い、玄関で靴を脱ぐ。
「真柴さん、お家の人は……?」
「皆さんお仕事に行かれておりますわ。さ、こちらです」
この世界の真柴さんのご両親も共働きらしい。そして青いワンピース姿の真柴さんの後ろをついて歩き出した時、僕はすごい疑問を思いついた。
「真柴さん、学校に行かないでなんであの空き地にいたの?」
……真柴さんが制服を着ていないことに今頃気付いた僕も僕だけど。 たぶん最初に出会った時のあの光景がすごすぎてそこまで頭が回らなかったんだろうなぁ。
「だって昨日は雨だったでしょう? 雨の次の日がいいお天気だと王子さまと出会える確立がグンと高まるんです!」
「な、なんで?」
「雨が降ると上空に浮いているスモッグとか塵とか埃がみんな洗い流されますよね? 空気が綺麗に浄化されて澄み渡ると王子さまがワタクシを見つけやすくなりますから! それにあの空き地の草ってとっても長いでしょう? なんだか金の草原みたいじゃありません? あの草原を歩いたら王子様がワタクシを見つけてくれそうな気がして、あの壁の場所から歩き出そうとしていたんです! そうしたら勝利さまがあの運命の輪から現れたのですわ!」
…………うん、聞くだけムダだった。どうやらあの場所で何かの映画のラストシーンを真似ようとしていたらしい。その真っ青な服にもきっと意味があるんだね。
「勝利さま。こちらにおかけになって下さいませ」
ダイニングキッチンにある食卓テーブルに座らされる。真柴さんは可愛らしくハミングをしながら冷蔵庫から食材を出して何かをせっせと作り始めた。
真柴さんの手料理かー。どんなのを作ってくれるんだろうなぁ。
白のフリルのついたエプロンをつけた真柴さんの後姿を食卓テーブルから頬杖をついて眺める。
あー、脚細いなぁー。真っ白な肌してるなぁー。
膝小僧の裏側のくぼんだ部分を見ているとなんだかちょっぴり興奮してくる。はっきり言って丸一日眺めていられる自信があるよ。
「あの、勝利さま?」
真柴さんがいきなり振り向いたので後ろ姿を穴の開くほど眺めていた僕とバッチリ目が合ってしまった。慌てて視線を逸らしたけど、ものすごい熱い視線でじーっと見ていたのはバレバレだった。
ずっと見られていたことを知った真柴さんは頬を染めて急いでまたキッチンに向き直る。
ハミングが流れていたダイニングは一気にシーンとした空気になってしまった。あーあ、気まずくなっちゃった……。
真柴さんはその後、一度も喋らず、ハミングもせず、ひたすら一生懸命に何かを作っていた。
僕も真柴さんに熱視線を注ぐのは止めて、冷蔵庫にマグネットクリップで留められている近所のスーパーの広告チラシなんかにおとなしく目をやったりして暇を潰す。
真柴さんは一体何を作ってくれてるんだろう……。あぁ、お腹が空いた。
そして約四十分後。
やっと「出来ました!」と待ちかねた声がして僕の前に真柴さんの手料理が運ばれてくる。黒のお盆がトンと目の前に置かれ、土鍋とレンゲが目に入ってきたけどこれはもしかして…………?
……おかゆ? これはおかゆだよね、真柴さん?
「さぁ勝利さま、たんとお食べ下さいな」
うーん、僕、病人じゃないんだけどな……。それともそんなにげっそりとした顔でもしていたのかな。
でもせっかく真柴さんが一生懸命作ってくれたんだし、何よりもお腹が空いている。ありがたくいただくことにした。
レンゲを手に取る。
うわ、土鍋もレンゲもピンク色だ! こんな色のレンゲなんて売ってるんだなぁ……。とってもファンシーな朝ごはん(本当は昼ごはんだけど)になりそうだ。
真柴さんが不安そうな顔で僕を見ている中、レンゲでおかゆを一口分掬い、食べてみる。
…………美味しい!
ビックリした。
不思議系の真柴さんが作ったので実はある程度覚悟して口の中に入れたんだけど、そんな決意をしていたのがバカらしくなるくらいとびっきり美味しいおかゆだった。
「ど、どうですか、勝利さま……?」
「すっごく美味しい! こんな美味しいおかゆ食べたの初めてだよ」
「良かったですわ……」
胸を押さえてホッとしている真柴さん。でも本当に美味しい。ただの白米だけのおかゆじゃなくて、鳥ささ身とか、ほうれん草とか、貝柱とかが色んな具が入っているので複雑な味のハーモニーがする。上にトロッと軽くかけた醤油風味のあんが更に美味しさを引き立てている感じだ。ここの真柴さんて料理が上手いんだなー。
あんまり美味しくて最後まで黙々と食べてしまった。向かいに座った真柴さんはそんな僕をずっとニコニコと眺めていた。 とびっきりの、最上級の笑顔で。




